第17話 毒
疑いながらついて行くと、ショッピングモールの一つのお店で立ち止まった。
人気なのか、行列ができている。
カフェの名前は【Comin'Casa】。おしゃれな名前だなぁ。
外から見ているだけだと、落ち着きのあるカフェという印象。
でも、女性向けなのか、変わらしさもある。
茫然としていると、男性が手招きをした。
ついて行くと、スタッフルームみたいな部屋に案内された。
「ここって……」
「まずは、お連れの方をこちらでお休みに」
「は、はい」
部屋の中は、至ってシンプル。
ソファーとテーブル。奥の方に窓があり、三階だから街並みが見通せる。
外を見てみると、あともう少しで夜になるみたい。
薄いけれど星が見え始めていた。
「う、うぅ……」
「あっ」
外を眺める前に、羅刹様を休ませないと。
すぐにソファーまで移動して、優しく座らせた。
「今、飲み物をお持ちしますね」
言いながら男性は、部屋から居なくなってしまった。
もし、羅刹様が狙いなのなら、今から持ってくる飲み物も怪しいよね。
まず、私が毒見をしよう。
そんなことを考えていると、羅刹様が顔を上げた。
「はぁ」
「あ、お辛いのに連れまわしてしまい申し訳ありません。大丈夫ですか?」
顔色はまだ青い。
すぐには動けなさそう。
「あぁ、問題ない。…………ここは?」
「怪しい男性に連れ込まれました」
「え?」
「人聞きの悪い言い方をしないでいただきたいですねぇ」
あ、ちょうどよく男性が戻ってきてしまった。
手にはコップを持っている。プラスチック製、か。
銀製だと毒が入っていると色が変わるから避けるとかはあるけど、そもそも今はガラスかプラスチック製が主だからなぁ。
食器だけでは、毒が入っているかどうかは判断できない。
「まだ顔色が悪そうですね。こちらを」
「少しお待ちください。私が先に呑みます」
私が手を出すと、男性はきょとんと目を丸くする。
「おや、それはなぜ?」
「毒などが入っていたら困るので」
「毒?? ふふ、そこまで警戒されていたのですね」
「当たり前です」
何を笑っているのですか、私は真剣に言っているのに。
「笑っていないで、早く渡してもらっても?」
「強気な女性は嫌いではありませんよ。さぁ、好きにお飲みください」
やっぱり、胡散臭い。
コップを受け取って中を見てみる。
匂いも確認するが、大丈夫そう。
少しだけ舌に付けて、しびれなどが無ければ羅刹様も飲んで大丈夫だろう。
コップを口に付け、傾けると――――
「っ、羅刹様?」
羅刹様が私のコップを抑えてしまった。
ど、どうしたんだろう。
「――――お主、あやかしだな?」
「え?」
「おや、それはなぜ?」
男性は、一瞬片眉を上げたが、すぐに余裕な表情へと戻した。
「その態度が、もはや証拠だろう。一般人なら、あやかしの名前を出した時点で困惑するか、人を小馬鹿にするような笑い声をあげるだろう」
「おやおや。もしかして、あてずっぽうですか?」
「そんなことはない。お主から漏れる、微かな妖気を感じたのだ」
妖気??
そう言えばあやかしには、あやかし特有の気配があると本で読んだことがある。
それが、妖気。
まさか、この人が、あやかし?
「まさか、私の妖気に気づかれるなんて、驚きました。流石、鬼、で、ございますね」
「っ! まさか、あなた本当に羅刹様を狙って!!」
羅刹様を守るように前に立ち、目の前に立つあやかしを見上げる。
身長が高いから見下ろされてしまうし、視線が蛇のようにねちっこいから気持ち悪い。
「ふふっ、やはり強気だ。面白いですよ」
今まで見えなかった瞳が、開いた。
黄色の、蛇のような瞳。
まさか、このあやかしって。
「それだけの妖気をそこまで隠せるのもさすがだ。だが、あと一歩、足りなかったな。大蛇様?」
だ、大蛇?
名前はなんとなく聞いたことはあるけど、詳しくはわからない……。
でも、名前だけは色んな人が聞いたことがあるはず。
そんなあやかしが、なんでこんな所でカフェを経営しているの?
ポカンとしていると、大蛇が急に笑い出す。
ど、どうしたん?
羅刹様が立ち上がり、私の前に立ってしまった。でも、まだ顔色が悪い。
「いえいえ、急に笑い出してしまって申し訳ない。あと、申し遅れました。私は大蛇香織。以後、お見知りおきよ」
胸に手を当て、一礼をする大蛇さん。
どこかの執事のように紳士的だ差g、黄色の瞳から放たれる視線は、普通じゃない。
「――――香織?」
「おや、知っておられるのでしょうか?」
香織って、たしかさっき、雑貨屋さんで女子高生が口にしていた名前。
いや、漢字が違うかもしれない。
香織なんて名前、意外と多い。
偶然、だよね?
「もしかして、ここに入っている。私がデザインした雑貨屋を見ましたか?」
「雑貨屋……、やっぱり」
このあやかし、カフェだけじゃなくて、雑貨屋も経営しているの?
すごっ…………。
「そんなことはどうでも良い。それで大蛇様、我々になにか?」
あっ、コップを傾けて、水をまき散らした。
床に水が広がる。
「おやおや、酷いですねぇ〜。せっかく準備したというのに」
「馬鹿を言え。この水には、お前の血が混ざっているだろう。一応毒ではないが、人間が食べると気を失い、お主の妖気に当てられ死ぬ。毒と変わらん」
「え?」
そ、そんな恐ろしいものが入っていたの?
「一滴だけですよ。気を失う程度で終わります」
「…………ところで、本当になに用だ? 善意だけで我らをここに連れ込んだわけではないだろう」
「わかっているのなら良かったです」
羅刹様、かっこいい……。
今は昼間の姿なのに凛々しくて、夜の羅刹様に負けないくらいの神々しさがありますよ!
本当はお強いのでは――っ。
羅刹様の拳、震えてる。
見上げると、一粒の汗が流れていた。
怖い? 怖いのかな。
それでも、私を守ろうと前に立ってくれているのかな。
め、めめめめ、めっちゃかっこいいです!
「では、単刀直入に伝えさせていただきます。貴方の奥にいる女性をいただいてもよろしいでしょうか?」
「――――え? 私?」
男性の黄色い瞳が、私を見る。
羅刹様が私を完全に隠し、口を開いた。
「そこにいるお嬢さんをこちらに寄越せば、あなたには何もしませんよ」
「ふざけるな。絶対に渡すわけがないだろう」
ここで、私を守る宣言!!
かっこよすぎますよ、羅刹様!!
「そうか。それなら仕方がありませんね。私も人数を増やしましょう」
「なんだって?」
そんなことを言っていると、後ろから気配――――っ!!
――――ガシッ!!
肩、掴まれた。
「いっ!」
い、痛い。
逃げられないように、強く掴んでいる。
女性だからって甘くは見てくれないか。
「水喜!!」
「おっと、変に手を出さない方がいいぞ。怪我、させたくないだろう?」
「くっ!」
羅刹様が男の言葉に狼狽えてしまった。
そんな姿もかっこいい。イケメンが悔しがる姿は、目の保養になる。
こんな場面、現実ではめったにないだろうし、今のうちに収めておこう。
「…………なんだろう。お嬢さん、今の状況楽しんでいないかい?」
「はぁ?」
や、やば!
すぐに怖がっているような表情を浮かべる。
羅刹様はすぐに顔を逸らし、男を見た。
ふぅ、間に合った。
こんなだらしない顔を羅刹様に見られるわけにはいかないのよ。
まったく、余計なことを言わないでほしいわ。
男を睨むと、急に肩を震わせた。
私の殺気に気づいたのかしら。
――――あの男、言葉で人を欺くタイプよね。
そういう人は、大抵戦闘が苦手。
だから、私を捉えているのは、結構筋肉を鍛えている男だ。
なんか、ボディービルダーみたい。筋肉を自慢して生きていそう。
私が女だからなのか、油断している。
力も、最初より緩んでいるし、簡単に逃げられる。
ただ、タイミングだ。
羅刹様の動き出すタイミングと私のタイミングを共にしないといけない。
いや、羅刹様が動き出すより先に私が動けばいいのか。
私は今、羅刹様の邪魔になっている。
早くここから抜け出した方が羅刹様も自由に動けるし、不安要素がなくなるだろう。
「まぁ、いい。それより、鬼という種族は、もっと好戦的だと聞いていたのですが、そんなことはなかったみたいですね」
「何が言いたい」
「貴方が纏ってる空気、雰囲気、視線。どれも弱弱しい。私は戦闘が苦手ですが、あなたなら勝てそうです。それくらい、今の貴方は弱すぎる」
…………はぁ?
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