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あなたと食べたい学食で〜食べて悩んで味わって、あるのは恋か幻覚か〜  作者: 汐見かわ
9章 帝東大学_蘇芳門ラーメン(攻撃力が半端ない)
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何を見せられているの?

 その人物も小早川さんと似たような伝統衣装のサリーを身にまとってはいるが、衣装は黄金色と緑色でとても派手だ。頭には黄金の冠を被り、両手には花を持っている。

 その派手な女が大きな蓮の花の上に立っており、川の流れに沿ってゆっくりとこちらに近付いてきている。

 表情がわかるところまで近付いてきたところで確信した。美魔女だ。

 美魔女が大きな蓮の上に立っている。両手に持っている花で空中に円を描くと、曇っていた空が晴れ天から光が降り注いだ。その光に照らされた人々は、各々が川で洗濯をしていた手を止めて美魔女の方に振り向いた。


「オォ……ビノメガミ、ビマジョ」

「ワカヅクリプラセンタ」

「オォ……ビマジョガナガレテキタ」


 蓮の花が岸に付くと人々は美魔女の為に一本の道をあけた。その道は真っ直ぐに小早川さんの立っている柱まで続いている。

 美魔女が蓮から白い足を一歩前に出し、そっと地につけると天からの光はより一層眩く降り注いだ。人々は感嘆の声を上げている。


「コノチニオリタッタ、トオトイ」

「シワニハヒアルロンサン……」

「オォオォ……ビマジョ」


 美魔女は小早川さんのところまでゆっくりと歩き、柱の影にいる彼女を澄んだ瞳で真っ直ぐに見つめた。小早川と美魔女はお互いにお互いの右手に重ね、こう告げた。


「このラーメンはスパイスの中に酸味と甘味がある。赤はトマト、黄色はターメリック。言わばトマトとカレーの融合。奇跡の出会いよ」

「……奇跡の出会い」


 その刹那、小早川さんと美魔女はひっしと抱きついた。

 固唾を飲んで見守っていた群衆は二人の女神の共演に喜び、涙した。歓喜の声が辺りに轟き、空気を震わせる。空と大地、そして空気までもが喜びを表している。女神降臨。人々はこの日より二美神伝説として永く語り継いだという。

 ふと群衆の最前列に白いボロ布をまとった高峰がいた。高峰の瞳には涙が滲んでいた。


「……っておい! 何じゃああ! これ!」


 俺は立ち上がり、辺りを見渡した。そこは群衆の姿も川も無く白い床と壁の真新しい学食内で、まごうことなき食堂だった。

 

「何? 大声出さないでよ。今井大輔」


 怪訝そうな顔で俺を見つめている美魔女は毛皮を着ており、さっきまでの派手なサリーは跡形もなく無くなっている。向かいにいる小早川さんも、高峰も普通の服を着ている。今のは何だったんだ?


「スパイシーな香りが良いですね。餡かけのとろみもあってなかなか冷めにくいですし。麺も太くて絡みやすいです。冬に食べるのにとても良いですね」

「そう言えば塾で願掛けとしてこの蘇芳門ラーメンを食べるってあった気がします」

「なるほど願掛けの効果もあると。さすが最難関大学はひと味違うわね。学食の食べ物にそんな思いを込めるとは。いや、受験生がいつしか込めるようになったのかしらね。なかなかやるわ」


 俺以外の三人は急に立ち上がった俺を無視し、ラーメンの感想を言い合っている。おかしな幻覚は見えていないようだ。俺の頭がおかしくなったのか? 見えた幻覚と幻聴は鮮明でカラーだった。やっぱりいっぺん病院に行っておいた方が良いかもしれない。怖くなってきた。

 残りのラーメンを大人しくすすり、付箋にいつものように点数をつけて小早川さんに渡した。


「あれ、今井先輩、ラーメンの汁が服についちゃってますよ」


 小早川さんに指摘をされ、胸元を見ると黄色いシミがポツポツと服についていた。


「げ、ホントだ。いつの間に」

「色からして落ちなさそうですね。誰かやるんじゃないかと思ってました」


 無表情で澄ました顔をして言う高峰を見ると、高峰の胸元にも同じようにポツポツとしみができていた。

 

「いやさ高峰君、君もやっちまってるよ」

「そんなはずは……」


 高峰は自分の服をつまみ、下を向いている。


「二人ともまぬけねぇ、落ちないわよ。その服はもうダメね」

「しみのところに生地の裏からティッシュを当てて、上から水でトントンと叩けば少しは落ちるかもしれないですけど……あれ? ティッシュを渡そうと思ったんですけど、さっきので使い切ってしまいました」


 小早川さんは鞄をあさりながら言った。

 ああ、さっきの高峰の出した鼻血ね。鼻血を止めるのに大量にティッシュを使ってたもんな。


「うん、ありがとう。近くで見ないとわからないだろうし、まぁ良いや」

「あまり手持ちの服を持っていないので自分は相当なショックを受けています……」


 高峰はさっきからずっと自分の服をつまんで下を向いている。まぁ確かに俺たち学生にとっては服の出費は痛いよな。安くても数千円はするし。


「あら? 高峰君、あまり洋服持ってないの? 私のお古で良かったらいる?」

「いります。下さい」


 高峰は一瞬にして顔を上げた。


「いやいやいや、美波里さんの服って言ったら露出度が凄いヤツじゃないすか。普通は着れませんって。しかも女性物でしょ。冗談でしょう?」

「そんなことないわよ。ユニセックスの服もあるし、今度あげるわ。高峰君は細いから入ると思うし」

「有り難く頂戴します」

「いや、サイズの問題じゃなくて……」


 元からおかしい高峰がさらにおかしな方向に進んでしまうのではないかと心配になる。

 俺は横にいた小早川さんに意見を求めることにした。


「無理だよね? どう考えても」

「う……多様性の時代ですし。高峰君はスーパー頭脳の持ち主なのできっと上手く着こなせるような気もします。何事もチャレンジ……かもしれないです」


 小早川さんのくりくりとした目はあきらかに泳いでいた。たぶん否定をしているんだろうけど、はっきりと伝えないことをはたして優しさと言っていいのだろうか。まぁ、高峰だから良っか。しかし多様性という言葉は便利だな。


「素直で優秀な新入部員も入ったことだし、私は心置きなく卒業できるわ」

「就活終わったんです?」

「まあね」


 美魔女は髪をかきあげ、腰に手を当てた。一瞬だけ香水だかシャンプーだかわからない香りが鼻をついた。


「私は卒業。未島君は大学院へ行くわ」

「へえ、内定もらったんです?」


 腰に当てていた手を膝に乗せ、前屈みになった。美魔女はいちいちポーズをとらないと死ぬ病気なのだろうか。


「人材会社の最大手、リクシードよ。他にもいくつか内定はもらったけど、数年後に独立する予定だからとりあえずね」

「へえ……」


 こんな破廉恥な格好を普段している人でも内定もらえるんだ。この人、リクルートスーツもかなり際どかった気がしたけど、それこそ多様性の時代なのか……もう何もわからなくなってきた。


「さて、そろそろランチの時間だし邪魔にならないうちに行くわよ」

「はい」


 各々、食器を配膳のカウンターに片付けて先を歩く美魔女に後からついて行った。先ほどまでは人の姿もまばらだったが、俺たちが階段を上るのと反対に食堂には何人かの人がおりていった。

 

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