第4話 新しい出会い
イケメンに会いたい。
そう思ってはいたけれど、まさか、少しの荷物で屋敷を追い出されるとは思っていなかった。
私が今持っているのは、鞄一つだけ。
部屋で大事な物を少し大きな鞄に入れていると、女中が急に部屋に入ってきて、すぐに車に乗せられた。
それから数時間後に見えてきたのは、田舎。
その中の、森の前で車から引きずりだされた。
「…………まさか、森の前で一人残されるなんて思わなかったなぁ」
もう、辺りは暗い。
田舎だから光も少なく、月明かりだけが頼り。
「風……。田舎だからかな、気持ちいい」
まぁ、ここは森の前ですけどね。
車から引っ張られるように外に出されてしまったから、地面に転んでしまった。
そのせいで、せっかくの着物が汚れてしまう。
立ちあがり土を払っていると、森の中に淡い光が一つ、木々の隙間から見え始めた。
なんで、一つ? まさか、火の玉??
「…………いや、違う。あれは、人が持っている光だ」
――――ドシン!!
「え、ドシン?」
後ろから、重い物が落ちる音が聞こえた。
振り向くと目の前にあるのは、なぜか口腔内。
よだれがしたたり落ち、頭が濡れる。
「へ? ――――わっ!」
いきなり後ろに引っ張られた。
同時に、勢いよく口が閉じられる。
何が起きたのかわからない私のお腹に、たくましい手が回される。
「――――雑魚が。我の住処付近で人間を襲うなど、覚悟はできているんだろうなぁ?」
低く、地を這うような声が後ろから聞こえた。
私に向けられた言葉ではないのに、体が震える。
あ、地面に下ろされた。
見上げると、私を助けてくれたのが男性ということがわかった。
けれど、しっかりと見る前に男性が姿を消した。
――――ギャァァァァァアアア!!!
「な、なに!?」
後ろから悲鳴!?
振り向くと、刀を手に持っている男性しかいなくなっていた。
さっきまでいたあやかしはどこに行ったの?
「ふぅ、まったく、我の目が届く場所で悪さをするなど、なめられたものだな」
誰、この人。
…………いや、人ではない。この気配、空気。
この男は、あやかしだ。
「人間よ、こんな夜更けに何用だ」
足首まで長い銀色の髪に、黒いメッシュ。額には、二本の角。
口から覗くのは、鋭い牙、鋭い、爪。
この特徴を私は聞いたことがある。
確か、本でも読んだ。
この男、日本三大妖怪の一体――――鬼だ。
「聞いておるのか、人間。まさか、我を無視か?」
「い、いえ、あの……」
やばい、やばいやばいやばい!!
な、ちょ、ど、どうしよう。
「――――? お主……」
「……………………」
「?? おい、聞いておるのか?」
やばい、にやけが止まらない。
だって、こ、この人!!
「ちょーーーー。イケメン!!!!」
「っ、はぁ?」
銀色の髪は月明かりに照らされ、神々しく輝いている。
左右非対称の瞳は、困惑の色を見せていた。
肌は色白、口から覗く牙は鋭く光る。
やばい、涎が止まらない。
めっちゃ、好み。好きすぎる、この顔面。
神? 神なのか?
私は神に会ってしまったのか?
「おい、ふざけているのか」
「え、い、いえ。ふざけてなどおりません」
というか、この人、いや、あやかし、見たことある。
しかも、ここ最近――――あっ。
「あ、あの。もしかしてですが、貴方は、縁談相手の、羅刹、様?」
角や牙などは違うけど、主な見た目が似ている気がする。
髪の長さとかも違うし、別人のような気もするけど……。
いや、この際どっちでもいいな。
違ってもそうだとしても、私は幸せだ。
こんなイケメンに出会えたのだ、私はなんて幸せ者なのだろう。
今は、家族に捨てられた祓い屋長女で、幸せとは程遠いけど。
「――――ほう。よく見れば、見たことがある顔だ。まさか、こんな餓鬼が我の縁談相手になるなんてな」
なんか、すごく見つめられている。
そ、そんな美しくも儚い顔を寄せないでください、神々しすぎて目が潰れます。
「はぁ、まぁよい。来い」
「えっ」
背中を向けて、森の中に行ってしまった。
来いというのは、付いて来いと言う意味でいいのかな。
言われた通りに後ろをついて行き、森の中を歩き始める。
思っていたよりも、道が作られているから歩きやすい。
月明りが、木々の隙間から光を落とす。
それが道しるべのようになっていて、綺麗な光景が作り出されていた。
そんな光景に、神と見間違う程に神々しい羅刹さんが紛れ込む。
もう、私死んでもいいかも。
って、駄目だよ。
イケメンになら食い殺されてもいいかもしれないとか思ったらいけない。
私は、愛らしく可愛い我が妹を毒親から救い出すという使命を背負っているのだから。
首を振って、迷子にならないように羅刹さんについて行く。
…………羅刹さん、何も話さないなぁ。
私を食い殺す算段でも考えているのかな。
ここで色々話してボロを出すより――みたいな考え?
それとも、単純に私が祓い屋の長女だから警戒しているのだろうか。
いや、そもそもな話。
羅刹さんって、普段からこうなんじゃないだろうか。
雰囲気的に、自ら話すような人ではない。
人の話を聞くことが多そうなイメージだな。
そんなことを考えながら無言で歩いていると、ようやく森から出たみたい。
開けた場所にたどり着くと、目の前に広がるのは、夜桜に囲まれている大きな屋敷だった。
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