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第26話 糸を引く人物

「まさか、人間がワタシの気配に気づくなんて思わんかったのぉ~」


 屋敷の上空には、黒く長い髪を靡かせ立っている一人の女性がいた。

 白い着物に、赤い帯。艶のある髪は太陽の光りを反射して、綺麗に輝いていた。


 黒い瞳は、戻っていく水喜を捉えている。


「あの女、面白い力を持っているのぉ~。欲しいわぁ。でも、あの子よりも、もう一人の方が欲しいのぉ~」


 ふふっと笑いながら、瞬きをした一瞬で姿を消した。


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


「っ!」


 部屋の中で仕事をしていた羅刹が急に立ち上がり、焦るように襖を開けた。

 廊下には誰もいない。一歩前に出て、怪しむように周りを見るが、何も変わらない。


「…………気のせい、か?」


 目を細め、もう一度部屋に戻り席に着く。

 テーブルに置いた筆を手に取り、また仕事に戻った。


 だが、先ほどの怪しい気配が気になり、集中できない。

 ため息を吐き、天井を仰ぎ見た。


「――――――――百々目鬼、鴉天狗」


「「はい」」


 名前を呼ばれた二人は、すぐに羅刹様の部屋の前まで現れ、襖を開けた。

 部屋の中に入り、頭を下げ羅刹の言葉を待つ。


「屋敷の周りに少し、不穏な空気を感じた。調べてくれるか?」


「「了解」」


 言いながら、二人は廊下に出て襖を閉じる。

 これで、ひとまずは安全だろうと思ったが、羅刹の頭の中には水喜の姿が過った。


「…………声をかけるか。だが……」


 羅刹は頭を抱えて悩む。

 最近、水喜に絡み過ぎているような気がすると思い、声をかけるのを躊躇していた。


 今後、旦那になる身としては普通と言えば普通。

 だが、それでも昼の羅刹は、自分に自信がない。


 心配だろうと、声をかけすぎるのは良くないと考えていた。

 それに、昼の羅刹より、情けないが水喜の方が戦闘は強い。


 それは、大蛇を相手にした時にわかった。

 昼の羅刹は人に酔っていたとはいえ、水喜がいなければ確実に大蛇の毒やら、周りの筋肉質の人間に負けていた。


 守りたくても、守る対象の方が強いという苦悩に、羅刹はただただ頭を抱えるだけだった。

 どうすればいいのかは、考えるまでもなくわかっていた。


 ただ、強くなればいいだけ。

 訓練して、水喜を堂々と守れるくらいに強くなればいいだけ。


「…………我も、筋トレするか??」


 ――――――――ガラッ!!


「筋トレですか羅刹様ぁぁぁぁあああ!!」


「どわぁぁぁああああああ!!!!!!」


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


「大変誠に申し訳ありませんでした」


「い、いや。我も過敏に反応してしまって申し訳なかった」


 羅刹様に間食をお届けに参った時、ちょうど羅刹様が筋トレと口にしていたから体が勝手に反応して襖を開けてしまった。


 本当に、これは打ち首になってもおかしくない失態だよ。

 だから、今は畳に頭をこすりつけて謝っている。


「あ、頭を上げてくれ。本当に大丈夫だ」


「いえ、私の気が済みませんので……」


「我は、普通に話したいぞ……」


 戸惑っている、声が悲しそう。

 ――――もっと、聞きたい。


 いや、何を考えているの私!!

 やばい。私って、もしかして羅刹様に対してはドSになってしまうのか??


 なんか、困っている羅刹様をもっと見たい。

 けど、嫌われたくないので顔を上げます。


「それで、なぜ我の部屋の前にいたのだ?」


「小腹が空いたかと思い、ちょっとしたお食事をお持ちしようとしたのです」


 私の隣に置かれているのは、梅が入ったおにぎりと、お茶。

 でも、さっきまでのお話しタイムでおそらくお茶は冷めてしまっている。


「また、お茶を入れ直しますね」


「いや、大丈夫だ」


「ですが――?」


 襖の方から気配。

 羅刹様も気づいたらしく「入れ」と口にした。


 入ってきたのは、ろくろ首さん。

 今は普通の女性の姿をしている。


「どうした?」


「羅刹様、少々、街中の空気がよどんでいると、人間と共に過ごしているあやかしからの知らせです」


「なに?」


 淀んでいる?? 

 羅刹様もろくろ首さんの方を向き直し、話を促した。


「猫又からの連絡ですが、ある祓い屋の動きが大きくなり、人間達の動きが変化しています」


「ある祓い屋?」


「高浜家です」


 っ、え。

 高浜家? 


 な、何をやらかしたの、あの親ども。

 水奈に変なことしてないでしょうね。


 もし、水奈の体や心に大きな傷を付けていたら私は絶対に許さないぞ。

 何をしてでも、水奈を取り返して、潰してやる。


「水喜、落ち着け。殺気が流れてきている」


「はっ。す、すいません! 妹に何かあったのかなと思って、つい……」


「不安になるのはわかる。だが、今は話を聞こう。それからどう動くかを考えるぞ」


「わかりました」


 いけない、いけない。

 私ったら、心を乱してはいけないというのに。


 深呼吸して、気持ちを落ち着かせて話を聞かないと。


「続きを、お願いします」


「わかりました。高浜家は、今まで身を顰めながら、少しの依頼で多額の金額を貰い生活していました。ですが、欲に目がくらんだのでしょう。徐々に活動を大きくしていき、今では人を騙し不安にさせ、逆に悪霊の動きを活発化させています」


 ・・・・・・馬鹿なの?

 え、私の両親、馬鹿なの?


「なるほど。悪霊やあやかしは、人の弱みに付け込む傾向にある。あえて、不安を広め悪霊を取りつかせ、自身の祓い屋へと依頼させて金を巻き上げようとしている訳か」


「私の馬鹿(両親)がすいません……」


 あぁ、穴に入って埋まりたい。

 そして、来世で生まれ変わりたい。


「だが、人間の力だけでは限界があるだろう」


「猫又が言うには、まだ詳しくはわかっていませんが、裏で糸を引いている人物がいそうだと」


「なるほど。そいつをまずあぶりだす必要があるのだな」


「はい」


 裏で手を引いている、人?

 誰だろう。


「今、百々目鬼と鴉天狗に見回りをお願いしている。その報告次第で動きを決めるぞ」


「わかりました。では――……」


 必要事項だけを伝え、ろくろ首さんはいなくなった。


「…………」


 それにしても、本当に何をしているのあの二人は!!

 いや、今の話だと裏の人物が私の両親を(そそのか)して動かせているのか。


 そんな中に、あんなに可憐で純粋な水奈がいる。

 今すぐにでも家に帰りたい。あの、細くて白い、綺麗な手を掴んで救い出したい。


「水喜」


 ――――――――ポンッ


「っ、羅刹様?」


 頭に優しい温もりが乗っかる。


「落ち着け」


「は、はい」


 いけない、また私は取り乱してしまったらしい。

 深呼吸、深呼吸。


「お主の家族は、我が出来る限り守る。安心しろとは、流石に言えないがな……」


 ここで、いつものおどおどとしたような羅刹様が発動。

 目を泳がせながらも、私を安心させようとしてくれている。


 ふふっ、可愛い。


「ありがとうございます。そう言っていただけるだけでも嬉しいです」


「すまない……」


 シュンとしてしまった。

 そんな羅刹様も可愛い。


「あっ、羅刹様。夕暮れが傾いていますよ。もう夜になります。私はこれで失礼しまっ――……」


 ――――――――グイッ


 っ、引っ張られた?

 あ、あれ? 銀髪が私の視界に映る。


 昼の羅刹様は髪が短いから靡いても、顔を背けている私の視界には入らないはず。



「夜でも人間はまだ動いている時間だろう。行くぞ、水喜」


「ひゃ、ひゃい」


 よ、夜の羅刹様だ。

 長い銀髪に、切れ長の左右非対称の瞳、唇から覗き見える鋭い牙。


 夜の羅刹様が現れた。


ここまで読んで下さりありがとうございます!

出来れば次回も読んでいただけると嬉しいです!


出来れば☆やブクマなどを頂けるとモチベにつながります。もし、少しでも面白いと思ってくださったらぜひ、御気軽にポチッとして頂けると嬉しいです!


よろしくお願いします(*・ω・)*_ _)ペコリ

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