賢い女冒険者
彼との旅の途中で面白い冒険者に出会った。
「珍しいな」
彼の言葉に私は頷いた。
確かに珍しい。
十数人の冒険者集団なんて。
「まるで遠征隊ね」
そう言いながら私は冒険者たちの力を推し量る。
見た目からも何となしに想像出来ていたけれど全員が中堅から上位の実力者。
星の数ほど人間が集まるような大陸の王都であればいざ知らず、こんな辺境であのレベルの冒険者たちが集まれば明らかに過剰戦力としか言いようがない。
向かう所、敵なしと言ったところか。
「あっ」
そんなことを考えていたところ、ふと私は気づいて声をあげる。
「どうした? ……って。え?」
彼は私の反応に気づいて同じく声をあげた。
あの集団の中に魔物が一体潜んでいたのだ。
いや、潜んでいると言っていいのだろうか。
その魔物は明らかに冒険者集団に馴染んでいる。
そして、その魔物も冒険者たちに懐いており、まるで猫のように喉をごろごろ鳴らしている。
「どうする?」
「どうするも何も……僕らには関係ないだろう?」
「それもそっか」
私は彼の言葉に納得して歩き去る冒険者集団を見送った。
皆、一様に幸せそうな顔をしている。
事実、幸せなのだろうと思った。
冒険者たちも、あの魔物も。
「それにしても。良く考えたわね、あいつ」
「そうだな。あんなにも強力な冒険者たちに囲まれていれば死ぬことはないだろう」
「そうね。それにあの冒険者たち、きっと増えていくんじゃないの?」
「だろうな」
「おまけにあいつ、明らかにもう人間達に情が沸いてるっぽくない?」
「あぁ。ウィンウィンって奴か?」
私も彼も長い旅のおかげであの魔物の特徴を知っている。
つまり、どんな屈強な男であってもたった一言名前を呼ぶだけで魅了される。
挙句の果てに夜毎に続く快楽に男達は骨抜きにされて、一生を彼女のために捧げるようになる。
「人間があんなことをすれば確実に悲惨な目に遭うだろうな」
「そうね。人間の女はあんなに男達にチヤホヤされれば調子に乗るもの」
「そこら辺のバランス感覚は流石は魔物といったところか」
サキュバスに魅了された哀れでいながらも皆が幸福な冒険者集団は私達の前から姿を消す。
後の世は彼らを聖女に率いられた英雄たちとして語るが、それを私達が知るのは随分後の話である。
お読みいただきありがとうございました。
とある二人の恋人が旅の途中で見かけたサキュバスと冒険者達。
所謂、オタサーの姫となっていないのは彼女の魔物としての天性のバランスとしか言いようがないと思います。
後に聖女と英雄たちとも語られる彼らにもまた物語はあります。
その内、語ることが出来れば良いなぁと思いつつ、今は彼らを見送ります。