第33話 後悔させてやる
羅刹様と話をしてから数日間、私はずっと、筋トレをしながら考え事をしていた。
考え事、それは私が羅刹様をどう思っているか。
私ような女っ気のない女が、羅刹様のように美しく儚い、かっこよくも時々可愛い人の隣に立っていいのか。
いや、そう思うのであれば自分磨きをすればいい。
けど、それだけではない気がする。
私は、ただの人間だ。
水奈のように強い力を持っていたら特に気にしなくていいと思うし、雪女さんみたいに同じ種族の婚約とかの方が波乱は起きないだろう。
本当に、私はこのまま婚約の話を進めていいのだろうか。
「水喜様、今日も鍛錬ですか?」
「あ、こんにちは、ろくろ首さん! はい! いつでも動けるようにしているのです!」
「ふふっ。勇ましいですね。そんな水喜様に、羅刹様からのお届け物ですよ」
「え?」
お届け物? しかも、羅刹様から?
手に持っていた風呂敷を渡されて、ろくろ首さんはそのまま一礼をしていなくなってしまった。
「な、何だろう」
気になって、その場に座り風呂敷が地面に付かないように気を付けながら開いてみた。
中に入っていたのは、服?
「――――わぁ!! すごく綺麗な、着物? いや、着物ではなさそう。スカートだ。しかも、結構短い」
これは、羅刹様の趣味なのだろうか。
いや、なんにしろ、今すぐに着てみたい!!
すぐに部屋に戻り、頂いた服を着てみた。
「すごい!! ぴったりだ!」
藍色の布に、これはハイソックスかな?
なんとなく、洋服と和服を取り入れたような服だ。
デザインは、着物をモチーフとしている。
可愛い。しかも、着物より全然動きやすい。
しかも、短いスカートだけどしっかりとスパッツを用意してくれていたから、色々と気にしなくていい。
「あっ、そうだ!」
この色合いなら、水奈からもらった兵児帯も合いそう。
水奈からもらった宝物は、しっかりとなくさないように箪笥の中へと置いていた。
それを取り出し、腰に巻いてみる。
兵児帯は長いから、横腹辺りでリボンにしてみた。
「やっぱり、色合いがぴったりだ」
動きやすく、体が軽い。
それに、この生地はしっかりと汗を吸ってくれそう。
「袖になら小さな武器も隠し持てるね」
クナイとかなら潜ませられるし、何かあった時のために羅刹様に相談しよう。
「ふふっ。好きな人の物に囲まれている感じで、本当に素敵。私、生きててよかった」
本当に、生きててよかった。
嬉しい。本当に、嬉しい。
今まで虐げられてきた私が、まさかここまでの幸せを手に入れられるなんて思わなかった。
今迄水奈のために気丈に振舞ってきた。
けど、やっぱり辛かったし、苦しかった。
死んでしまいたいとも、何度も思っていた。
生きがいは、水奈だけ。
水奈がいたから、生きてこれた。
でも、今は水奈だけでは無い。
羅刹様がいる、たくさんの心優しいあやかしさん達がいる。
羅刹様があやかしさん達が、私を拾ってくれた。
「…………必ず、羅刹様のお役に立てるようにならなければ」
もっと、強くなる。
もっと、もっと強くなって、私は羅刹様を守れるようになる。
女騎士に、なってやる!!
「――――随分と良い物を持っておるのぉ、嬢ちゃんや。少しだけ妾に触らせてもらえんかのぉ」
「――――え?」
なにも、感じなかった。
気配も、音も、匂いも、何もかも。
今、声をかけられた瞬間からしか、その人が存在することさえわからなかった。
視線を後ろに回すと、真後ろには一人の女性が笑みを浮かべて立っていた。
「だっ――――」
叫ぼうとした私の口に手を押さえつけられた。
抗おうとしたが、すぐに眠気が襲ってきてしまい、そのまま意識を失ってしまった。
※
「ふふっ。面白い術をかけている服じゃのぉ。早くこの場からいなくならないとめんどくさいもんが来るな」
水喜を抱え、女性はその場から忽然と姿を消した。
その直後、部屋の中になだれ込むようにあやかし達が入ってきた。
その先頭には、焦ったような顔を浮かべている羅刹がいる。
「ちっ」
周りを見るが、水喜の姿がどこにもない。
「まさか、羅刹様に報告するために戻ってきた時、尾行されていた?」
「わからん。だが、そんなことを考えている暇はないようだ。我が服にかけた術も、一瞬のうちに消されておる。早く動き出さんといかんな」
ちょうど、報告するために戻ってきた百々目鬼と鴉天狗は、自分の失態だと責め顔を青ざめている。
そんな二人を横目に、羅刹が拳を握り、歯を食いしばっていた。
「…………許せぬな」
「っ、羅刹様?」
百々目鬼は、羅刹の様子が変わったことに気づき、振り向いた。
今までに見たことがない怒りの表情。
彼のそんな表情見た瞬間、百々目鬼だけではなく、鴉天狗でさえ体を震わせた。
「我の大事なもんに触れた、我の者を襲った。許せぬ」
「ら、羅刹様、妖力が、あの……」
怒りだけではなく、羅刹からは今までにないほどの妖力があふれ出ていた。
怒りで体を震わせ、目は赤く充血している。
怒りで妖力が暴走しないように拳を握り抑えているが、それでもあふれ出てしまい、周りのあやかし達は思わず後ずさる。
「羅刹様、妖力があふれ出ておりますよ。慌てて帰ってよかったです」
そんな呑気な声を上げているのは、水奈の様子を見ていたはずの狗神だった。
羅刹の頭をポンッと叩く。
その瞬間に正気に戻ったのか、羅刹のあふれ出ていた妖力が徐々に落ち着き始めた。
「狗神か、よかった」
「状況は貴方の様子でなんとなく理解しました。それに加え、私からの報告です」
「なんだ」
「水奈様が、両親の手によってある屋敷へと連れ去られました。おそらく、水喜様もそちらにいらっしゃるかと」
狗神の報告に羅刹は一瞬目を開くが、彼が落ち着いている為、何かしらの細工をしていると察した。
「なにか、考えがあるのだな」
「そうですね。まず、水奈様には私の匂いを付けております。なので、”ある屋敷”と言うのはわかりました。なので、後は動くだけですよ。ただ、相手が……」
「わかっておる。こんなことが出来るのは、今のところ九尾しかおらんだろう。水喜の両親を裏で動かし、人間の負の感情を集めているのも九尾だ」
狗神は、羅刹の返答にコクンと頷いた。
羅刹は、目を細め夕暮れになる空を見た。
「今すぐ動くぞ」
「わかりました。行きましょう、ヒトナキ山へ」
日が、落ちる。
羅刹の銀髪が足元まで伸び、爪が鋭くなる。
左右非対称の瞳もつり上がり、口元から覗き見える牙が鋭く光っていた。
「では、行くぞ。我の嫁は、至急、返してもらおうか」
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