第40話 娘と親
「はぁ、はぁ……」
「満身創痍じゃなぁ。じゃが、避けているだけでは、妾には勝てないぞ」
またしても、扇子を振り上げる。
すぐに水奈の指示の通りに動くが、最初の方に付いた傷が尾を引いて動きが鈍くなっていた。
「ふふ。もうそろそろ終わりかのぉ」
九尾は扇子を下ろし、息を切らしている羅刹を見据える。
体全体に傷がつき、血が流れ続ける。
このまま止血をせずに動き続ければ、鬼であろうと出血多量で命の危険の陥る。
そんな無様な羅刹の姿を見て、九尾はにんまりと笑う。
「残念じゃのぉ。お主は、ここで死ぬ。本当に、残念じゃ。もっと、本気のお主と戦いたかったぞ」
「はぁ、はぁ。――――はは。それは、どうだろうな」
羅刹は、なぜか口角を上げ強気に笑う。
そんな彼を見て、九尾の口元から笑みが消えた。
ここで悔しがる姿が見たかった彼女は、面白くないというように目を細め、扇子で口を隠した。
「何が言いたいかわからんが、まぁ、よい。お主が死ねば、妾も少しは動きやすくなる。じゃから、ここで死ぬが良い」
扇子を振り上げた。瞬間、下が騒がしくなり、思わず視線を向けた。
そこには、襲い掛かる男どもを蹴散らしている水喜の姿がある。
「何をっ――――」
視線に気づいた水喜は、振り返りながら懐から一つのクナイを取りだし、流れるように投げた。
見事に、扇子を持っている右手に命中。
――――大きな隙が、生まれた。
「今です!! 羅刹様!!」
水喜が叫ぶのと同時に、羅刹は九尾に向かい、刀を振り上げた。
すぐにもう片方の扇子で防ごうとしたが、間に合わない。
――――ザシュッ
「っ――――」
九尾の身体を、羅刹は刀で切り裂いた。
「がはっ!!」
血を吐き、斬られた胸を抑える。
「う、嘘じゃ。嘘じゃ!! 妾は、まさか……」
まだ息がある為、羅刹はまたしても刀を振り上げる。
だが、九尾は悔しそうに顔を歪めながらも、一瞬にしてその場から姿を消した。
「っ、待ちやがれ!!」
周りを見るが、九尾の姿は見つけられない。
焦っていると、姿が見えないはずの九尾の声が風に乗って聞こえて来た。
――――今回はここで終わりにしてやるぞ、鬼と人間よ。次は、今回のようにいかぬからな、覚悟して待っておるがよい
それだけを言い残し、今度こそ姿だけでなく、九尾の気配すらなくなった。
「はぁ、はぁ……」
羅刹は満身創痍。雪女と狗神も息を切らしていた。
皆、すぐには動けない。
そのうちに、朝日が昇る。
羅刹は下にゆっくりと降りながら、昼の姿へと変わってしまった。
ぐらりと、羅刹の身体が傾く。
「羅刹様!」
床の倒れ込む前に、水喜が駆け出し羅刹の身体を支えた。
「……水喜か。どうやら、九尾との戦いは、お預けとなったらしいな」
「そう、みたいですね……」
朝陽が昇る空を見上げ、羅刹が呟く。
水喜も、同じく空を見上げた。
もう終わる。そう思ったが、まだ終わりではなかった。
――――タッタッタッ
廊下の奥から足音が聞こえ、狗神と雪女は警戒態勢を取った。
水喜と水奈も廊下を見据え、羅刹は震えつつも廊下の奥を見る。
「――――なっ!?」
曲がり角から姿を現したのは、意外にも水喜の両親だった。
水喜は顔を青くし、水奈は驚きで口をあんぐり。
いきなり現れた両親から目が離せなくなった。
「母上、父上……」
両親は、雪女と狗神を見て驚きつつも、九尾がいないことに焦る。
そんな中、姉妹二人が仲よさそうに共に居ることに腹を立て、怒りの形相を浮かべた。
「何をしているの水奈!! そんな疫病神と一緒にいるんじゃありません! 早くこっちに来なさい!!」
母が手を伸ばし、水奈へと叫ぶ。
「そうだ水奈!! 早くこっちに来い!! 早く、祓い屋としての仕事に戻るのだ!!」
父も同じく、水奈を取り返そうと手を伸ばす。
そんな二人の態度に、水喜は怒りが隠せず舌打ちを零した。
額には、怒りで血管が浮かび、わなわなと握られている拳からは、爪が食い込み血が流れ出る。
「水奈、羅刹様をお願い」
「水喜?」
「水喜姉さん?」
ふらつく羅刹を水奈に渡し、水喜は雪女と狗神の間を通り抜け両親の前に立った。
「なんだ。お前のような疫病神になど、用はないぞ」
「そうよ!! 私達が用あるのは水奈よ。貴方など引っ込んでなさい!! この疫病神!!」
両親の訴えに、昔の水喜ならめんどくさいから「はいはい」と受け流していた。
だが、今の水喜は怒りに捕らわれている。
父の胸ぐらを掴んだかと思うと、右手を振り上げた。
「待って姉さん!! 殺しては駄目!!」
水奈の叫び声と共に、乾いた音が響き渡った。
「いっ!!?」
「っ、ちょっと!! 何をしているの!!」
水喜は、身動きの取れない父の頬をビンタした。
母は、父を離せと言うが、水喜の耳には入らない。
視線すら父から離さず、右手を再度上げた。
「ブブブブブブブブ!!!!!」
「ちょ、ちょっと!! 連続ビンタはやめなさい、水喜!! 父の顔が変形してもいいの!? ちょっと!! どこを見ているの水喜!! 無言はやめなさい!!!」
父の頬が腫れ上がり、誰かわからなくなってから手を離した。
ゴトンと、父は気を失い床へと倒れ込む。
水喜が次に狙いを定めたのは、母だ。
母は、怒りでなのか、それとも恐怖でなのか。体をガタガタと震わせ、水喜を見ていた。
「な、何をするの!!」
母は恐怖で怯えながらも、水喜へと叫ぶ。
だが、そんな声など一切聞こえていない彼女は、今の状況に関係ないことを口にした。
「母上、私は貴方と血が繋がっていない」
「っ、え」
水喜は、以前に大蛇から聞いた情報を話しだした。
瞬間、母の顔色が変わる。
「ど、どこからその話を……」
「どこでもいいでしょ。それで、これからやるべきことは、わかるわね? 母上」
黒く、闇が広がる瞳を浮かべ、水喜は母に顔を近づけた。
「水奈は私と共に暮らすから、祓い屋としての高浜家は畳んで。出来る限り、早くに」
「そ、そんなこと」
――――バキン
「ひっ!?」
母が口答えした瞬間、水喜のいる床が抉れた。
それに驚き、母はこれ以上何も言えない。
「次に、私達に今後一切近づかないこと。そして、最後に。自分達で金を稼ぎ、それを全部、羅刹様に融資すること」
「そ、そんなこと……。私達に働けなんて………」
「別に、働かなくてもいいんだよ? 母上なら、まだ女としても動けるんじゃない? 母上は水奈のお金をエステやネイルに使っていたみたいだし、好きな男どもが近づいて来るでしょ。貢いでもらえば?」
娘の言葉とは、到底思えない。
だが、水喜の瞳は人を一人以上殺しているのかと錯覚するほどに鋭い。
「あー、そうそう。ここで断るという選択肢はないよ。もし、ここで断ったら、貴方達の命はない。ある方にお願いして、毒殺してあげる。苦しみでのたうち回り、地獄に落とすから。約束を破った時も、同様だよ」
冷たく言い放つ水喜に対し、母は何も言えない。
カタカタと体を震わせるのみ。
「罪を償え、水奈にした仕打ちを思えば、軽い物だろう??」
「で、でも……。体を売るなんて…………」
「どっちかを選べ。普通の仕事をするか、そういう仕事をするか」
水喜の姿を後ろから見ていた羅刹は怯えに怯え、母と同じくらいにカタカタと体を震わせていた。
「……我、絶対に水喜を本気で怒らせないようにする」
「その方がいいと思います……」
水奈も、今の水喜の様子を見て、ただ羅刹の言葉に頷くしか出来なかった。
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