表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたと食べたい学食で〜食べて悩んで味わって、あるのは恋か幻覚か〜  作者: 汐見かわ
3章 未島宅_パーティープレート(悪意があるのかお前は!)
9/44

いろいろ、想像しちゃうよね

 前を歩く美魔女から香水の香りがただよってくる。良い香りなんだかよくわからない独特な匂いだ。とにかく人工的な作り物の匂いがする。

 昔、母の使っていた化粧品の匂いを好奇心から嗅いでみたことがある。その時の匂いに似ている。あまり好きな匂いではないかもしれない。

 駅前の賑やかな商店街を過ぎ、気が付けば辺りは閑静な住宅街になってきた。

 美魔女はカツカツとヒールを鳴らし、わりと早歩きで俺の前を進んでいる。あんなかかとが棒みたいになっている細い靴でよく歩けるな。静かな住宅街にヒールの音が響いている。


「歓迎会ってどんなことするんでしょう?」


 信号で止まった時、俺の横に来た小早川さんが聞いてきた。横断歩道を先に渡ってしまっていた美魔女は、横断歩道を渡り終えた先で腕組みしながら俺達が信号を渡るのを待っているようだった。


「ただ、飲んでしゃべって終わりだよ。店でやる事が多いけど、宅飲みかな」

「未島先輩の家に行くって言ってましたね」

「なら買って持ち込みかな。小早川さんは歓迎される側だから基本、無料だよ。俺は一年生じゃないから微妙だなぁ」


 三年生とはいえ、サークルに加入したのはついこの前だし、俺も歓迎される側のはずだがいくらかは支払いをしなきゃならない気もしている。別にどっちでも良いけど。でも待てよ。今日、財布にいくら入ってたっけ?


「私、お酒飲んだことないんです」


 車の音で掻き消えそうになる小早川さんの声を聞き逃すまいとそちらに神経を向けた。交通量の多い道路らしく車は途切れることなく目の前を走り去って行く。


「お酒は飲めた方が良いんですかね?」


 普通に留年もせずに高校を卒業して、そのまま浪人もしないで大学生になったら大学一年生はそりゃあまだ未成年だもんな。そりゃそうだ。「実は辛口の日本酒が好き」と彼女に言われたら驚く。


「無理に飲ませるような人達じゃないでしょ。飲めなくても平気だよ。飲んだら違法だし」

「先輩はお酒好きなんですか?」


 まぁ、好きと言われればそうでもない。酒が嫌いかと言われれば少し違う。たしなむ程度か。


「うん、ふ――」


 急に小早川さんは俺の腕をつかむと少し後ろに引っ張った。うわ、何?

 それと同時に大きなトラックが風を切り、目の前を通り過ぎる。その風圧で俺も小早川さんの髪も舞い上がった。


「あ、すみません。トラックが凄い勢いだったので。危ないなと思って」


 小早川さんは掴んでいた俺の腕をパッと離し、少し乱れた自分の髪をひとふさ耳にかけた。


「ああ……うん。全然気付かなかったわ。この道路危ないな」

「少しくらいスピード落としても良いですよね」

「まぁ、そうだよね。何か……ありがとう」


 小早川さんはにこりと微笑み、それと同時に信号が赤から青に変わった。

 俺は彼女に一歩遅れて慌てて信号を渡った。


「あ、酒。酒は普通……に飲めるよ。俺は」

「そうなんですね。楽しみですね」


 急に小早川さんにつかまれた右腕にはまだ彼女に触れられた感触が残っている気がする。

 

 酔ったら彼女はどんな風になるんだろう……。


 そんな小早川さんの姿を見てみたい気もしたが、それ以上考えると邪な映像ばかりが頭を過ぎる。屈託なく笑ったり、へろへろになって寄りかかったりしてくるのかなぁ……良い、これは良いな。

 は、いかんいかん。

 気持ちを沈める為に横断歩道の先で腕組みをしている美魔女の方を見た。


「この信号を過ぎれば未島君の家までもう少しよ」


 美魔女は俺達が信号を渡りきったのを待ってから再び前を歩き出した。

 右腕にはまだ小早川さんにつかまれた感触が残っている気がする。


 しばらくすると、先を歩いていた美魔女が突然立ち止まった。


「未島君の家に着いたわよ」

「は?」


 目の前に黒い鉄格子の大きくて立派な門がそびえ立つ。表開きで、左右の門の真ん中には家紋のような模様が金色で施されている。


「は? え?」

「すごい……」


 門はどこぞの西洋の城かと思う程の大きさだった。門を見上げながら俺と小早川さんは思わず間抜けな声が出てしまっていた。


「未島君の家はこの辺りの代々の地主なんですって」

「いや、それにしてもデカすぎでしょう……」


 門のずっと奥には茶色いレンガ造りの洋館が見えている。門から洋館まで真っ直ぐとのびている道の左右には、形良く手入れをされた木が何本も植えられていた。洋館の左右にもまだ庭は広がっており、別の建物も見えている。ひょっとして今まで歩いて来た道も途中から未島家の塀だったのかもしれない。

 どこか別の国の画像でしか見たことのない景色が広がっている。

 マジかよ。あいつん家、とんでもない金持ちだったのか……。


「買い出しは私と未島君で終わらせてあるから。あとは思う存分に暴れられるわよ」


 真っ赤な口紅のついた唇をにやりと歪ませて、美魔女は壁についているインターフォンを押した。

 お手伝いさんなんかが出てくるのだろうか。こういう家に暮らす人の生活はさっぱり想像がつかないな。

 しばらくして、ガチャリとインターフォンの奥に人が出た音が聞こえた。


『おおっ、御三方。よく来て下さいましたな。ちょっと待ってて下され』


 未島の声だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ