第30話 本物の絆
「これが、お姉さんが出て行ってからの日々です。どこでたがが外れてしまったのかわかりませんが、今はもうやりたい放題です。でも、私には止められません。なので、諦めていました」
「なるほどな。話は分かった。そして、その女性の正体も、なんとなく心当たりがある」
「そうなんですか?」
「あぁ。現代に住む、お主のように力を持つ人間を“恐怖”に陥れられる者は、一人しかいない」
「だ、誰ですか?」
「……まずは、一人を落ち着かせんといかんな」
「あー……」
二人が、私を見る。
呆れたような顔だ。
でも、気にしていられない。
私は今、すごく……ものすごく怒っている。
私の愛しの妹を働き詰めにした?
休みすら与えなかった?
ストレスで食事も喉を通らないのに、力を使わせるためだけに無理やり食べさせた?
はぁ???
なにそれ、外道の中の外道。
生きてる価値のない生物。
ミジンコの方がまだ価値あるわ。
害しか生まない生物は、いなくなっても誰も困らない。
死んだって誰も気にしない。
だったら――……。
「――――まずは、両親を殺しましょう」
「殺気をしまえ。落ち着け、深呼吸だ」
「水喜姉さん、殺しはよくないですよ、待ったです」
二人は、なんでこんなに優しいの。
でも、私は落ち着けない。
拳に力がこもる。
今なら余裕でクルミを割れる。
今すぐ暴れて、この高浜家を潰してやりたい。
壊してやりたい。
水奈だけを救って、高浜家を殺す。
そして、そんな汚れた手を持った私も――……
――――――――ポンッ
「っ、羅刹様?」
頭に、優しい温もりが乗る。
隣を見ると、羅刹様が私を落ち着かせるように撫でていた。
「まずは話を続けよう。対処はその後だ」
「ですが!!」
「なにも準備せず動き、万が一こちらが動けなくなったらどうする? 妹がもっと酷い監禁を受けたらどうする?」
「そ、それは……」
「失敗は絶対に許されん。感情的になるのは得策ではないぞ」
っ……た、確かに。
考えなしに動けば、状況を悪化させる。
わかってる……わかってるけど……。
いや、落ち着け。
羅刹様の言う通りだ。
「す、すいません……」
「うむ、偉いな」
また頭を撫でてくれる。
私は羅刹様に出会えて、本当に幸せだ。
屋敷で過ごせて、婚約できて……本当に幸せだった。
でも、私が幸せだった裏で、水奈はこんな仕打ちを受けていた。
本当に許せない。
両親が許せないのは当然。
今すぐ殺したい。
でも――違う。
多分、私が今一番抱いている感情は“自分への怒り”だ。
守ると決めたのに。
守るために筋トレを頑張ったのに。
肝心なとき、私は何もできず優雅な生活を送っていた。
私は、姉失格だ……。
「……水喜姉さんは、幸せですか?」
「水奈……。それは……」
「私は、水喜姉さんが幸せであることが、なによりも嬉しいです。姉さんが幸せであると信じていたから、私は今ここにいます」
それって……。
「もし、水喜姉さんまで辛い思いをしていたら、私はもう希望を失っていました。自殺を選んでいたかもしれません。それくらい……辛かったです」
そんなに……そんなに一人で抱えていたのか。
「だから、聞きたいです。水喜姉さんは、幸せでしたか?」
そんなの……決まってる。
「私は、幸せでしたよ。心の底から……本当に」
「えへっ。よかった」
水奈が、笑った。
偽りのない、心からの笑み。
「水奈……っ!!」
思わず、また抱きしめてしまった。
なんでそんな言葉をくれるの?
私は何もできていなかったのに。
守ると言いながら、何一つ守れていなかったのに。
なのに、なんでそんな笑顔を向けてくれるの?
なんで憎んでこないの?
「それにね。必ず水喜姉さんなら助けに来てくれるって、信じていました」
「え?」
な、なんで……?
「だって、水喜姉さんの私への気持ちは、本物でしょ?」
「っ!! 水奈!!」
私はもう一度強く抱きしめた。
痩せてしまった水奈の体は、折れてしまいそうに細い。
だから、宝物を抱くように優しく包む。
涙が止まらない。
姉として情けない。
でも、我慢できない。
水奈……私はもう、貴方に辛い思いをさせない。
絶対に救い出す。
何があっても……必ず。
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