第22話 小鬼
羅刹様のお屋敷にお世話になってから数か月が経った。
雪女さん以外のあやかし達は、私が人間だからかすごく気を使ってくれていたけれど、今は慣れて来たみたい。
今では、筋トレも一緒にやってくれたり、家事も楽しく話しながら出来て本当に楽しい。
こんな素敵な日々が続くとは思っていなかった。
こんな、筋トレしか能がない私なんかに笑いかけてくれる人達。
いや、あやかし達がいるなんて思わなかった。
「よいしょ、よいしょ」
ん? あ、小鬼ちゃん達が重たそうな石を箱に入れて運んでる。
小鬼は、桃太郎の絵本とかに現れそうな鬼を小さくしたような感じの見た目だ。
まだ、人間に擬態が出来ないから、赤い姿らしい。
「小鬼ちゃん達、何を運んでいるの?」
洗濯ものを干していたんだけど、手に持っていたズボンを籠に戻して、駆け寄って聞いてみた。
近くで見ると、箱の中には大きな石が数個入っている。
それを、小鬼ちゃん四人が運んでいた。
「こんにちは、水喜様!」
「こんにちは。これは何を運んでいるの?」
聞きながら箱を持ち上げるけど、結構重たい。
けど、余裕。
「お、重たいですよ!!」
「大丈夫よ。それより、これは?」
「それは、漬物石ですよ! 雪女さんにお願いされて運んでいるところです!」
漬物石か。
それは確かに重たいよね。
箱の中には、見た感じ四つの漬物石が入っている。
これを運ぶのは、こんな小さな小鬼達ではきついだろう。
だって、小鬼達は私の膝くらいの大きさ。
小さい。こんなに小さいのにこんな重いものを運んでいるなんて、なんていい子達なんだ。
「私も運ぶわ。どこに持って行けばいいかしら?」
「え? で、でも駄目ですよ!! 羅刹様の婚約者にそんなことをお願いしてしまったら、後が怖いです」
本当に怖がっているのがわかるくらいに、体が震えている。
「私は家事もさせてもらっているから、お手伝いくらい大丈夫よ」
「で、でも……」
んー、ここまで怖がっているのに、無理やり運ぶのも心が苦しいなぁ。
「あっ。なら、途中まで運んであげる。途中からお願いしてもいいかな?」
聞くと、小鬼ちゃん達は満面な笑みを浮かべて「こっちです!」と案内してくれた。
か、可愛すぎる!!
一緒に話しながら歩いていると、向かっている先が台所だっていうのがわかった。
屋敷の中に入るところで小鬼ちゃんに箱を渡して、私は洗濯物が置かれているところまで戻った。
今回、小鬼ちゃんに指示を出したのは雪女さんかぁ。
雪女さんと百々目鬼さんは、羅刹様に近い存在。つまり、女中の中のボス。
百々目鬼さんの羅刹様への愛が凄いということは、この数か月でわかった。
何度もお茶会を開いて羅刹様のいい所や強い所、今までの武勇伝を聞いてきたんだもん。
その話を聞く度に、私も頭の中で妄想して興奮していた。
そんな感じで百々目鬼さんとは仲良くなれた。
問題は雪女さんだ。
相変わらず雪女さんからの当たりは強い。
どうやったら仲良く出来るかなぁ…………って、無理かな。
雪女さんは、羅刹様が好き。
私は、羅刹様の婚約者。
立場的に、絶対に仲良く出来ないよねぇ……。
でも、まだ結婚はしていない。
羅刹様も、もしかしたら雪女さんが好きかもしれない。
私が入ったことで、羅刹様の周りがこじれていないのか、少し不安だ。
私はただ、あの家から逃げ出したかっただけ。
あんな毒親から逃げたかっただけ。
あとは、イケメンを拝みたかっただけ。
羅刹様を讃えたかった、イケメンを近くで見たかった。
ただ、それだけ。
恋愛感情はない。
恋愛感情なんて、持ってはいけない。
私はただ、妹を救い出し、羅刹様を守る女。
そう、私は騎士!!
主とヒロインを守るための騎士なのだ!!
ただなぁ、気になるのが羅刹様の想いだ。
まず、私を好きになるはずはない。
なら、婚約破棄をすると言ったらいいのかな。
そしたら、羅刹様は前までの日常に戻る。
私がここで婚約は無しと言ったら、羅刹様はどうするのか。
なんと言うのか、どんな顔を浮かべてしまうのか。
悲しむことはまず、ない。
こんな、契約結婚みたいな関係、いつ崩れてもおかしくはない。
羅刹様も無理していると思うし……。
洗濯物の場所までたどり着き、籠から洗濯物を取る。
すると、後ろから名前を呼ばれた。
振り向くと、そこにはお昼姿の羅刹様がいた。
今日も、イケメンだ!!
「おはようございます、羅刹様」
「おはよう。今日も頑張っているんだな」
洗濯物を持っている私の頭を撫でて、羅刹様は労いの言葉をかけてくれる。
最近、羅刹様との距離が近くなった気がする。
大蛇さんと会ってからかな。
あの日から、羅刹様が私の頭を撫でてくれたり、褒めてくれたりと。
すごく良くしてくれている。
これも、私が婚約者だから、だよね。
好きになろうと頑張ってくれているんだよね。
「水喜? どうした?」
「っ、いえ、なんでもありませんよ。それより、羅刹様、今日は――……」
お仕事ですか? そう聞こうとする前に、雪女さんが急に風と共に現れた。
「羅刹様、お客様です」
「――そうか」
羅刹様は私に手を振り、そのまま雪女さんと共に居なくなってしまった。
一瞬、雪女さんから殺気を感じたけど、まぁ、いいや。
「お客様か。…………誰なんだろう」
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