彩りに満ちた世界⑤
(どんな宮殿の光よりも美しいだなんて……)
その言葉は、ただの褒め言葉ではないと知っている。
彼が見ているのは外見の華やかさでは、きっとない。この城でともに過ごした時間も含めて美しいと言ってくれているのだろう。
老婦人は最後に裾の長さを測り、すべてを終えた。
「七日ほどで仕上がると思いますので」
「ありがとう」
レオナールが穏やかに告げると、老婦人は深く礼をして部屋をあとにした。
残されたのはエミリアとレオナールのふたり。セルジュとカーリンも静かに退室し、部屋に優しい沈黙が落ちる。
「レオナール様、先ほどのお言葉、うれしかったです」
素直な気持ちを伝えたくてエミリアが椅子の前に跪くと、レオナールは目を細めた。
「うれしいのは私のほうだ」
意味がわからず首を傾げる。
「この地でキミが笑っている。それだけで冬を越えた意味がある」
しわがれた声の中にかすかな震えがあった。
それは疲れでも老いでもなく、誰かの幸せを願う、優しさの震えに思えた。
エミリアはそれを受け止め、そっと微笑む。
「レオナール様……」
呼ぶ声が自然とやわらかくなる。
彼の顔に刻まれた皺は、春の日差しのように穏やかだ。
「私、ここへ来てから、初めて誰かの力になれていると感じるのです。レオナール様の傷を癒したり、聖獣たちの治療をしたり。王都では毎日孤独でした」
ぽつりと呟いた言葉をさらに紡いでいく。
ただ祈りの連続。神殿の白い壁に囲まれて、朝から晩まで人々の平安を願う。だが、その祈りが誰かに届いているのかどうかさえ、わからなかった。
ルーベンは、エミリアに見向きもしなかった。聖女として迎えられても、側にいる理由を与えられたことはなかった。
言葉を交わすこともなく、手を取られることもなく、ただ王家の祈りの象徴としてそこに置かれていただけ。
光溢れるはずの王宮の中でエミリアの居場所だけがひどく冷たく、静まり返っていたのだ。
「ここでは心の底から温かいものが満ちてくるのです」
それはとりもなおさず、レオナールのそばにいるからこそ。
言葉にしながら、エミリアの頬を小さな涙が伝う。
レオナールはその雫の行方を指先で追い、そっと拭った。
「祈りは形を変えるものだ。王都では届かずとも、ここではたしかに誰かを癒している。……私もそのひとりだ」
レオナールの静かな声に揺るぎないものが滲む。
エミリアが顔を上げると、彼の瞳の奥には春のようにあたたかく優しい光があった。
窓の外から再び鳥のさえずりが聞こえてくる。
「あたたかな春が来ましたね」
「ああ。短い春だが、たしかに春だ」
長く続く呪いの中にも、きっと春は訪れる。
そう信じながら、エミリアはそっと椅子の肘掛けに触れ、老いた指先に自分の手を重ねた。
その瞬間、少し驚いたように目を上げたレオナールは静かに微笑んだ。




