第18話 返り討ち
弱い? 羅刹様が? 弱い?
「だから、なんだ」
「期待外れと言いたいのですよ。今の貴方は、我々あやかしを束ねるには弱すぎる。頼りがいがない。日本三大妖怪と呼ばれているにも関わらず、情けないですね」
………………………………はぁ!?
「それは、重々自覚している」
「そうですか、それならよかった。なら、その女性は貴方にとっては宝の持ち腐れ。それも、わかっているでしょう?」
私を横目で見て来る男。マジでキモイ。
なに、羅刹様が頼りがいがない? 情けない?
いくら見た目がイケメンで、高身長で美しい顔立ちをしていても、その発言は私、許せない。
「だから、早く私に――……」
――――――――ドカン!
「な、なにごとだ!!」
慌てたような男性の声が聞こえる。
当たり前。私が今、私を拘束していた男を背負い投げしたのだから。
「いい加減にしてくださいませんか、蛇野郎様」
脳震盪起こしてしまったであろう男から手を離し、姿勢を整えた。
今日は現代に合わせた服だから、着物寄りは動きやすい。
スカートなのが少し気になるけど、まぁいいか。
充分に、殴れる。
「宝の持ち腐れとか、よくわからない内容が聞こえましたが、どういう意味でしょうか? 私の旦那様を見下せる正当な理由があるのでしょうか。私が納得できる説明をして頂けると嬉しいです」
出来る限り爽やかな笑みを意識しながら、指を鳴らし羅刹様の隣に立つ。
「え、え??」
「唖然としているところ申し訳ありませんが、早く私の質問に答えていただけませんか? 私は今、自分の婚約者様が見下されて気が立っているの」
ニコッと微笑むと、大蛇さんは恐怖で顔を青ざめさせた。
すぐに周りへと指示を出し、私達をぐるりと囲う。
人数は五人、手には刃物を持っている。
拳銃のような飛び道具ではないみたいだから、素手で戦えるか。
「今すぐに手を上げて、その場から動かないでください」
「手を上げればいいのかしら」
「そうですよ」
素直に両手を上げる。
――――油断、したね。
素早くしゃがみ、周りの視線から外れる。
困惑している間に、まず前にいた男の顎を下から殴る。
気絶し、倒れ込む男性の胸ぐらを掴み、殴ってくる男に向けてぶん投げた。
次に、テーブルの上に置かれているお茶を慌てている男へと投げた。
すぐにそれを避けたけれど、意味は無い。
まだ、投げる物はある。
「お、おいおい、まさか、それを投げるおつもりですかい?」
「はい♡」
大きなテーブルを頭の上まで上げ、怯えている男性どもに叩きつけた。
「なっ、なっ…………」
「ふぅ。さて、邪魔者はいなくなりましたね」
はぁ、服が汚れちゃった。
埃だから、洗濯すれば取れるかな?
服についた埃を掃いていると、怯えているような視線を感じた。
振り向くと、羅刹様のオッドアイの瞳と視線が合った。
「お、お主、今のは…………」
「・・・・・・・・。違うんです!!!!」
何が違うんだ自分!! と、自分に心でツッコミを入れても意味は無い。
やばい、羅刹様が怯えてしまった。
どうしよう、羅刹様が馬鹿にされて頭に血が上ったとかだけでは、流石に言い逃れ出来ないよね……。
「あ、あの……」
「そのお話は、後程に回していただけませんか?」
「っ!」
やばい、大蛇さんが拳銃を取り出してきた。
銃口が私に向く。
つーか、妖術とかなにか使わないのかよ!!
だって、大蛇って、すごいあやかしなんじゃないの!?
名前が広がるくらいだし、強いんじゃないの!?
「ここまでしてやられるとは思いませんでした。無傷で捕獲は難しくなりましたね」
羅刹様から目が逸れているのはいい。
だけど、このままだと私がやられてしまう。
「動けなくなっても、貴方が隠している力は十分に使える。まずは、その足を動けなくしましょう」
足を狙って来るのならまだ避けられっ――……
――――ガンッ!!
「っ、な、なに!?」
あ、あれ? 羅刹様?
羅刹様が男の拳銃を蹴り上げた!?
「――――あっ!!」
窓を見ると、日が沈んでいた。
暗く、闇が広がっている。
「――――残念だったな、大蛇。我が出てくる前に用事を済ませられんくて」
「き、貴様!!!」
銀色の髪は足元まで伸び、額には二本の角。
オッドアイの眼光は鋭く光り、男を射抜いた。
夜の姿になった羅刹様が、守るように私の前に出た。
「我の婚約者を狙うなど、いい度胸だ。覚悟はできるんだろう?」
「…………いえ、覚悟はできていませんので、私は逃げますね!」
潔すぎる!!!
夜の羅刹様が現れたら、手のひらを変えてきた!!
私が思わず驚いていると、羅刹様が深いため息を吐いた。
「何を言っている。我が逃がすと思うか? 悪いが、おぬしはもう逃げられん。我がすぐにおぬしを捕まえる」
「ふっ、私も舐められたものですね。この距離ならすぐに逃げられっ――……」
ん? 言葉が途中で途切れた?
それに、急に体を震わせ冷や汗を流し始める。
「なら、今すぐに逃げてみせよ」
「いや、これはさすがに反則だろう!! フライングだ!!」
あっ、よく見ると男の腕に細い糸が巻きつけられている。
羅刹様がグイッと引っ張ると、両手が縛られている男が前のめりになり膝をついた。
「く、くそ」
「無様だな、大蛇よ。我の前では地べたに這いつくばるのがお似合いだ」
大蛇さんが羅刹様を見上げながら苦しそうに睨みつけ、羅刹様は口角を上げ挑発するように笑う。
これだと、虐げられている部下と、高みの見物を楽しむ上司みたいに見える。
って!! ちょっと待って!!
こ、このシチュエーションは、創作の世界ではありそうなのでは!?
小説の中で何回も見たことがあるシチュエーションだ!!
り、リアルで見れるとは思っていなかった。
興奮する、かっこいい。
大蛇さんの見た目は、羅刹様には及ばないけれど、イケメン。
そんなイケメンがイケメンを睨みつけ、悔しそうに顔を歪めている。
羅刹様も、イケメン顔に拍車がかかり輝いて見える。
いや、輝いているというより、背後に『愉快愉快』という文字が浮かびあがっているように見える。
見ているのが恥ずかしい。けれど、見たい。
見たいけど、見ていると恥ずかしい。
「…………さっきから両手で顔を隠してどうした?」
「いえ、見ていたいけど見ていると恥ずかしいので指の隙間から見ていました」
「結局見ていたのか。何が恥ずかしいのかわからないが、まぁいい」
視線を私から外して、大蛇さんに向ける。
「大蛇よ、もう一度問う。今回、我の婚約者を狙った理由を明確に答えよ。じゃなければ、痛い目に合うぞ」
言うと、羅刹様は手を少しだけ挙げた。
すると、大蛇さんが辛そうに顔を歪めた。
「くっ」
「さぁ、答えよ。明確にな」
視線が、氷のように鋭い。
向けられていない私でも怖いと感じてしまうほどに。
大蛇さんはヒュッと浅く息を吸い、顔を真っ青にした。
カタカタと、微かに体が震えている。
あんな冷たい殺気を向けられてしまったら、恐怖で慄いても仕方がない。
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