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光に溶けた呪い④

 

「バネッサ、やめろ! この術は扱いを誤れば、お前の命が――!」

「知っているわ!」


 叫びながら、バネッサの身体が闇の光に包まれる。瘴気が渦を巻き、魔法陣の中心で黒い火花が爆ぜた。

 エリオットがエミリアに駆け寄る。


「エミリア様、離れてください!」


 彼がエミリアを庇うように腕を広げたその瞬間、黒い光が天井を突き抜け、封印の符が破裂した。

 轟音とともに、地下全体が震える。

 エミリアの瞳が光に覆われる中、かすかにレオナールの声が響いた。


「……兄上、覚悟はあるのか」


 ルーベンが彼のほうを見る。


「なにを――」

「自らの罪を清める覚悟だ」


 その瞬間、魔法陣の中心が崩れ、黒と白の光がぶつかり合った。風が咆哮し、地下礼拝堂はまるで生き物のように震えはじめる。轟音が、地の底から這い上がるように響いた。

 光と闇がぶつかり合い、礼拝堂の石壁が軋む。燭台が砕け、床に描かれた魔法陣が崩れながらも、なお脈打つように輝いていた。

 バネッサの身体が宙に浮かぶ。黒い髪が炎のように揺れ、狂気に染まった瞳はかっと見開かれていた。


「これが……力! 神に背を向けた力よ! 私は世界を変える女王になるのよ!」


 叫びながら、彼女の腕が震える。だが、その皮膚はすでに黒い霧のようなものに覆われ、まるで闇そのものが体内から滲み出ているかのようだった。


「やめろ、バネッサ! それ以上は――!」


 ルーベンが叫んで駆け寄る。だが瘴気が壁のように押し返し、彼を遠ざけた。

 それでも彼は足を止めない。血の涙を流すような顔で、王冠を頭から外し、地に叩きつけた。


「……私の罪が、この国を、そしてお前を狂わせたのなら……!」


 彼は震える手で剣を抜き、刃を胸に突きつけた。


「陛下! なにをするおつもりですか!!」


 エミリアの叫びが空しく響く。


「せめて我が命を贄にして、終わらせてやる!」


 その瞬間、レオナールが動いた。


「兄上、待て――!」


 駆け寄ろうとするも、魔法陣の境界が激しく輝き、空気が裂ける。瘴気と光の奔流が彼の体を押し返す。


「すまなかった、レオナール……」


 振り返ったルーベンが微笑んだ直後、剣が胸を貫いた。

 血が魔法陣に滴り落ち、赤い光が一気に走る。

 バネッサの悲鳴が響き、その体から黒い霧が吹き出す。それは暴風となって礼拝堂を吹き荒れ、天井を貫き、夜空へと散っていく。


「いや……いやあああっ!」


 バネッサの体が光に呑まれる。もがく腕が空を掴むように宙を舞い、次の瞬間、光が弾け、彼女の体ごと宙へ消えた。バネッサの残した呪詛の残響が、風の中に溶けていく。

 残されたのは崩れた祭壇と、静かに倒れ伏すルーベンの体だった。


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