表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたと食べたい学食で〜食べて悩んで味わって、あるのは恋か幻覚か〜  作者: 汐見かわ
2章 本校_とり生姜焼き丼(初めてのサークル活動)
6/43

俺がいて良かったってよ

 向かいの席に座った小早川さんは慎重にトレーをテーブルに置くと、肩から掛けていたトートバッグから筆記用具を取り出した。


「あれ、何か点数つけるんだっけか」

「はい。二人以上で同じメニューを食べて、名称・値段・味・見た目・ボリュームを各5点満点で評価します」

「そう言えば前にそんなこと言ってた……ね」


 そこでふと思った。「二人以上で評価」をする。小早川さんは確かにそう言った。俺は何となくで食べたいメニューをさっさと決めてしまったが、これは小早川さんと何を食べるのか相談しなければならない状況だったのでは?


『先輩と同じメニューが食べたいので』


 さっき彼女の言っていた言葉が頭をよぎった。これはさっそくやらかしてしまっただろうか。でも、それを早く言わない小早川さんも小早川さんだよな。俺は悪くない……と思う。


「あ、ごめん。食べたいもの普通に選んじゃったよ。大丈夫?」

「大丈夫ですよ。今日が二人で初めてのサークル活動ですし、私も先輩に何も言ってませんでしたし」


 小早川さんは俺が勝手にメニューを決めてしまったことを特に何とも思っていないらしく、カラッとした返事を寄越した。そうか、なら良かった。


 小早川さんは両手を合わせ


「頂きます」


 と、恭しく食事前の挨拶をした。俺も小早川さんにならい手を合わせる。

 学食で食事をする時にこんなにきちんと畏まったことは今まで一度も無かった。とりあえず授業の合間に食堂に来て、メニューを注文して受け取り、口に運んで食べて終わり。こんな感じ。食べたらさっさと食堂から出て行く。

 それがどうだ。こんなに学食のメニューに対し、真摯に向き合ったことなどあっただろうか。いや、無い。

 俺は箸を丼に伸ばすと焼き色のついた鶏肉を口に運んだ。生姜の香りが口を通って鼻に抜け、たちまち口の中は肉のジューシーさと生姜のさっぱりとした味が見事な調和を実現させた。


「うん、美味いよこれ」

「美味しいですね」


 口を手で軽く押さえ、小早川さんもにこにことしている。うん、これはいける。美味い。


「これはむね肉ですかね。パサパサしてなくて、たれがよく絡んでますし、この温泉卵のアクセント。後から卵を割れば一度に二度味が楽しめますね。凄いですっ! 学食でこんなメニューが食べられるなんて」

「え、うん。そうだね……」


 何か、専門家っぽいコメントをした小早川さんに少し驚いてしまう。彼女、新一年生じゃないのか。何でこんなコメンテーターみたいな感想が出てくるの。ほんの数ヶ月前まで高校生じゃないのか?


「うん……美味いね」


 俺は気の利いた台詞は出てこない。まるで「美味い」しか言えないバカみたいじゃないか。


「あ、じゃあ先輩。評価をお願いします。私もつけますので」


 小早川さんは一枚のメモとボールペンをテーブルの上に置いた。メモには名称・値段・味・見た目・ボリュームと書かれている。


「思ったまんまで良いの?」

「はい、もうありのままで。私と先輩の平均点を出すのでありのままで大丈夫です」


 置いてあるボールペンで点数を書く。確か5点満点の評価だったっけ。向かいにいる彼女を見ると、すらすらと数字を書いてあっという間に評価をつけ終わった。あまりに点数が小早川さんと乖離しているとそれはどうなのだろうかと思う。まぁ、いいか。そんなに気難しく考えなくても。学食だし。


「はい、じゃあ俺はこんな感じ」


 テーブルの上にメモ用紙を置いた。小早川さんの書いたメモ用紙も、スッと出される。


 名称3、値段4、味4、見た目4、ボリューム4

 名称2、値段4、味5、見た目5、ボリューム3


「これは回収して後でサイトにあげますね」

「……はい」


 ぱっと見、俺と小早川さんの採点に大きな違いは見られない。俺の採点もなかなか良い線行ってるんじゃないか。

 テーブルの上に置いてあった二枚のメモ用紙を小早川さんはそそくさとトートバッグにしまった。


「はぁ……こうして無事にサークル活動ができて嬉しいです」

「…………」


 面と向かってそう、にこやかに語る小早川さんに思わず照れてしまう。俺は無言で目の前の丼をひと口食べた。


「マイナーなサークルですし。私、一人で活動するのかなってちょっと思ってたんです。全然人が入る気配無かったですし。今井先輩がいて良かった」

「そう……」


 俺は何て返したら良いかわからなかった。面と向かって人から好意を向けられるのは慣れてない。彼女はそういう言葉がさらっと口から出る人なんだ。きっとそういう人なんだ。


「後でサイトを更新しておきますね。はー、嬉しい」


 箸を再び持ち、小早川さんは食事の続きを始めた。俺はなぜだかその時から何も言えなくて、黙々ととり生姜焼き丼を食べた。

 生姜のさわやかな香りは鼻から脳の方へと抜けて、頭の中に生姜の花が咲いた気になった。

 生姜は花が咲くのか知らないけれど。


 


【本校 とり生姜焼き丼】

名称、2.5

値段、4

味、4.5

見た目、4.5

ボリューム、3.5

大輔的所感▶︎小早川さんが美味しそうに食べていた。生姜焼きといったらやっぱり豚。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ