第28話 涙
「え、羅刹様と、お姉さん??」
「みずっ――もご」
水奈に抱き着こうとすると、羅刹様に口を押えられてしまった。
すぐに襖は音もなく閉じられ、部屋の中にゆっくりと入る。
「もごもご??」
「声を出さずに、待っていろ」
「ぷはっ!」
え、な、なに? なんか、怒ってる?
いや、怒っているわけではなさそう。
羅刹様は、気配を消しながら閉じた襖に手を添える。
すると、微かに手元が光出した。
数秒間放たれていた光が落ち着くと、羅刹様が何事もなかったかのように私の隣まで移動して来た。
何をしたの? と言う気持ちを込めて見つめていると、羅刹様が教えてくれた。
「もう話していいぞ。襖に先ほどと同じ術をかけたから、中の声が外に漏れることはなくなった」
「な、なるほど」
納得した。
外にはまだ女中がいるから声が漏れてしまう訳にはいかない。
その配慮だったんだ。
「あ、あの?」
「っ、水奈!!」
困惑している水奈に怪我はないように見える。
思わず抱きしめながら体をまさぐり確認。よし、本当に怪我はなさそう。
だけど、少し細くなった?
元々痩せてはいたけど、なんかより一層細く……。
「ね、姉さん!! あの、くすぐったいよ?」
「くすぐったいと思っている水奈も可愛いよ」
「それは羅刹様に言ってあげてください」
「必要ない」
水奈の言葉で羅刹様を見るけど、必要ないと言われてしまった。悲しいです。
まぁ、流石に羅刹様の身体に触れるのは、ちょっと、まだ覚悟が足りないです。
「水喜の妹よ。少々話がしたいが、付き合ってくれるか?」
「は、はい。大丈夫ですけど……。あの、話って……」
「お前の両親についてだ」
羅刹様が言うと、水奈の顔が硬くなった。
どのような内容を聞かれるのかが瞬時に分かったみたいな反応だ。
「あ、あの。立ちながらも疲れるでしょうし、座布団を準備しますのでお座りください」
「待って水奈。私が準備する」
「え?」
座布団が部屋の角に積まれているのはもうわかっている。
すぐに立ちあがり、人数分の座布団を準備した。
二人は、私が座布団を準備している時、目を点として私を見ていた。
な、なに?
「あ、あの?」
「姉さん。もしかしてだけど、羅刹様の屋敷でも家事とかをしていたりは、流石にないよね?」
水奈が頭を抱えて質問して来た。
な、なんでそんなことを聞かれているんだろう?
「してるよ? 当たり前じゃない。住まわせていただいているのだから」
「…………」
あっ、水奈の視線が頭を抱えている羅刹様に移ってしまった。
そして、二人が同時にため息を吐く。
呆れられているみたいだけど、なんで?
「まさか、筋トレまではしていないよね?」
「筋トレは私の生きるために必要な習慣よ? しているに決まっているじゃない」
素直に言うと、またため息を吐かれた!!
なんで!? わからない。
私には、わからないよ。
困惑していると、羅刹様が私が準備した座布団に腰を下ろした。
「妹よ。心配なのはわかるが、水喜はそれで数か月を屋敷で過ごし、他のあやかしとも仲良くしている。あまり言ってやるな」
「羅刹様がよろしいのであれば、私は構いませんが……。本当にご迷惑ではありませんか? あやかしの頂点に君臨する鬼の婚約者が、家事や筋トレをしているなんて……」
「水喜がやりたいことをさせてやる。それが、婚約者である我の役目だ」
か、かっこいいーー!!!
感動するのと同時に、すごく嬉しい。
昼の羅刹様だけではなく、夜の羅刹様もそのように言ってくださって、嬉しいです。
本当に、ありがとうございます。
「それならよかったです。では、姉さんは今、幸せですか?」
今度は私に視線を移した。
そんな質問、答えは決まっているじゃない。
「えぇ、幸せよ」
「それならよかった」
「でも、今より幸せになる方法が、私にはあるの」
言うと、水奈は首を傾げ「それは?」と、聞いて来る。
決まっているじゃない。
「貴方が一緒に羅刹様の屋敷に来ることよ、水奈」
私も、座布団に座り水奈を見ながら伝える。
すると、水奈の瞳に涙が溜まり、今にも泣きそうになってしまった。
な、なんで!?
「ど、どうしたの水奈!! わ、私何か言ってしまったの!?」
いきなり泣き出してしまった水奈に聞くけど、なにも答えてくれない。
いや、答えられないんだろう。
しゃくりをあげ、涙を何度も拭き泣いている。
こんなに泣いている水奈を見るのは、いつぶりだろうか。
子供の頃から力が宿り、両親の思い通りの人形となってしまった水奈。
そんな水奈は、いつしか泣かなくなってしまった。
そんな水奈が泣いている。
感情を抑えずに、思いっきり泣いている。
私が何か、泣かせるようなことを言ってしまったのは確実なんだけど、嬉しい。
けど、謝りたいからなんで泣いてしまったのかを教えてほしい!!
「妹よ。何があったか話せるか?」
「ぐずっ……。はい」
やっと顔を上げた水奈の目元は赤くなっていた。
涙を強く拭ってしまったからだ。
「水奈、無理しなくて大丈夫だよ? ゆっくりで」
「大丈夫だよ、お姉さん」
水奈の涙を拭きとると、美しい笑みを浮かべ私に見せてくれた。
胸に突き刺さりました。
「では、水喜がいなくなってからの高浜家を教えてもらってもいいか?」
「わかりました」
水奈は姿勢を正し、話し出した。
私がいなくなってからの高浜家を―――…………
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