第39話 チャンス
九尾は、自身の頬を撫で、指先に付いた血を見る。
瞬間、高揚したように顔を隠し、笑みを浮かべ扇子で口元を隠しながら羅刹を見た。
「これはこれは、血を弾丸にしたのか。面白い、面白いぞ!!」
興奮気味に言い放ち、九尾は扇子を勢いよく上へと振り上げた。
突風と共に刃が放たれ、羅刹を切りつける。
刀で急所は塞ぐが、確実に羅刹が削られている。
腕と腕の間から九尾を見つめ、羅刹はタイミングを計り刀を横一線に薙ぎ払う。
風が切れ、顔付近の刃が弾かれた。
すぐさま血の弾丸を放った。
余裕そうに放たれた弾丸を扇子で弾き、九尾は笑う。
傷をつけられなかったのは痛いが、風の刃を止められたため、羅刹は血を流しながら刀を握り直す。
「これでもお主は防ぐか。なら、これならどうじゃ!!」
扇子を大きく振り上げ、風を起こす。
それは、下にいる者達も巻き込む、大きな竜巻を巻き起こした。
すぐさま羅刹が刀で竜巻を切り、水奈と水喜は無事。だが、水奈を庇った水喜の腕が少しだけ切れてしまった。
血が流れている姿を見て、羅刹の額に血管が浮かんだ。
「まさか、妾の竜巻を斬るとはのぉ。まぁ、よい。次こそは――――っ!」
羅刹は、何も言わずに動き出す。
姿を消したかと思えば、次に姿を現したのは九尾の目の前。
刀が振るわれる前に後ろに下がり回避。だが、瞬きをする暇すらなく、またしても距離を詰められた。
避けきれず、ガキンと、扇子と刀がぶつかり合った。
「――――ちっ、さっきまで本気を出していなかったということかのぉ。なら、妾も、少々本気を出そう!!」
言った瞬間、妖力が上がるのを感じ、危機を感じた羅刹はすぐに下がった。
「これは――」
「羅刹様! 上へとお逃げください!!」
下から水奈の声。考える暇なく、羅刹は声に従い上へと飛んだ。
刹那、羅刹がいた場所に、見えない風の刃が通った。
もし、羅刹がその場にいれば、体が真っ二つになっていたであろう攻撃。
そのことに悪寒が走りつつも、下を見た。
廊下では、狗神と雪女に守られながら、水喜が祈るような体勢を作り床に座っていた。
「次に下へ!!」
水奈が叫ぶ。だが、羅刹は不思議に思っていた。
指示を出している水奈は、何故か目を閉じている。
よくわからずも、羅刹は感覚的に従わなければならないと判断。
すぐに下へと移動する。またしても、見えない刃が通り抜けた。
「小癪な真似を!!」
「ひっ!? ね、姉さんの上!!」
今ならわかる。
見えない刃が水奈と水喜を狙った。
羅刹は、指示に従い刀を水喜の上で刀を振るった。
カキンと、手ごたえがあった。
「斬ったか」
肩越しに振り向くと、目を閉じている水奈が羅刹へと叫ぶ。
「羅刹様。見えない刃は私と姉さんで見破ります!! 九尾の首を取ってください!!」
水奈の言葉に対し、羅刹はすぐに頷き前を見た。
すべてを回避されるとは思っていなかった九尾は、扇子で口元を隠し、小さく舌打ちを零した。
「そうかい。なら、もう出し惜しみをしている場合ではないのぉ。今すぐにでも、お主らを殺さんとならんらしい」
扇子がいつの間にか二つになっており、舞を踊るように九尾は空中で踊り始めた。
「上!!」
水奈の指示に従い、上に行く。
「右!!」
言われた通りへと右に。
「下!!」
またしても、言われた通り。
だが、次々と指示を出され、羅刹は避けることしか出来ない。
「ちっ」
どうにか攻撃を仕掛けなければならないが、水奈の指示が止まらない。
つまり、攻撃がずっと続いている。
「まだまだじゃよ!!」
焦っている羅刹を楽しむように九尾は扇子を手に、舞を踊るように空を飛ぶ。
羅刹は舌打ちを零しつつも、水奈の指示に従いよけ続けた。
「このままでは――……」
※
羅刹様が困っている。
未来予知だけでは、羅刹様の役には立てない。
私は今、未来予知を使い、水奈の術で視界をリンクさせていた。
だから、水奈にも私が見ている未来が見えている。
けれど、私とは違って、水奈は未来予知に慣れていない。
見るだけでも辛く、苦しいはず。それなのに、羅刹様にも指示を出している。
情報過多で、水奈はいつ倒れてもおかしくないだろう。
でも、それは羅刹様も一緒。
羅刹様も、ずっと動き続けている。
しかも、見えない刃から逃げながらも攻撃の隙を伺っている為、体力の限界が早く来てしまうかもしれない。
それに、昼になってしまえば、夜の羅刹様は表に出てこれなくなってしまう。
虫すら殺せなさそうな昼の羅刹様に代わる前に、九尾をどうにかしなければ、この場にいる全員が殺される。
でも、隙が無い。
未来が見えていても、どの動きにも隙がなく、動けない。
「――――現状が、変わらないのなら」
変えるだけよね。
私の視界は未来予知の光景。つまり、羅刹様が死んでいる姿が何度も映り込む。
死んだところが、見えない刃が通る道。そこを指示だし、避けてもらっている。
心が抉られる、怒りの感情で頭がおかしくなってしまう。
でも、落ち着くんだ。この未来予知が無ければ、羅刹様は本当に死んでしまう。
隙を――無い隙を、作るんだ。
それが、私の役目――――っ!!
――――ザシュッ!!
羅刹様の腕が切られた。
避けきれなくなってきているんだ。
まずい、水奈の指示が追い付かない。
相手の手数も増えてきて、捌ききれない!!
早く、隙を作らないと――って、そう言えば、九尾って、私達を一切見ていない。
さっき、攻撃を塞がれたことで、もう捨てることにしたみたいだ。
そっか、羅刹様に集中している間は、他に手を回せないんだ。
羅刹様を警戒しているからこそ、穴だ。
チャンスは一回のみ、これで隙を作らなければならない。
「――――やばい」
未来予知に朝陽が差し込んできた。
朝が、近い。夜が終わる。
早く、どうにかしないと――――
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