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あなたと食べたい学食で〜食べて悩んで味わって、あるのは恋か幻覚か〜  作者: 汐見かわ
2章 本校_とり生姜焼き丼(初めてのサークル活動)
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楽しそうだなぁ

 学校内の適当なベンチで時間を潰し、3限の始まる少し前に学食へと向かった。

 まだ会って間もない新一年生と昼飯を一緒に食べるとはなかなかにハードルが高いと思う。高校を出たばかりの、言ってみれば高校生に毛が生えたくらいの一年生と食事をする。ワンゲル部だった時も一年生と会話はしたことはあっても食堂で一緒に昼飯を食うことなんてあっただろうか。いや、無い。

 一年生は一年生どうしでつるんでいたし、三年生は三年生どうしでつるんでいた。今さらながら小早川さんとはどんな風に接したら良いのかわからなくなってきた。

 あれ? ところで彼女は何学部だ? 共通の話題なんてもんは無いんじゃないか。同じ大学の学生ってだけで。

 解決しない問題をぐるぐると頭の中で反芻しながら食堂へ行くと、入り口付近に女子が一人でぽつんと立っていた。赤縁の眼鏡をかけた、ジーパンに少し大きめのトレーナーを着た女子。小早川さんだ。

 小早川さんは俺の姿を認識すると、手を上げようとして、すぐさま上げかけた手を下げた。そして軽く頭を下げた。別に手を振ってくれても構わなかった。俺も手を振り返したのに。そこは一応俺が先輩ということで遠慮をしたのだろうか。それとも知り合ったばかりのまだ他人どうしだから気安く挨拶なんてできないと思ったのか……。

 いや、お互いに認識している情報は同じ大学の一年生と三年生ってことと、同じサークルについこの前なったばかりの仲ってことだけだ。同じ学年の友達じゃない。小早川さんはほぼ初対面な人に馴れ馴れしい態度をとらない控えめな人なんだ。いじらしいじゃないか……と思っておく。


「すみません。急にありがとうございます」

「あー、うん。大丈夫……です」


 いつも暇なんで全然気にしないで! とは言えなかった。


「4限は授業あるの?」

「はい」

「じゃあ早めに済まそう」

「はい」


 何を早めに済ますのかよくわからないが、とりあえず先輩として彼女よりも物事をわかっている風を装った。

 そして……えっと、何をするんだっけ? そうだ。昼食だ。昼を一緒に食べることになっている。

 食堂に入るとすぐ目の前には券売機が置いてある。薄ぺったいリュックから財布を取り出し、券売機に千円札を入れると目についた「とり生姜焼き丼」のボタンを押した。食券が1枚捨てられるように吐き出され、おつりボタンを押す。じゃらじゃらと小銭が出てきたので小銭を財布にしまう。

 小早川さんも隣りの券売機で食券を買っていた。


「小早川さんは何にしたの?」

「とり生姜焼き丼です」

「一緒のやつだ」

「はい。先輩と同じメニューを食べたいので」

「え?」


 小早川さんは券売機から食券を取るとカウンターへと進んだ。

 同じメニューを食べたい? 俺と? 俺と同じメニューを胃に納めたいと。それはつまりどういう意味なの?

 いやいやいやいや待て、これはサークル活動だ。淡い期待を持ってはいけない。

 しかしなぜ同じメニューにしたのだろう。まぁ確かにとり生姜焼き丼のボタンは目立つ真ん中にあったし、何となくそれにする気持ちは分かる。

 小早川さんに続き、トレーを持つと提供カウンターへと進んだ。彼女の背中を見て自分の心臓の鼓動をやけに感じるのは気のせいだ。そう、気のせい気のせい。

 カウンターにいる食堂のおばちゃんは小早川さんの姿を見るとにこりと笑った。


「今日は未島(みしま)君と耀子(ようこ)ちゃんは一緒じゃないのね」

「はい。先輩達は就活で忙しいみたいで。でも大学に来た時は絶対に食堂に寄るって言ってましたよ」

「あはは、ホントに好きよねぇ」


 食堂のおばちゃんと小早川さんは見知った仲らしく、何やら楽しげに会話をしている。そうか、食堂へはもう何度もあの人達と来てたんだな。あと、当たり前だが四年生は就活で忙しいよな。

 

『先輩達は就活で忙しいみたいで』


 小早川さんの言葉に頬をビンタされたかのような一瞬の痛みが走った……気がした。

 おばちゃんはカウンターに置かれた俺と小早川さんの食券を確認すると、厨房の奥に行った。

 厨房の中では白い制服を着たおじさんおばさんが数人いた。何かしら手を動かしてはいるが、昼時の波は去った後なのか緊迫した雰囲気は感じられない。時折り近くの人と談笑をしながら慣れた手つきで作業をこなしていた。

 横にいる小早川さんを見ると、厨房の奥にじっと視線を向けている。何だろう……こう、楽しそうに厨房を眺めている。瞳が輝いているというか、わくわくしているというか。食堂のおばちゃん達を眺めるのがそんなに楽しいか? 白衣を着たおばちゃん、おじちゃんだぞ?

 でも、そんな小早川さんを眺めるのは楽しいかもしれない。


「はい、お待たせ」


 厨房の奥からカウンターへと戻って来たおばちゃんは俺と小早川さんのトレーに出来上がったとり生姜焼き丼を乗せて次の作業に向かった。

 トレーに食事がのせられたらすみやかにカウンターからどかなければならない。この場所に長居は無用だ。後から他の人もおばちゃんに食券を渡しに来るからだ。

 とり生姜焼き丼の乗ったトレーを持ち、後ろにある箸やらセルフの水をトレーに置いた。

 食事の乗せられたトレーはずっしりと重く、途中でヘマして落とさないように気をつけながら空いている席へと座った。


ここまで読んでくださってありがとうございます。

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