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あなたと食べたい学食で〜食べて悩んで味わって、あるのは恋か幻覚か〜  作者: 汐見かわ
9章 帝東大学_蘇芳門ラーメン(攻撃力が半端ない)
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俺と君とは違うんだ

「さて、今日はここ。日本の大学の最難関。どんなものかお手並み拝見とするわよ」

「あれ? ここの学食は初めてですか?」

「未島君はもしかしたら来てるかもしれないけど、私は初めてなのよね。まぁいろいろとね……」


 美魔女は毛皮コートのボタンを閉じながら言った。

 いつもはっきりきっぱりとした口調で高圧的な態度の美魔女が珍しく歯切れが悪い。確か美魔女は医学部志望で何年か浪人をしてたんだよな。医学部目指してたってまさかここの大学か? 帝東大の医学部って言ったら医学部の中の頂点と言っても過言じゃないよな。そうか……夢破れたってところか。それで父親と上手くいってないみたいなことを前に小早川さんから聞いてたっけ。

 蘇芳門(すおうもん)の脇にある開いている扉を先に進む美魔女の後ろ姿は、彼女の家族との関係を思いながら見ているとうら寂しく感じてしまう。今日はどんな思いでこの場所に来たのだろう。


「あ、美波里先輩が先に行っちゃいましたね。高峰君、早くティッシュを鼻に詰めて」

「な、なかなか良い具合にティッシュを丸められなくて……」

「ちぎらないでティッシュはそのままくるくる巻いたら良いよ。はい、これ」

「それだとティッシュが鼻からはみ出る……」


 小早川さんは手持ちのポケットティッシュを手早く丸めると高峰の手に無理やり持たせた。


「早く鼻血を止めないと。早く」

「は、はい」


 何だこれは。小早川さん、高峰に対して厳しいな。俺も同じ学年だったらこんな扱いになるのだろうか。

 とにかく、高峰と小早川さんはただ同じサークルってだけで特に何にも無さそうだ。むしろ、本人に向かって頭がおかしいと言ってみたり高峰はぞんざいに扱われている気がする。人数の少ない密なサークルではあるが、これならおかしな気を起こされる確率も限りなく少なさそうだ。

 丸めたティッシュを鼻に突っ込み、鼻の下からは大部分のティッシュがはみ出ている高峰の姿はかなり滑稽だった。

 前方には毛皮のコートを着てサングラスをかけた女。後ろにはティッシュを鼻に突っ込んで歩いている男。そのうち帝東大には出禁になる予感しかしない。

 

「ここで有名なのはラーメンみたいですよ。少し辛いみたいですけど。蘇芳門ラーメンっていうみたいです。今日はきっとみんなでラーメン食べる感じですね」


 そばにいた小早川さんが話しかけて来た。

 前後を変態チックな人達に囲まれている中、小早川さんは本気で清涼剤だなと思う。あの2人がいなかったら気兼ねなく校内を歩けたのになぁ……こんな珍妙な我々が天下の帝東大の中を歩いて良いものなのか? 来ちゃったからには仕方がないが。

 

「新入部員が増えて良かったけどさ。高峰君って何かいろいろとすごいよね」

「ビックリしますよね。でも根は真面目で良い人なんですよ。いろんなサークルを見学したそうなんですけど、初対面であんな感じなのでどこも入部を断られたみたいです」

「まぁ、そりゃそうなるよなぁ」


 ふと、前を歩いていた美魔女が足を止めた。何事かと視線を向けると、黄色く色付いた銀杏の葉が辺り一面に絨毯のように広がっていた。


「わあ! 銀杏並木!」


 小早川さんは小走りに美魔女の側まで行った。

 黄色い落ち葉が足元に広がり、黄色い葉をつけた木々が先の方に見える建物まで一直線にアーチを描いている。アカデミックで幻想的な黄色い世界が広がっていた。

 そんな景色を見上げている小早川さんが雑誌の表紙を飾るモデルみたいだなと思った。大学の宣伝用のポスターに使われてもおかしくないな。赤縁の眼鏡と銀杏並木とがまた感じの良い学生って雰囲気だし、優しげで真面目そうだ。

 これは良いなぁ……見惚れるってこのことだよなぁ。可愛いし。

 思わずスマホを取り出し、銀杏並木の中にいる2人を画像に収めた。一緒に映っている美魔女は後から消しゴムイリュージョンで消しておこう。


「今、何をしたんですか?」


 いつの間にか高峰が後ろにいた。小早川さんに見惚れていて気が付かなかった。


「もしかして隠し撮りですか?」

「別に隠してねぇよ。後で2人には画像送るし」


 高峰がスマホを覗き込んできた。図々しいやつめ。


「あ、良い画像が撮れてますね。雑誌の表紙みたいだ」


 そう言うとおもむろにポケットからスマホを取り出した。目の前に広がる銀杏並木の風景を撮るのかと眺めていたら、やたらと撮影画面をズームにして美魔女の脚や胸元をアップにし、撮影した。


「……高峰君、何してんの? それこそ本気の隠し撮りじゃん。どういうこと?」

「いえ、あの。先輩だって撮ってるじゃないですか」

「撮ったけどさぁ……なんていうか、目的が違うっていうか。俺は風景が良いなと思ったわけ。これじゃあ何を撮ってるんだかさっぱりわかんないじゃん」

「え、わかりませんか? 女体ですよ。さっきの毛皮の……頭に焼き付いてて」


 少し照れながら言った高峰に悪意は無さそうだった。気持ちが悪かった。

 悪意は無さそうなピュアな下心満載な行動を自然にとったのがまた気味悪いし、何なんだこいつは。しかも、さっきまでずっと無表情だったじゃないか。煩悩には忠実なのかよ?

 

「あぁ、えっと……そうか。そうだよな、鼻血出してたもんな、うん。あぁ、でも思ったことをそんなにはっきり正直に言わなくて良いかな。ちょっと……いや、かなり怖いっていうか、驚いたというか。正直なのは良いかもしれないけど、その辺の欲求は心の中に留めておいた方が良いっていうか。俺達初対面だしね」


 俺の言っていることが理解できないのか、俺の撮影した画像と自分の撮影した画像の何が違うのか、解せぬ的な顔をしている。

 こりゃやべーのが来ちまったなと、高峰から離れて小早川さん達のところへと行った。

 新入部員は単なるむっつりスケベだった。

 スケベと痴女のような格好をした美魔女とが一緒にいる空間は危険なのではないか。何かが起きたらこの大学には二度と足を踏み入れることができなくなるだろう。俺は一抹の不安を感じている。

 

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