第14話 好きな食べ物
「わぁぁぁああ!! すっごい!! 大きい!!」
ものすごく大きいショッピングモールには、人が沢山居た。
出入りが激しくて、少し人酔いしてしまいそう。
朝に出たけど、今はお昼過ぎ。
一反木綿さんが途中で疲れて休憩とか挟んでいたから、少し時間がかかった。
けど、空の散歩、楽しかったなぁ。
もう一回、一反木綿さんに乗りたい。
「すごい人だな。平日だからといって油断した」
「本当ですね! どれだけ人気なのかがわかります! 早く行きましょう!!」
羅刹様の手を引き、ショッピングモールの中へと入った。
中も、凄く綺麗で輝かしい。
色んなお店がたくさん並び、親子連れや友達と共に遊びに来た人達が笑顔で楽しんでいた。
その笑顔が本当に太陽のように輝いていて、見ているこっちも笑顔になってしまう。
「ふふっ、楽しい」
「まだ何も回っていないのに、ずいぶんと楽しそうだな」
「はい。私、このような世界は本の中でしか見たことがなかったんです。想像上でしかなかった世界が、今私の目の前に広がっている。本当に、夢みたいです」
笑顔が隠し切れずウキウキとしながら言うと、羅刹様も優しく微笑んでくれた。
「それならよかった。では、まずはお昼ご飯だ。腹減っただろう?」
「お、お昼、ご飯……」
「ん? どうした? 腹減ってないか?」
「い、いえ。朝から動いていたのでお腹は空いているのですが……」
どうしよう。
そう言えばなんだけど、私、お金ないんだよね。
ショッピングモールは見て回るだけでも楽しいからいいけれど、ご飯は絶対にお金、必要だ。
羅刹様におねだりする訳にもいかないし、お昼は我慢しよう。
「――――羅刹様は何が食べたいですか?」
「我はお主が食べたいもので構わんぞ」
「いえ。私は食べられないので、大丈夫ですよ」
言うと、羅刹様は驚いたように目を開いた。
ど、どうしたの?
「食べられないとはどういうことだ? 体調が悪いのか?」
「い、いえ! そういう訳では……」
「それなら、何故食べられないのだ?」
「え、えぇっと」
素直に言えば、縋っているように聞こえないかな。
でも、素直に言わないと羅刹様も不安に思うよね……。
「あの、えぇっと、お金が……」
「お金?」
「はい。お金がないので、買えないのです……」
気まずくなってしまい顔を逸らすと、羅刹様が私の手を引き歩き始めた。
「え、あ、あの。羅刹様? どこに行くんですか?」
「さっきから言ってるだろう。飯を食いに行くぞ」
「は、はい」
私も一緒でいいの?
何も言えずについて行くと、なんか、高そうな定食屋にたどり着いた。
羅刹様は黙ったまま店の中に入り、席へと案内されてしまった。
「あ、あの。羅刹様? ここ、高そうですが……」
「そうだな。このショッピングモールの中で一番人気で、一番高い店らしいな」
「え? そ、そうなんですね……」
ま、まぁ、私は結局食べないし、いいか。
羅刹様は何を食べるんだろう。
何が好きなのかな、苦手な食べ物もあるのかな。
ワクワクしながら羅刹様を見ていると、急にメニュー表を渡された。
「え? あ、あの?」
「好きな物を選べ」
「で、ですが、私にはお金が……」
「金なら問題ない。我が払う」
「え、で、でも」
「いいから選べ。一緒に食べたいのだ。それとも、我と食事はしたくないか?」
「したいです!!」
はっ、思わず大きな声を出してしまった。
周りからの視線が痛い。
縮こまっていると、羅刹様が肩を震わせ笑った。
「ほれ、早く選ぶのだ」
「あ、ありがとうございます」
メニュー表を改めてみると、どれも、高い。
絶対に二千円は超えてる。でも、どれも美味しそう。
あ、でも唐揚げ定食みたいな庶民にありがたいメニューもあった。
「すごくおいしそう――ん?」
あっ、鰻……鰻だ。
鰻、美味しそう。
えぇっと、値段は……。
「三千円……」
「三千円?」
「いえ! なんでもありません!」
えぇっと、もっと安い物。
一番安いご飯。どれだ!?
「お冷になります。ご注文はお決まりですか?」
あ、店員さんが来てしまった。
早く決めないと!!
「え、えぇっと! それじゃ、私はこのからあっ――……」
「鰻定食二つ頼む」
「かしこまりました」
店員さんが行ってしまった。
鰻定食、二つ?
「ら、羅刹様? う、鰻……?」
「む? 食べたかったんじゃないか?」
「た、食べたかったのですが、何故分かったのですか?
「なぜわかったも何も、お主が三千円と口にしていただろう」
「そうですが、それだけで?」
「ここのメニューで三千円するのは鰻定食だけだぞ」
うっそ!!!
改めてメニュー表を見てみると、たしかに三千円もするのは鰻定食だけだった。
他のは二千円以内で収まっている。
「す、すいません。よりにもよって、こんな高いものをお願いしてしまって……」
「何を言っている。そこまで高くはない。安い位だぞ」
「え?」
「もっと高く美味しい所に連れて行きたかったんだが、このショッピングモールがおすすめだと百々目鬼に教えてもらってな」
あぁ、百々目鬼さんの情報だったんだ。
「あ、あの。鰻、好きですか?」
「好きだぞ」
微笑みからの好きという言葉頂きましたー!!!
光線が放たれたかのようなダメージが……心臓に悪いです、羅刹様。
「いきなりテーブルに突っ伏してどうした?」
「ナンデモアリマセン」
羅刹様が「そうか」と言って、メニュー表を戻した。
「…………」
羅刹様、話さなくなってしまった。
私も、なんとなく話しにくい。
というか、話す内容が思いつかない。
聞きたいことはたくさんあるんだけど、婚約者とはいえ出会って間もない相手。しかも、鬼。
何が禁句で、地雷なのかわからないから、迂闊に話せない。
せっかくのデートなのだから、喧嘩はしたくないし変な空気にもなりたくない。
でも、沈黙も気まずい。
うーん、なにかいい話題はないかなぁ。
「……水喜は、何か好きな食べ物はあるのか?」
「好きな食べ物、ですか? 私は今までそんなに物を食べてこなかったので、好きな食べ物はありませんね。食べられれば良かったので」
「そ、そうか。すまなかった」
あれ、羅刹様が落ち込んで……。
はっ!!
な、何をしているの私!!
せっかく羅刹様が気を使って話題を振ってくれたのに、私は広げることが出来なかった!
何をしているの!! ここから挽回なんて、出来る? 出来るかな?
いや、できるかできないかではない。
やるか、やらないかだぞ水喜!!
「…………い、今までろくなものを食べてこなかったので、今日食べる鰻が、私にとって大好きな食べ物になると、お、もいます」
気まずくて顔を下げながらになってしまったけど、何とか話題をつなげることはできたはず。
「そうか。なら、これからおいしい食べ物をたくさん食べよう。そして、一番好きなものを共に見つけていくか」
顔を上げると、羅刹様が柔和な笑みを浮かべ、肘をつきそのようなことを言ってくれた。
――――顔面凶器!!!!! 無事に、私は羅刹様の笑みにより殺されました。
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