第2話 生活
「フン!! フン!!」
高浜家は、現代にしては珍しい和装建築の大きな屋敷だ。
「フン!! フン!!」
それでいて、高浜家は昔から代々続く、有名な祓い屋。
「よいしょ!! よっこいしょ!!」
現代では、祓い屋は表に出してはいけない職業となっており、身を隠しながら祓い屋としての活動をしていた。
「フンフンフンフン!!!!」
だからなのかはわからないけれど、高浜家は大きな屋敷を隠すように森の中に建てられていた。
「フンフンフンフン!!!」
だから、高浜家の長女である私は、両親の目をかいくぐり森の中で午前の時間を過ごしていた。
何をして過ごしているのか、それは祓い屋としての力がない私でも人のために動けるように――……
「筋トレじゃぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!」
「お姉さん、流石にもう少し女性らしく生きよう?」
「愛しの我が妹ぉぉぉぉおおおお!?!?!?」
森の中で動きやすい服装をしていた。
赤いジャージに、腰まで長い髪を後ろにまとめながら腹筋や腕立て、背筋やら色々な筋トレをしていた私の元に、私の唯一の家族である妹、水奈が来てくれた。
「まったく。水喜お姉さん、ご飯もろくに食べられていないのに、そんなに動いたら本気で体を壊すわ」
「あ、ありがとう」
水奈は今日も美しい。
付い屋のある黒髪が太陽に照らされ神々しく光り、茶色の瞳は呆れたように少しだけ歪められている。
色白の肌は、黒と赤の着物にすごくあっている!!
可愛い、美しい、可憐だ。
「水喜お姉さん、これ水。あと、おにぎり。今、お母さんもお父さんもいないから作れたよ。食べて」
「え?? 水奈が握った、おにぎり!?」
あ、あぁ、水奈が握ったおにぎりって、おにぎりって!
おにぎりってこんなにも中の具材が飛び出しているんだっけ??
「ご、ごめん。初めてだから、へたくそなんだ。お母様のを見よう見まねで作ったの。美味しく無かったらごめんなさい……」
初めて? え?
水奈の初めておにぎりを私が食べられるの?
「人生で一番幸せな時間だ」
「涙を流して言うこと? 大丈夫? はみ出してしまった梅干しが落ちそうだよ」
「水奈の欠片が!!」
「梅干しが欠片は嫌だなぁ」
昨日の夜は余らなかったらしく、私はご飯抜きだった。
だから、このおにぎりは本当に美味しくてたまらない。
すぐに食べ終わってしまった。
「水喜お姉さん」
「どうしたの?」
「そんなに体を鍛えてどうするの?」
首を傾げ、水奈が聞いて来る。
心配してくれているのかな、嬉しいなぁ。
「私、祓い屋としての力がないでしょ? だから、体を鍛えて、少しでも水奈の負担を減らせたら嬉しいの」
ニコッと微笑み言うと、水奈も心配そうにしながらも「わかった」と頷いてくれた。
今のは、半分本当で半分嘘。
力は、ある。でも、役に立つ力ではないし、使うとすごく目が疲れてしまうから使えないんだよね。
「…………ごめん。多分、あともう少しでお母様が帰ってくる」
「そうなの?」
「うん。あともう少しで依頼人との約束の時間なの」
あー、そういうことか。
今日も水奈は、祓い屋としての仕事をさせられる。
水奈自身、祓い屋として働けて嬉しそうには見えないし、早く救い出してあげたい。
でも、そのためには私がもう少し力を付けないといけない。
「じゃね、水喜お姉さま」
「うん、頑張って」
お互い、手を振って別れる。
早く、早く水奈を自由にさせてあげたい。
早く、解放させてあげたい。
早く、早く……。
「…………焦っては駄目。確実なものを手に入れてから、助けるの。そして、この高浜家を――――潰してやる」
※
「ふぅー。ここも終わった」
筋トレが終わった私は、午後からは屋敷の掃除。
今は、廊下の掃除をしていた。
高浜家は、無駄に大きい。
廊下だけで三時間以上はかかる。
それを一人でやれと言われているのだから、普通に四時間はかかってしまう。
まぁ、綺麗になるのは好きだし、これも筋トレになるしいいけどね。
でも、母がめんどくさいんだよなぁ。
母が屋敷にこだわりを持っているから、少しでもチリがあるとなぜか私がものすごく怒られてしまう。
私が担当した場所でなくても、私を怒る。
慣れましたけどね。
「よいしょっと!」
左右に広がる廊下を見てみるけど、汚れはない。
よし、違う場所に移動だ。
雑巾をバケツの中に入れて――っ。
「いっ、たぁ」
あーあ、指が切れたのか。
あかぎれだな。掃除は、これが嫌なんだよね。
爪も栄養不足で割れやすいから、ボロボロ。
でも、痛いけど気にならない程度だし、あとで絆創膏でも付けておこうか。
「ふぅー。……ん?」
…………あれ? 廊下の端に二人の女中が立っている。
私を見てコソコソしているけど、なんだろう?
「高浜家の長女なのに掃除させられているなんてね」
「可哀想に。あんな広い廊下を一人で掃除なんて。私はごめんだわ」
なるほど。私を見て嘲笑っていたのね。
まぁ、いいわ。
私は慣れているし、それが楽しいのならお好きに言えばいいわ。
でも、女中の仕事を放り投げてさぼっているのはいただけないわね。
私を下に見るのはいいけれど、自分の役割はしっかりと果たしてもらわないといけないわ。
バケツを持ち、わざと隣を通り抜けると、気まずそうに顔を逸らした。
そのまま、何事もなかったかのように、女中二人は廊下を歩き去った。
「私のことを面白がるのも、無理はないけれどね」
力のない私は、両親からストレス発散道具にされ、雑用をさせられている。
もう、女中以下の扱い。せめて、ご飯だけはまともに欲しかったなぁ。
バケツを運びながらそんなことを思っていると、一人の男性が涙を流しながら部屋から出て来た。
「本当に、ありがとうございました」
「いえ。また何かありましたらお越しください」
部屋から出て来た男性に続き、母が出て来た。
腰を折り、男性を見送る。
あー、依頼、無事に終わったんだ。よかった。
依頼人であったであろう男性を見送ると、母は私に気づいた。
すると、わざとらしく眉間に皺を寄せた。
「はぁ、来なさい」
うわぁ、最悪。
でも、ここで拒否しても意味ないし、もしかしたら今日のご飯をなしにされるかもしれない。
水奈の初めてを貰ったけど、流石に夜ご飯をなしにされる訳にはいかない。
ここは何も言わずについて行こう。
「わかりました」
赤い、牡丹が散りばめられている着物が汚れないようにたすきをかけていたけれど、それを外す。
邪魔だったからまとめていた髪も解き、静かについていく。
母に言われた通り部屋の中に入ると、父と妹である水奈がいた。
父が私を見ると、深い溜息を吐いた。
「まったく、みっともない姿だな、水喜。我が家の恥さらしよ」
また、始まった。
「本当ね。なぜ、姉である水喜はこんなに無能なのでしょう。妹である水奈はこんなに有能だというのに」
もう、何回も聞いたから聞き飽きたわよ。
「…………」
妹である水奈は、何も言わない。
気まずそうに視線を下げ、膝に乗せている拳を握っていた。
気まずい、よね。
ごめんね、こんなに情けない姉で。
こんなに弱い姉で、本当にごめん。
「水奈は今回も、また祓い屋として成果を上げたわよ」
母が言うには、今回の依頼は簡単な邪気払いだったみたい。
水奈は、邪気払いは簡単にできる。
しかも、今回のはまだまだ弱く、すぐに終わったらしい。
今まで、水奈が仕事をすると、依頼人が帰った後に必ず私は呼ばれていた。
そして、今のように罵られる。
恥さらしだの、無能だのと。
そう思っているのなら私なんて放置すればいいのに。
なんで、こうやって時間を無駄にするようなことを自らするのか。理解できない。
「聞いておるのか、バカ娘」
「はい、聞いております、父上」
腰を折り、頭を下げる。すると、腰まで長い黒い髪が落ちる。
視界が遮られて、母と父の顔を見なくて済むから、この髪は好き。
「はぁ、もうよい。部屋に戻れ、恥さらしが」
「わかりました」
鬱憤晴らしは終わったらしい。
頭を上げ、廊下に出る。
「はぁ…………」
中からは、水奈をほめる言葉が飛び交う。
そうやって気分を良くさせて、もっと祓い屋として仕事を取るつもりなんだろうな。
水奈が動けば、金が入る。
それで豪遊ができるんだもん。そりゃ、ほめるよね。
隠しているのかもしれないけど、二人が封筒を手にしてパチンコに行っているのを何回も見ている。
競馬にも時々行っているみたい。
お酒とたばこも楽しんでいる。
今の時代では、特にパチンコも競馬もお酒もたばこも普通だ。
普通だけれど、それは自分達で稼いだお金ならの話だ。
無理やり水奈に働かせて稼がせて、自分の娯楽に使うのは間違っている。
そんなことを考えていても、意味はないんだけどね。
廊下を歩いていると、父が大事にしている庭にたどり着く。
池では鯉が泳いでおり、盆栽が棚に置かれ、風に揺られていた。
アニメや漫画に出てくるような和風世界が、私の目の前に広がっている。
でも、森から外に出れば世界は変わる。
和風テイストに作られている高浜家の屋敷から出るとあるのは、アスファルトの道路。
まっすぐ行くと、高層ビルやショッピングモール、スーパーなど。
車、バス、電車も普通に走っているから、空気は排気ガスなどで汚い。
けど、自然豊かな場所があるのも本を読んで知っている。
もし、私が自由に外出できれば、色んな景色が見られる。
鳥籠のような生活より、自由な生活が欲しい。
ほしい思うのなら、叶えるしかない。
必ず水奈と共に、ここから抜け出て両親に復讐してやる。
まずは、力がなくても誰が相手でも、戦えるようにしないといけない。
逃げられる脚力、立ちふさがる追手の始末、生活するための知識。
あとは、お金かな。最悪、両親の貯金から盗めばいいか。
罪には問われないだろう、家族だし。
そんな事を考えていると、自分の部屋にたどり着いた。
襖を開けて、中に入る。私の唯一の安心出来る場所だ。
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