追放の朝②
神殿の庭に白百合が咲き誇る中、十三歳のエミリアは初めて王太子と対面。ルーベンは凛とした顔立ちで、陽光を受けて金の髪が輝いていた。彼の微笑みは完璧で、まるで聖画に描かれた王子そのものだった。
「お前が、聖女エミリアか」
「はい。おそばで祈ることが許されるのなら、これほど光栄なことはありません」
口元にだけ笑みを浮かべたルーベンの瞳には、どこか蔑むような色が滲む。一歩進み出た彼の仕草は優雅で王太子としての威厳を纏っているが、どこか冷ややかな距離があった。
陽光に照らされた横顔は美しく整っているのに、微笑みは表情の表層だけに留まり、心の奥には届かない。
「聖女とは、王家に仕えるために生まれるものだと聞いている」
淡々とした声には、感情の起伏がほとんどない。義務を確認するかのように、彼はエミリアを見下ろした。
その瞳は澄んだ青でありながら、氷のように冷たい。人を惹きつける輝きではなく、むしろ近づく者を拒む光を宿していた。
彼の周囲には見えない壁が張り巡らされているようで、胸に小さな痛みを覚えた。
(……でもきっと何度かお会いするうちに、その壁はなくなるわ。会ったばかりだからなのよ)
そう自分に言い聞かせた。
王太子妃として正式に王宮に迎えられるまで四年。その間、神殿と王家は形式的な儀式を重ね、十七歳になったエミリアはいよいよ〝神と国に選ばれた花嫁〟として民から祝福を受けた。
しかし初めて対面したときに感じたように、その瞳の奥に温もりが宿ることはなかった。微笑みは儀礼の仮面であり、言葉は義務の響きにすぎない。
王太子と聖女の婚姻が慣例であるのと同じように、その愛までもが形式にすぎないことをすぐに知ることになる。
盛大な婚礼の儀のさなか、王子から指に指輪をはめられるときに気づいたのだ。
(――やっぱり彼は、私を見ていない)
微笑んでいても、その表情の奥には静かな憂いがあった。
しかし聖女の役目は〝愛されること〟ではなく〝支えること〟。彼の心をいつか癒せれば、それでいい。今度は、そう自分に言い聞かせた。
だが王太子妃としての日々は、想像以上に孤独だった。




