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第21話 狗神

 許可頂いたので、お言葉に甘えて外に出る。

 まだ、色んなあやかし達が屋敷の掃除をしていた。


 学校の体育館より大きい屋敷だもんね、一日かかってしまってもおかしくない。

 大変だと思っていたけど、みんな生き生きしている。


 楽しそうに掃除をしている。

 美女が、いい汗を拭っている。

 美女が、美女の汗が、流れ…………。


「いけない、いけない。鼻血が出てしまう」


 掃除をしているあやかし達に会釈をしながら、屋敷の横へと行き、裏手に回る。


 いや、回りたいんだけど、流石に大きくて屋敷の裏を確認するには結構歩かないといけないかも。


 体力的には問題ないけど、少しめんどくさいなぁ。

 それに、暑い。


「今日は気温が高いなぁ。日差しも強い」


 どうしよう、暑さ対策してこなかったから肌が荒れそう。

 せめて帽子とかはあった方がいいかも。


 これから夏になるし、肌荒れしてしまったら羅刹様の隣に立てなくなってしまう。

 気を付けよう。


 今は、なにもないし、日陰に避難して少しでも紫外線から逃げよっと。


「ふぅ〜。屋敷の影に隠れたけど、暑いものは暑いなぁ」


 まぁ、いいや。

 とりあえず、軽い筋トレをしながらこれからのことを考えよう。


「フン!! フン!!」


 壁に手を付き、腕立て伏せ。

 これは楽だし、他に思考を回しても問題はない。


「フン! フン!」


 私の一番の目的は、愛しの妹、水奈を毒家族から救い出すこと。

 欲を言えば、高浜家を亡ぼしたい。


「フン!! フン!!」


 救い出しただけだと、あの両親のことだ。

 絶対に水奈を連れ戻そうとするはず。


 それなら、高浜家自体をつぶせばいい。

 未練はない。あんな家、逆につぶれるといいよ。


 ただ、その方法だ。

 絶対に羅刹様には迷惑をかけられない。

 もちろん、他のあやかしさん達にもだ。


「フン!! フン!!」


 それと、水奈の気持ちも尊重したい。

 私には未練は一切ないけど、水奈にはあるかもしれない。


 力が出現するまでは、普通の両親だったわけだし。

 優しくて、ただただ幸せな家族だった。


 姉には力がない。

 妹には力がある。


 妹の力で金が入り、言うことを聞いてくれる駒ができた。


 それで、変わってしまった。

 私達高浜家は、力一つで変わってしまった。


 その、変わる前の高浜家に水奈は未練があるかもしれない。

 優しいから、私の愛する妹よ。


「フン!! …………それを確認するには、水奈と話したんだけどなぁ」


 絶対に私一人では、近づくことすらできない。

 水奈が抜け出す方法もあるけど、そのためには手紙でもいいから送りたい。


 両親に気づかれないように手紙を送る方法。

 水奈は厳重に守られている。絶対に誰かの目に映ってしまう。


 みんな、私を毛嫌いしていたし、協力をお願いするのは不可能。


「はぁ。八方塞がりだなぁ」


 空を見上げると、綺麗な青空が広がっている。

 気持ちがいいほどの晴天だ。


「まぁ、ここで悩んでいても仕方がないし、どうにかしないとなぁ」


 まずは、水奈の気持ちを最優先で確認しよう。

 手紙以外となると、電話?? 無理無理、そんなことしたら確実に両親に知られる。


「うーん」


「いかがいたしましたか?」


「っ!? え!?」


 声が聞こえて反射的に振り向くと、そこには見覚えのない美形が立っていた。

 流石に驚きすぎて固まっていると、美形さんが姿勢を整え、笑みを浮かべた。


「あっ、ご挨拶が遅れてしまい申し訳ありません。私は、狗神です。今は人の姿に変化していますが、普段は犬の姿をしています」


「な、なるほど」


 狗神って、確か人の恨みが作り出したあやかしだったはず。


 恨みによって作られてしまったから、ものすごく狂暴だと聞いていたけど、私の目の前にいる狗神さんはただの美形。


 茶髪は肩までの長さ、目元はよく見ると獣のように瞳孔が縦長になっており、黄色に光っている。


 服は、一般的な落ち着きのある色をしている袴だ。


 こんなにシンプルだからなのか、本人の美形度が際立っている。

 よく見ると、美形だけではなく少しの可愛さもあって、心臓が危険状態。


 かわいい、かっこいい。

 ずっと見ていられる。


 でも、こんな美形がなぜこんな所にいるんだろう。


「あ、あの。なぜこんな所に? さっきまで人はいなかったかと思うのですが……」


「声が聞こえたので。なんか、フン!! フン!! という声が」


「あー……」


 私か。

 私だな。


 なにもいい訳が出来ず頭を抱えていると、狗神さんが微笑みながら質問して来た。


「水喜様、こんな所で何をしていたのですか?」


「少し、考えことをしていました」


「考えことですか? 何か不自由がござましたでしょうか」


 私の発言で狗神さんは少し心配そうにしてしまった。


「この屋敷に関しては全く不自由はありませんよ。ご心配をおかけしてしまい申し訳ありません」


「いえ。あの、では何か? 私でよければお話を聞きますよ」


 うっ!! こんなかわいい顔でそんなことを言われてしまうと、話してしまいそうになる。


 でも、だ、だめ。駄目よ。

 これは私個人が抱えていることであって、この人には関係ない。


「大丈夫ですよ。ありがとうございます」


「本当ですか? 本気で悩んでいるように見えましたが」


「え? そんなに難しい顔を浮かべていましたか?」


「はい。もう、世界滅亡の危機のような顔を浮かべていましたよ、筋トレしながら。なので、思わず声をかけてしまったのですが」


 世界滅亡、あながち間違えてはいないか。

 妹は私にとって世界。そう、生きていくには必要で、私が生きていくのに必要な酸素的な存在。


 妹、あぁ、私の妹。

 早く貴女に会いたいよ。


「あの??」


「あっ、す、すいません。つい、愛しの妹を思い出してしまいました」


「妹、ですか?」


「はい」


 そこからは、なぜか妹の話を永遠と話してしまった。

 どれだけかわいいか、優しいか。美しいか、強いか。


 日が暮れることも気にせず、話してしまった。

 狗神さんもニコニコしながら話を聞いてくれて、止められなかった。


「……――ということで、私はあの毒親から妹を救い出したいのです!!」


「なるほど。確かにそれは不安ですね」


「そうなんですよ!!」


 はぁ、楽しかった。

 大好きな人について話すのは、なぜこんなにも楽しいのか。


「……………………」


 ・・・・・・・・・・って、しまったぁぁぁあああ!!!

 つい、狗神さんに妹を救い出したい話をしてしまった。


 絶対に巻き込みたくなかったというのに!

 どうしよう。羅刹様に話が伝わってしまう。


 一人で慌てていると、狗神さんがクスリと笑った。


「安心してください。水喜様が羅刹様に言わないでほしいのなら言いません。他のあやかしにもです」


「ほ、本当ですか?」


「はい。羅刹様の婚約者である水喜様のお言葉は、絶対なので。()()()()()()()()()()()()


「ありがとうございます!!」


 お礼を言うと、狗神さんは立ち上がる。


「では、もう時間が遅くなっています。屋敷に戻りましょ」


「はい」


 手を差し出されて、素直に握り立ち上がる。


「私はまだやることがあります。暗くなっておりますので、足元に気を付けてください」


「わかりました。話を聞いてくださりありがとうございました」


「また、なにかあればお声がけください」


 手を振り屋敷へと戻る。

 なんとなく、人に悩みを話したからなのか気持ちが楽になった気がする。


 また明日から頑張るぞ!! 筋トレも!!


 ※


 手を振り、水喜を見送った狗神は、彼女が見えなくなると優しい笑みを消した。


 目を細め、上がっていた口の端が落ちる。

 手を下ろし振り向くと、そこには夜の姿をしている羅刹が立っていた。


「盗み聞きとは、いい趣味をお持ちですね」


「偶然だ」


「嘘の臭いがしますよ」


 狗神の言葉に、羅刹は気まずそうに顔をそらした。


「…………お前もいい趣味をしているだろう。我がいることに気づいていたというのに、話を止めずに聞いていたのだから」


「私は、羅刹様を慕っているのであって、正直人間のことはどうでもいいと思っています。それが例え、羅刹様の婚約者だったとしても、ね」


 ふふっ、笑っている狗神に呆れつつ、羅刹は頭をガシガシと掻く。


「おい、水喜には手を出すなよ?」


「安心してください。羅刹様の婚約者の言葉が絶対と言うのは本当です。私の口からは今回の件は話しませんし、必ずお守りします。どうでもいいですけれどね、人間自体は」


 狗神は、嘲笑うように羅刹を見るとその場を離れる。

 残された羅刹は肩を落とし、星が浮かぶ空を見上げた。


「――――昼の我も、待つことを選択したしな。仕方がない、話すまで待つか」


ここまで読んで下さりありがとうございます!

出来れば次回も読んでいただけると嬉しいです!


出来れば☆やブクマなどを頂けるとモチベにつながります。もし、少しでも面白いと思ってくださったらぜひ、御気軽にポチッとして頂けると嬉しいです!


よろしくお願いします(*・ω・)*_ _)ペコリ

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