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【完結】悪女の婚約者様は、私を捨てた。それなのに、世界を道連れにしてでも、私を手放さない。  作者: ましろゆきな


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第十二話:灰の王冠と、悪女の口づけ

 呆然とあたりを見回し、アリオスは崩れるようにその場に膝をつく。

 視界の端で、見慣れた王都の街並みが、赤い炭のように崩れ落ちていく。あそこには数万の暮らしがあったはずだ。愛すべき日常があったはずだ。

 だが、今はもう熱風と灰の臭いしかしない。


「あ……ぁ……」


 アリオスは震える両手で顔を覆った。

 叫びだしたいほどの絶望。しかし、それ以上に彼の心を支配していたのは、奇妙なほどの「納得」だった。


(私は、止められなかったのではない。……止めるべきではなかったのだ)


 目の前で笑い合う二人を見る。

 世界を滅ぼした魔王と、それを唆した魔女。

 本来なら憎悪すべき対象だ。だというのに、炎の赤と夜の闇を背負った二人の姿は、どんな宗教画よりも神々しく、完成された美しさがあった。


 人という枠組みに収まりきらなかった二匹の竜が、狭苦しい檻を壊して空へ還る。

 それは悲劇ではなく、ある種の「天地創造」のようにさえ見えた。


(ああ、なんてことだ。私は……この美しい破滅を見るために、騎士の誓いを捨てたのか)


 アリオスの瞳から、一筋の涙がこぼれ落ち、灰の大地に吸い込まれた。


 ――その時、二人の影が重なる。


「……始めましょう、クロード」


「ああ。誰にも邪魔させない、我らだけの誓いだ」


 クロードはエリザベスの首筋に、エリザベスはクロードの唇に、互いに牙を突き立てた。


 ビクリ、とエリザベスの細い体が跳ねる。


 ブラックドラゴンの濃厚な血が、彼女の喉を通り、体内へと流れ込んでいく。

 それは猛毒であり、同時に甘美な蜜だった。

 血管を巡る熱が、彼女の中に残っていたわずかな「人間としての常識」や「罪悪感」を、跡形もなく焼き尽くしていく。


(熱い……! ああ、これが貴方の命なのね)


 痛みが快楽に溶ける。

 クロードもまた、ホワイトドラゴンの血を得て、その暴れ狂う魔力が静謐な凪へと変わっていくのを感じていた。

 欠けた月が満ちるように。二つの魂が溶け合い、分かち難い一つになる。


 互いの口元を鮮血で赤く染め上げたまま、二人はゆっくりと離れた。

 その首筋と唇には、魔法の光を帯びた、薔薇のような赤い刻印が浮かび上がっていた。

 「血痕式(Blood Vow)」。  永遠に解けない、呪いと愛の契約。


「……ふう。ご馳走様、クロード」


 エリザベスは、口元の血を指で拭い、艶然と微笑んだ。

 足元には数万の死体があるというのに、彼女はお茶会を終えた後のように優雅だった。


「それは重畳。……さて、行くかエリザベス」


 クロードは彼女の腰を抱き、瓦礫の山を降り始める。

 その背中に、アリオスは震える声で問いかけた。


「……殿下。エリザベス様。……何処へ、行かれるのですか」


 国は滅びた。帰る場所などない。

 二人は足を止め、不思議そうに振り返った。


「何処へ? 決まっているだろう」


 クロードは、まるで明日のピクニックの話でもするかのように、軽く肩をすくめた。


「ここにはもう、燃やすものがない。……もっと退屈しない場所を探しに行く」


「そうねえ。次はもっとお食事が美味しくて、ドレスの仕立てがいい国がいいわ。ねえクロード、あっちの方向なんてどうかしら?」


「いいな。気に入らなければ、また更地にすればいい」


 アリオスは絶句した。

 彼らにとって、この大虐殺は「引っ越し」程度のことだったのだ。

 国一つを灰にしておきながら、彼らの関心はすでに「次の遊び場」に向いている。


(……ああ、やはり)


 アリオスは深く頭を垂れた。

 もはや、言葉など届かない。彼らは最初から、人間とは違うことわりで生きていたのだ。


「さようなら、アリオス様。貴方のことは嫌いじゃなかったわ」


 エリザベスの銀鈴のような笑い声が響く。

 二人は燃え盛る業火をランタン代わりにして、手を取り合い、闇の荒野へと歩き出した。

 楽しげな話し声が、風に乗って遠ざかっていく。


「ねえ、クロード。ドレスが煤で汚れちゃったわ」


「構わん。隣国の王妃から一番いいものを剥ぎ取ってやろう」


「ふふ、次はもう少しセンスがいい国だといいわね」


 その背中は、あまりにも無邪気で、残酷で、幸福そのものだった。

 後に残されたのは、崩れ落ちた王国の残骸と、ただ一人、灰に埋もれて祈りを捧げる赤き騎士だけ。

 その光景は、後に語り継がれることもなく、歴史の闇へと静かに消えていった。

最後までお読み頂きありがとうございます。

ヴィランがヴィランのまま終わる物語いかがでしたでしょうか?

もし楽しんでいただけましたら、下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援いただけると、作者が泣いて喜びます……!


本日22:50より連載開始の『愛する君を殺したくない』ですが、皆様の応援のおかげで、当初の予定を上回るボリューム(全13話)になりました!

本編完結後には、二人の愛の結晶である娘が、他国の冷徹皇帝を母譲りの……(おっと、これ以上は本編で!)で陥落させる番外編まで一気に駆け抜けます!

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