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あなたと食べたい学食で〜食べて悩んで味わって、あるのは恋か幻覚か〜  作者: 汐見かわ
9章 帝東大学_蘇芳門ラーメン(攻撃力が半端ない)
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うらやましいと思ったのは秘密

「自分の人生を生きられないって可哀想ですね」

「どういう意味だ」

「いえ、別に。そのままの意味です。高峰、立てるか?」


 高峰に手を差し出すと、高峰は手を掴まないで俺の手首を掴んだ。高峰を引っ張り上げる形で立たせ、小早川さんは高峰の膝や背中を軽く叩いて、服についた落ち葉や砂利を落としている。


「美波里先輩も行きましょう。私もここの病院には死んでも来ません。貴重なお話ありがとうございました」


 小早川さんは兄に向かって吐き捨てるように言うと美魔女の手を取った。俺達は突っ立ってるだけの美魔女と高峰を連れてその場から離れることにした。

 銀杏並木の中を足早に進み、並木道の突き当たりを左に曲がり、絶対にここまで兄が追いかけてこないだろうというところまで歩いた。気が付けば大学の外に出ていた。


「二人とも大丈夫です? 何か事故にあったって感じですよね。びっくりした」


 後ろをついてきていた美魔女と高峰に振り返る。高峰は血が服にもついていたし、鼻の下や口周りも薄っすらと赤茶色になっている。血を袖で拭ったんだろう。袖は血だらけだ。今、人を殺めて来ましたって見た目だな。事件じゃねぇか。いや、ある意味事件だったけどさ。


「何か……ごめんなさいね」


 やっと美魔女が口を開いた。


「大学に行ったらもしかして兄がいるかも……とは少し思っていたけど、目の前にするとやっぱり何も言えなくなっちゃうわ」


 美魔女は下を向いている。どんな表情をしているのかはわからないが相当落ち込んでいるようだ。


「俺は……自分はっ……」


 高峰が突然、嗚咽を抑えられずに涙を流した。大粒の涙が地面にポツポツとシミを作っていく。

 少しためらったが、俺は珍しくズボンのポッケに入っていたしわくちゃのハンカチを差し出した。


「もう良いって。高峰が頑張ったのは知ってるからさ。文系学部はどこ出ててもあんまり就活には大差無いよ? 鷹田も悪くないよ? たまに駅前で騒ぐ奴いるけどさ。慣れれば可愛いもんよ。4年間もいたら愛着湧くし」

「よ、4年……? 今井先輩は3年生じゃ……」

「俺留年してるし。留年しててもこんなもんよ。受験なんて大したことじゃない。これからの人生の方がずっとながいし。解答が出るのは死ぬ時くらいしか無いと思うよ? 自分が良ければそれで良いよ。な? 元気出せって」


 自分でも何を言っているのかよくわかなかったが、とりあえず泣いている高峰を励まさないといけないなと思った。


「そうですよ! 頭良くても美波里先輩のお兄さんみたく人間性がダメな人っているし。最低最悪ですよあの人! 高峰君は少し微妙だけど、まだ可愛げがあるし、これからこれから!」


 小早川さんはそう息を巻いて美魔女の背中をさすっている。美魔女がくすりと笑った。


「人間性がダメ……ね」

「あ、す、すみません! 美波里先輩のお兄さんの悪口を面と向かって……。あの、でもお兄さんは見た目はカッコいい部類に入るとは思います! 性格はアレですけど!」


 小早川さんは慌ててフォローなんだかよくわからないことを言っている。ああいうのがカッコいい部類に入るのか……マジで? 白衣か? 白衣がそう見せているのか? 白衣の魔法なわけ?


「良いのよ茉依。その通りで父と兄の人間性は終わっているわ。母の事は遺伝子が低レベルだからこんな妹が産まれたって言うような人達だし」


 遺伝子レベルで否定ってヤバいな。人格否定どころじゃないな。どう教育したらそんな人格に育つわけ? 父と兄で脈々と負の連鎖起きちゃってるじゃん。ホラーだよ。


「でも、私はいつか美容クリニックを経営して父や兄に見返すの。優秀な医師を引き抜いて外科の美波里ではなくて美容の美波里として名を轟かせるのよ」


 美魔女は口角を上げてにやりと笑った。その顔は晴れ晴れ……というよりも何かを含んでいた。目の奥が晴れ晴れとしていないんだよ。復讐というか、濁っている。

 純粋に応援したいという気にはならなかった。この人も結局は何かに囚われているんじゃないのか……負の連鎖は続いてしまうんじゃないのか。複雑な気持ちだ。


「とにかく、2人には感謝しないとね。他人のことで真剣に怒れるって普通は無いもの。ありがとう。すっきりしたわ」


 この時の美魔女は何歳かよくわからない厚化粧なのか骨格の問題なのかよくわからない、いつもの凄みのある微笑みを顔に浮かべていた。


「特に茉依。あのど畜生の兄に向かって良く言い返すことができたわね。驚いたわ。ありがとう」

「いえ、私は何も……わっ」


 美魔女は正面から小早川さんに抱きつき、頭を撫でた。毛皮らしき上着のもこもことした生地の中に小早川さんの顔が埋もれた。


「……あ、これは良い」


 高峰がすかさず抱き合う2人をスマホで撮った。血だらけで何してんのこの人? 高峰も高峰だけど、女子2人も何してんの?


「女性が抱き合う構図。俺の体の中で何かが目覚めた気がする。これは……良い。あ、このハンカチは少し汚れているので結構です。使っていません」

「……あ、そう」


 高峰が泣いた時に俺が渡したハンカチを戻された。ハンカチはいつからポッケに入ってたんだよってくらい確かによれよれだけどさぁ……あと、何が目覚めたってんだ。ちょっと怖いんだよ高峰は。まぁ、元気が出たなら良かったけど。


「さて、茉依もこの後にホームページの更新があるだろうし帰るわよ」


 美魔女は腕の中に閉じ込めていた小早川さんを離すと、先を歩き出した。その時、ふと振り返り


「今井大輔、ただのポンコツだと思っていたけど見直したわ。イケると思うから腹を決めなさいよ」


 そして髪をかきあげ先を歩いた。ヒールの音が響いている。ただのポンコツと思ってたって酷くないか?

 腹を決めろとは就活のことか。そうだな。かなり気が重いが俺も頑張らないといけないよなぁ。


 

  【帝東大学内学食 蘇芳門ラーメン】

名称、5

値段、3.5

味、4

見た目、4

ボリューム、3

大輔的所感▶︎大学の次は学部カースト。その次は就職した企業、年収カーストか。人と比べないと生きていけない人生なんて俺は嫌だ。

 

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