表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
微笑みは青いガラスの向こうに  作者: 伝福 翠人
ただの、ほほえみだよ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/9

星空の声

沈黙は、苦痛ではなかった。 ただ、二つの呼吸の音と、時折聞こえる、アオイが鼻をすする小さな音だけが、空間に存在していた。


隣に座るカレンは、何も聞いてこない。何も言わない。 そのことが、アオイの強張った心を、ほんの少しだけ、解きほぐしていた。


しばらくして、カレンが静かに動いた気配がした。 彼女は自分のショルダーバッグにゆっくりと手を入れると、中から何かを取り出した。


アオイの視界の端に、白い布が、そっと差し出される。 四角く折り畳まれた、清潔なハンカチだった。


「…………」


アオイは、言葉を発することができない。 ただ、目の前に差し出されたそれを見つめるだけだった。


ハンカチからは、アイロンのかかった、清潔な布の匂いが微かにした。 それは、柔軟剤の強い香りとは違う、太陽の光を吸い込んだような、どこか懐かしい匂いだった。


どれくらい、そうしていただろうか。 アオイがハンカチを受け取れずにいると、隣から、カレンの静かな声が、そっと鼓膜を揺した。


「ただの、ほほえみだよ」


それは、命令でも、同情でも、励ましでもなかった。 夜空に響くような、どこまでも澄んだ声だった。


「…涙をふいて。もう一度だけ、ただ、笑ってみて」


アオイは、はっとしたようにカレンの顔を見る。 カレンは、夜景からアオイへと視線を移していた。その瞳には、彼女自身の声と同じような、静かな光が宿っていた。


けれど、その奥に、ほんの一瞬だけ。 何かを懐かしむような、痛みを深く理解する者だけが浮かべることのできる、微かな憂いと優しさが、確かに宿っているのをアオイは見た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ