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第6話 朝の姿

 雪女さんについていくと、一つの部屋にたどり着いた。


「ひとまず、朝になるまでここで過ごしなさい。布団くらいなら中にあるから」


 それだけを言い残し、雪女さんはいなくなってしまった。

 え、襖の前で残されてしまった。


 か、勝手に入っていいのだろうか。

 いや、ここで過ごしなさいと言われたし、逆に廊下で一晩過ごすのも失礼か。


 ――――ゴクリ。


 襖を、ゆっくりと開ける。

 そこには、夢のような空間が広がっていた。


「わ、わぁ!! ちゃんとした布団だぁぁぁああ!!」


 部屋は畳の部屋。

 中心には、丸テーブル。周りには座布団。

 壁には、テレビ。本で見たような、旅館の部屋みたいな空間だ。


 す、すごい。

 私、こんな豪華な部屋で一晩を過ごしてもいいの?


 こんな幸せな部屋で暮らして、起きたら狐に化かされていたなんてない?

 いや、化かされているだけならいいや。だって、今は幸せなのだから!!


 てか、待って待って。

 電気ポットもあるし、いつでもお茶が飲めるように湯呑まである。


 へぇ、あやかしだけど、現代の電気器具も使うんだぁ。

 それとも、お客様用とか?


 なんだか、不思議な感じ。

 人間家族に囲まれていた時は、ボロボロの布一枚しか与えられなかったのに、あやかしの屋敷ではこんなに素敵にお出迎えされる。


「…………あ、布団、ふわふわ」


 部屋の奥で畳んでいた布団に触れてみると、柔らかくて太陽の温かみがあった。


「今日だけで、私はどれだけの幸せを――って、え?」


 布団の中に、緑色のあやかしが…………。

 背中に甲羅、頭にお皿。口元は、くちばし。


「どう見ても、河童、だよね。うん。河童だ」


 河童が、白い布団に寝っ転がって寝ている。

 鼻提灯を膨らませて寝ている。


「…………ふふっ、無防備」


 可愛い。まさか、河童を可愛いって思うとは思わなかった。

 起こすのも悪いし、布団では寝られないけど、このままにしておこう。


 畳の上で寝るのには慣れてるしね。


「ふわ…………」


 流石に眠くなってきた。

 朝から動いていたし、準備して移動もした。


 ずっと車に揺られていて、体には疲労がたまっていたみたい。

 もう、寝よう。


「明日で、私の人生がどう動くか決まる。明日の動き方、一応考えておこうかな」


 一度通った廊下は、覚えている。

 ここからなら一人で外に逃げられる。


 あやかしに追いかけられる可能性もあるけれど、私は一応鍛えて来た。

 あやかし相手にどこまで動けるかわからないけれど、やるしかない。


 絶対に、ただでは終わらせないんだから。


 ※


 ――――バタバタ!!!


「…………ん、な、なんだろう」


 なんか、廊下が騒がしい。

 ドタドタと、誰かが走り回っているような音がする。


『羅刹様!! 早くこちらに!!』


『ま、またれよ、百々目鬼(どどめき)よ。ま、まだ我には早いというか』


 ん? 羅刹様?

 羅刹様って、昨日出会ったあやかしだよね。

 日本三大妖怪の一人、鬼の名前だったはず。


 でも、女性の声の次に聞こえたのは、昨日みたいな芯のある声ではなく、少し頼りない、弱弱しい声。


 同じ人なわけがない。同姓同名? 

 あやかしなら、ありえる、の、か?


 でも、鬼みたいに日本三大妖怪に入るあやかしが、そんなにたくさんいるとも考えにくい。


 …………わ、わからない。


 畳でそのまま寝てしまったから、着物に皺が寄ってしまっている。

 髪もボサボサ、流石に手櫛で整えないと人前には出られないかな。


 ――――ガラッ


「っ、え?」


「あ」


 声すらかけられずに、襖が開いてしまった。

 そこには、左右非対称の瞳を大きく開いている羅刹さんがいた。


「ら、せつ、さん?」


 黒と赤の瞳は、昨日見た羅刹さんの瞳で間違いない。

 でも、髪の長さも違うし、爪や歯も丸くなっている。


 左右非対称の瞳以外は、全然違う。雰囲気もまるっきり違う。

 本当に、別人のように見える。


 私が名前を呼ぶと、羅刹さんは眉を下げ、怯えてしまった……?


「あ、い、いや、あの。け、決して覗こうとしたのではなくてだな!! 色々、事情があって……。だから、その……」


 ………………………………か、かわいい!??


 つり上がっていた眉は下がり、凛々しかった立ち居振る舞いはへにょへにょ。

 私が少し手を伸ばせば、逃げるように後ずさってしまう。


 もしかして、朝と夜では姿かたちが変わるのかな。

 あやかしは、夜の方が力が倍増すると聞いたことがある。


 それに伴って、姿が変わっている、とか?

 でも、性格まで変わるものなのかな。


 こんなに可愛くなってしまうなんて……。

 どれだけ私を惚れさせればいいの!? 


 もう、貴方になら食い殺されても――だから駄目だって!!


 気を確かに持つのよ水喜。

 妹の水奈が私からの救いを待っているのだから、ここで死ぬわけにはいかないの!


「羅刹様、いい加減その態度どうにかなりませんか? なぜ、仕事中と夜はかっこよくなるのに、普段はこんなに頼りないのですか!」


「ひぃ!? ご、ごめんて…………」


 あっ、女性……たしか、百々目鬼さん。

 さっき、羅刹さんの声で、そのように呼んでいたはず。


 そんな、綺麗な女性、百々目鬼さんに怒られて羅刹さんがシュンとしてしまった。

 可愛い。かっこいいのに、可愛い。


 って、このままでは話が進まない。

 一応、聞いておこう。


「あ、あの。貴方は、もしかしてと言うのもおかしな話ですが、私の婚約相手である、鬼の羅刹様、ですか?」


 聞くと、羅刹さんは助けを求めるように百々目鬼さんを見た。

 だが、首を振って目線を逸らされてしまい、涙目……よしよししたい。


 頭を撫でたい、抱きしめたい。

 我慢、しなさい、水喜!!!


 あー!!! 筋トレをして精神統一したい!!


「え、えっと……。い、いかにも。我があやかしである鬼、羅刹。ぬしに縁談を持ちかけた者だ」


 が、頑張って自己紹介してくれた。

 褒めたい、称えたい。


 ま、まぁ、こんなことを考えていても話が進まない。

 今日で、私の人生が決まる。気を引き締めないと。


「やっと、自己紹介が終わりましたね。では、ここからは長い話になります。場所を移動しましょう」


「そ、そうだな。立っているのも疲れる。我の部屋に案内する」


 スッと、当たり前のように出された大きな手。

 見上げると、何故か首を傾げられ「行かぬのか?」と、問いかけられる。


 これは、握らないといけない感じなのかな。

 ソッと、大きな手に私の小さな手を重ねると、優しく握られる。

 そのまま「行くぞ」と、歩き出した。


 昨日の羅刹さんは、少し荒々しかった。

 けれど、今の羅刹さんは私の歩幅に合わせてゆっくり歩いてくれる。


 後ろ姿もかっこいい。

 手もたくましくて、温かくて。もう、たまらない。


 だらしない顔を浮かべないように気を付けていると、すぐに羅刹さんの家にたどり着いた。


 百々目鬼さんが部屋の襖を開けると、中から畳みの匂いがフワッと香る。


「入るぞ」


 手を引かれ、中に入る。

 広さは、私が案内された部屋より一回り位大きい。


 部屋の中心にはテーブル。奥には布団が畳まれていた。

 他には、木製の棚と高そうな花瓶。テレビもある。


 現代だなぁと思いながら出入り口で立ち尽くしていると、羅刹さんが座布団の上に座った。


 百々目鬼さんが流れるように私用の座布団を準備して、羅刹さんの前に座るように促す。


 私が座ったことを確認すると、最後に百々目鬼さんが羅刹さんの隣に座った。


「…………」


 チラッと百々目鬼さんを見ると、本当に清楚で美しい女性だと分かる。


 足首くらいまで長い艶のある黒髪に、黒い着物。

 肌が色白だから、黒い瞳が綺麗にはまっている。


 気になるのは、いたる所に横の線が入っているところ。


 百々目鬼って、確か体中に目があるあやかし。

 おそらく、今はメインの二つ以外の目は閉じているんだろうな。


 そんなことを思っていると、羅刹さんが深呼吸して、話し出した。


「では、本題に入らせていただく」


「は、はい。よろしくお願いします」


ここまで読んで下さりありがとうございます!

出来れば次回も読んでいただけると嬉しいです!


出来れば☆やブクマなどを頂けるとモチベにつながります。もし、少しでも面白いと思ってくださったらぜひ、御気軽にポチッとして頂けると嬉しいです!


よろしくお願いします(*・ω・)*_ _)ペコリ

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