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あなたと食べたい学食で〜食べて悩んで味わって、あるのは恋か幻覚か〜  作者: 汐見かわ
3章 未島宅_パーティープレート(悪意があるのかお前は!)
8/43

可愛い

 午後の遅い時間の為か、土曜日の電車はあまり混んでいなかった。座席に座ることもできた。

 各駅に止まりゆっくりと進む電車に、途中うとうとしながらも待ち合わせ場所の駅についた。

 この駅は通学途中の駅だったが、そう言えば降りたこと無かったな。駅ビルのくっついた大きな駅でも無いし、俺と同じようにこの駅で降りる人は少なかった。

 俺の後ろではホームドアと電車のドアがほぼ同時にゆっくりと閉まった。

 小早川さんの話によればサークルの先輩達が俺達の為に新入生歓迎会をしてくれるらしい。先輩達といっても、俺と同い年で、一人は変なしゃべり方をする肥えてる男と、一人は見た目年齢不詳の美魔女。未島と美波里という名字の四年生だ。どちらもアクが強過ぎて正直、今日の歓迎会に参加するのは不安がある。不安があるが……。

 駅のホームから階段を降りてどこか落ち着かない気持ちで改札に向かう。小早川さんとの待ち合わせ場所は改札前。階段を降りながら改札のその先に視線を向けると、赤縁の眼鏡をした小早川さんが奥に立っているのが見えた。

 小早川さんからの連絡で俺は歓迎会に参加することに決めた。小早川さんからの誘いを無下にできるか? できないだろうよ。そう思った。


「待った?」

「いえ、全然。私もさっきついたばかりです」


 にこにこと朗らかに接してくれる小早川さんは長いスカートに薄紫色のカーディガンを羽織っていた。赤縁の眼鏡が清純そのものを醸し出し、とにかく可愛かった。

 何か……彼氏と彼女みたいで良いじゃないか。これからデートしそうな雰囲気じゃないか。良いじゃないか! 歓迎会とかもはやどうでも良い。気分が盛り上がってきた。


「美波里先輩が迎えに来てくれるはずなんですけど……」

「え」


 ふわふわとした気分をそのひと言がぶち壊した。美波里? 美波里ってどっちだ。肥えてる方か、美魔女の方か?


 そして俺は数秒後に唖然とすることになる。


 カツカツと駅構内に靴音が響いた。音の方を振り返るとそこにはやたらと目立つ女がいた。

 ロングシャツを羽織り、シャツの下にはビキニというか下着のような服が見えている。腹が丸出しで、上はブラジャーのようなものをつけ、下はパンツのような面積の小さい布を履いている。何だあれは。シャツを羽織っているとはいえ、下着でそのまま外に出たのか。痴女そのものじゃねぇか。

 すぐにわかった。美魔女だ。美波里ってのは美魔女の方か。

 周りの人もちらちらと美魔女の方を見ている。よく通報されないな。あれに近付きたくはないぞ。近付きたくないと思っていた痴女は向こうから俺と小早川さんに近付いて来た。うわぁ……。


「今井大輔、良く来たわね」

「はぁ、まあ……」


 かすかな風に乗り美魔女の香水の香りがする。良い匂いなのか、嫌な匂いなのかよくわからない。少しむせるような濃厚な香りだ。

 下着のような格好をした美魔女と、可愛らしい普通の格好をした小早川さん。そして俺。

 美魔女にとって食われるんじゃないか?

 というか小早川さんはこの美魔女の痴女のような格好をどう思っているのだろう。何とも思っていないのだろうか。

 小早川さんを見ても、特に変わったところはなく普通だった。

 俺よりも前から美魔女達とサークル活動をしているわけだし、美魔女の格好についてとやかく思うのは今さらなのだろうか。許容範囲なのか? それはそれでどうなんだ? 胸の半分とへそと太ももが丸出しだぞ。


「よし、今井大輔も来たことだし、未島君の家に向かうわよ」

「あー……ちょっと、良いですか?」


 美魔女は大げさに振り返り、ゆるくウェーブの掛かった髪がなびいた。シャンプーと香水どちらの香りかわからない濃厚な匂いが鼻についた。


「その格好で一緒に歩くんです? 警察に捕まったりしませんかね? というか寒くないんです? まだ夏にはちょっと早いというか……」


 思ったよりも臆せずにすらすらと俺の口から言葉が出ていた。しかも指をさしながらだ。美魔女、もとい痴女もどきの女に遠慮などいらないと、俺の本能がとっさに判断したのだろう。


「むしろ暑いくらいね。警察には捕まらないわ。服着てるだけだし」


 平然と言ってのけた美魔女は全く動じていない。

 たまに学内で見かける時も、グラビア雑誌の表紙みたいな格好してるもんな。美魔女にとって、今のこの格好は普段着なんだ。

 ダメだ。このままではみんなで交番に連行されてしまう。初めて降り立つ地でそれは嫌だ。


「美波里先輩。今日は風もありますし、シャツのボタンはした方が良いかもしれません。冷えは良くないってお母さんが」


 ずっと黙っていた小早川さんが口を開いた。


「そうね。風もまだ冷たいし。そうするわ」


 美魔女はシャツのボタンをひとつひとつしめた。


「さ、未島君が待ってるから行くわよ。少し歩くから」


 シャツのボタンを上から3つ開けてロングシャツをしめ終えた美魔女はまた大げさに髪をなびかせ前を向いた。

 驚いた。俺には全く聞く耳をもたなかったのに、美魔女は小早川さんの助言には素直に従うのか。どういうことなのだろうか。サークルの先輩と後輩じゃないの? 何なんだ?


「今井先輩、行きましょう」


 ぼんやりとしていた俺に小早川さんは急かすように声をかけた。

 美魔女がやたらとヒールの高い靴をカツカツと鳴らし駅構内から歩いて出て行った。俺と小早川さんも後をついて行った。


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