第24話 かっこいい羅刹様
素直に伝えると、羅刹様は大きく目を開いた。
「なんと。そんな力を持っていたのだな。それは、どこまでの未来を見れるんだ?」
「あまり使ってこなかったのでわかりませんが、今までだと次の日までは普通に見れました。多分、集中すればその先も、おそらく……」
ただ、今まで使うことすら妹に禁止されていた。
だから、限界がわからない。
「なるほど。それも詳しく、後程聞こう」
「今は聞かないのですか?」
妹との約束だったとはいえ、私は羅刹様に秘密にしていた。
これは、重罪だ。首を飛ばされてもおかしくはないはず。
そう思っていたのに、羅刹様は普通だ。
「怒らないのですね。秘密にされていたことがあるのに」
「なぜ怒る。秘密も何も、言うべき時が今だっただけだろう。それまでは言う時ではなかっただけだ」
大蛇さんの言葉にも、当たり前のように言う羅刹様に、私はなんとなく目が離せなかった。
表情を伺うも、なに一つ変わらない。
偽っていないのがわかる。
「どうした?」
「っ! な、なんでもありません」
な、何だろう。
なんか、今、胸が跳ねた気がした。
今も、ドキドキしている。
なんだろう、これ。
「そうか。では、大蛇。まだ知っている情報があるだろう? そっちも早く聞かせろ」
「わかりました」
そ、そうだ。
水奈が腹違いの子なのだとしたら、私と水奈は半分しか血が繋がっていないことになる。
悲しい、本当に悲しい。
いや、納得できるところはある。
私みたいなガサツな女と、水奈のように可憐で女神のような守ってあげたくなる女性。
血が半分であれ繋がっているのが厚かましい、か。
「水奈と言う人物の、本当の母親を探すために調べ続けていたのだが、もう亡くなってしまっていた。あるあやかしとの戦いで」
「ある、あやかし? それは一体誰だ?」
「九尾の狐だ」
っ、九尾の狐??
九尾の狐と戦ったの? 水奈の、本当の母親は……。
「なぜ、九尾の狐と?」
「今の九尾の狐は、現代に溶け込み人間を惑わしているらしい。それに気づいた人間の依頼で向かったが、返り討ちに遭い、亡くなったみたいです」
「なるほど。力を持っているといえど、九尾はさすがに勝てないだろう。あいつは強い、夜の我でも勝てない可能性がある」
夜の羅刹様ですら、勝てない可能性があるの?
最初、出会った時にあやかしを倒してくれた羅刹様は、一瞬だったから見えなかったけど、強いということは体が感じていた。
そんな羅刹様より、強いかもしれないって。
そんなの、人間が勝てるわけがない。
「ふむ。人間世界に災いを起こそうとしているのか、九尾の狐の動向を探った方がよさそうだな」
「ですね。ですが、この情報、高浜家にとっては周りに知られたくない情報のはずですよ」
…………??
大蛇さんが私を見て来る。
な、なんだろう。
「この情報の使い道は、貴方に託しますよ。高浜家の長女さん」
「え? え?」
いきなりそんなこと言われても、その、困ると言うか。
「そうだな。この高浜家の情報は水喜が持っていた方がいいだろう。今後、いろんなことに使える。例えば、復讐とかな」
え? にやりと笑っている羅刹様かっこいい。
じゃなくて、ま、まさか…………。
「し、知っていたの、ですか?」
「まぁな」
まさか、私が自分の両親、家族に復讐を企んでいると知られていたなんて思わなかった。
これを知っているのは、確か狗神さんだけ。まさか、狗神さんが?
「お主が考えていることが手に取るようにわかるが、狗神の口からはなにも聞いておらんぞ」
「なら、なぜ?」
「まぁ、夜の我に聞いてくれ」
「えぇ……」
そこまで言って、まさか夜の羅刹様に逃げるなんて……。
…………どことなく顔が青い。怯えている顔を浮かべている。
「途中まではかっこよかったんですけどねぇ。途中で怖くなってしまいましたか」
「うるさいぞ」
思わず、ポカンとしてしまう。
ど、どど、どゆこと??
「勝手に秘密を知ってしまって、嫌われないか不安になってしまったのですよ、このビビり鬼は」
「夜の我じゃないと余裕だな……」
「昼の貴方は正直、そこまで敵ではありませんから」
クスクスと大蛇さんが笑っている。
悔しそうにしている羅刹様がかわいい、けど、大蛇さんは今、羅刹様を馬鹿にしたのか??
「――――ゴホン。まぁ、今はこの辺りにしましょうか」
私からの殺気を感じて、逃げたな。
まぁ、イケメンだから許してあげましょう。
私も、今はそれどころではないので。
だって、復讐していることがばれていた。それって、普通にまずい。
復讐する女って、嫌だよね。
怖いよね、どうしよう……。
復讐をするのを知られていたのは予想外。でも、それは正直、何ればれていたからそれが少し早まっただけ。
でも、一番の予想外は…………。
「あの、羅刹様。私が復讐すると知っていたのに、なぜ何も言わなかったんですか?」
「何も言わなかった? 何をだ?」
「復讐は自分でやろうとしていたとはいえ、いい事ではありません。なのに、なぜ止めなかったんですか? それに、今も推奨するような言い方………。もしかしたら、羅刹様を大きく巻き込んでしまうかもしれないというのに…………」
いや、巻き込む気はないけれど、それでも情報を知っているというだけで羅刹様も私と同じとなる。
つまり、なにか失敗してしまえば、羅刹様にも何かしらの不運が降り注ぐ。
それを羅刹様がわかっていないわけがない。
それなのに、なんでそんなことを言うのかわからない。
「我はお主の婚約者だ。これから共に進んでいく嫁になる女を、男が守らんくてどうする」
「か、かっこいい……。ではなく!! そのお言葉はものすごく、本当にものすごく嬉しいですが、何が起きるかわからないのですよ!? 正直、羅刹様になにかあれば私の心が死にます!!」
冗談抜きで本当に死ぬと思う。
死にに行くと思う。
「お主に何かあれば我の心も死ぬぞ?」
「絶対に嘘です!! だって、羅刹様は私のことなんとも思っていないでしょう!?」
………………あ、あれ? なんか、空気がものすごく重くなった気がする。
な、何だろう。この空気、なんか、怖い。
「大蛇、腹を抱えて笑うな」
「ギャン!!」
大蛇さん、羅刹様に殴られて気絶してしまった。
「ゴホン。ひとまず、今の話についても、少々話し合わなければならないな」
「え?」
「だが、それより今は高浜家についてだ。その情報をどう扱うか、どのように今後動くか。話せるようになったら話せ。昼でも夜でも大歓迎だ」
ポンと、頭を撫でられた。
「では、狗神。この邪魔者を外に放り投げておいてくれ」
「了解しました」
襖が開かれ、気絶している大蛇さんに狗神さんが犬の姿で近づいて行く。
服を咥え、そのまま引きずりながら廊下へと居なくなってしまった。
「では、我は仕事がある。振り回してすまないが、ここからはまた自由にしてくれて構わんぞ」
「え? あ、あの?」
何事もなかったかのように羅刹様が立ちあがる。
絶対に、ここで根掘り葉掘り聞かれるのかなと思っていたから変な声を出してしまった。
「どうした?」
「い、いえ。あの、詳しく聞かないのですか? 力についてや復讐についてなど」
「聞いても良いのか?」
「あ、い、いえ。そういう訳では…………」
いや、話さなければならない。
婚約者に秘密は許されない。しかも、相手は鬼。
不安に思っていると、羅刹様が私の頭に手を伸ばした。
――――ポンッ
「そんな怖い顔を浮かべるな。無理やり聞こうとは思っておらんし、何も企んでおらん」
「で、ですが、隠し事など、本当は許されないのではありませんか?」
今まで共に過ごしてきた百々目鬼さん達のようなあやかしではない。
ここ最近来たばかりの、ただの祓い屋の長女。
復讐と言っておいて、実は羅刹様を殺そうとしていると思われてもおかしくはないはず。
なのに、なんでこんなにも無防備な姿をさらせるの?
「なぜ、許されないのだ? 誰にでも秘密の一つや二つはあるだろう。一つも秘密を持っていない奴などいない。我も話せないことの一つや二つはあるからな」
ケラケラと笑いながら言う羅刹様の笑顔は、本当に嘘を言っていないのがわかる。
「だが、行動を起こす前に言うのだぞ。我もお主を支えたいのだからな」
頭から温もりが消える。
今度こそ羅刹様が立ち上がり、部屋を後にした。
この場にいるのは、私ただ一人。
なんか、なんか……なんか!!!
「…………本当に羅刹様、見た目だけじゃなくて性格までかっこいい…………」
これは、絶対に話さなければならない。
秘密ごとなど許されない。
だって、あんなイケメンにかっこいいことを言われてしまったのだから。
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