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あなたと食べたい学食で〜食べて悩んで味わって、あるのは恋か幻覚か〜  作者: 汐見かわ
9章 帝東大学_蘇芳門ラーメン(攻撃力が半端ない)
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猛獣使い……

 

 小早川さんとカマキリのような顔をした男が一緒にいるところを目撃した翌日に、他大学の学食に行くとサークルの連絡があった。あの日は小早川さんが未島以外の男と一緒にいるところを目撃したことにかなり動揺はしたが、よくよく考えれば同じ講義を受けている仲とか、席がたまたま近くて顔見知りになったとか理由なんていくらでもあるもんな。深く考え過ぎだったな。杞憂だ杞憂。

 しかしだ、あのカマキリが入って行った建物って政治経済学部だよな。美魔女と同じ、我が大学最高難易度の学部……。いや、違うな。トイレだな。トイレが近かったからすぐそばの建物に入って行ったんだよな。トイレだったらしょうがない。人前で粗相はできないからすぐ近くの建物に入るよな。うむ。

 そんなことを無理やりぐるぐると考えながら待ち合わせ場所の大学の門が見えてきた。この門はここの大学のシンボルであり、赤色に青みがかかった独特な色をしていることから蘇芳門(すおうもん)と呼ばれている。日本の大学の最高峰。俺にはとてもじゃないが目指せなかった。

 さて、待ち合わせ時間には少し早かったが誰か来てるかな。視線を門の端から端に移すと、守衛の立っているすぐ近くでサングラスをした布を垂らしただけのような白いドレスを着て白の毛皮のようなコートを羽織っているおよそ大学に似つかわしく無い奇天烈な格好をしている女がいた。間違いない、美魔女だ。

 げんなりとした。映画の授賞式にでも出席するのか。これと校内を歩くとか何の罰ゲームだよ。本気で近付きたくねぇなあ……。守衛さんもチラチラ見てるし。ていうかあんな服ってどこで買って来るんだよ。


「今井先輩」

「うわっ!」


 後ろから急に声をかけられ声が出てしまった。

 振り向くと小早川さんと、その横に男がいた。ぎょろりとした吊り目。逆三角形の輪郭。そして俺を見下ろす程のひょろ高い背格好。こいつ、あの時のカマキリ男じゃん!

 カマキリは俺を真っ直ぐに見据え、にこりともせずにじっと見下ろしている。


「新入部員の高峰(たかみね)君です」

「初めまして。政治経済学部1年、高峰透(たかみねとおる)です。よろしくお願いします」


 新入部員……だと?

 小早川さんが嬉しそうにカマキリ男を紹介した。しかし、男の方はやはりにこりともせずに無表情のままほんの少しだけ俺に頭を下げた。サイボーグみたいだな。率直にそう思った。カマキリサイボーグ。


「この方は今井先輩です」

「どうも……今井大輔です。3年です。よろしく」


 初対面だし握手でもした方が良いかと手を出そうとしたところ


「今井先輩は何学部ですか?」

「商学部だけど」

「ふっ……商学部」


 カマキリこと高峰が鼻で笑った。

 こいつ、鼻で笑いやがった。え、何今の? 怖いんだけど。もしかして学部でマウントとる系の人? 学歴厨なの? え?

 俺は差し出そうと出かかっていた手を引っ込めた。


「和合塾の偏差値だと私は70、今井先輩は67ですね」

「だから何だよ」


 高峰を思い切り睨んでやった。

 俺と高峰が睨み合っているところ、慌てて小早川さんが間に割って入った。


「すみません。先輩! 高峰君は幼少期からの受験勉強で頭がおかしくなっちゃって、とりあえず和合塾の偏差値を言ってるだけです。偏差値がどうとか下とか上とか特に無いみたいです。悪意は無いみたいです」


 ちょいと小早川さん、あなたはっきり言い過ぎよ? 言葉を選びなさいよ。頭がおかしくなったって言われた方もどうかしてるけど、小早川さんも小早川さんだよ? この子も春頃の印象とずいぶん変わってきたよな。

 そんなことより散々に言われた高峰の方を見ると、無表情で黙っている。

 えぇ……どう理解したら良いのこれ? 面と向かってはっきり言われてるけど、何なんだよこいつ。頭がおかしくなったってのは自分でも認めてるってこと? でもこいつは俺が学部を言った時に明らかに鼻で笑ったから学歴で人を見下したり評価したりする学歴厨ではあるとは思うのだが。


「高峰君、初対面の人にそうやって偏差値とか言うの失礼でおかしいしやめた方が良いって言ったのに」

「つい癖で。しかし、相手の人間性がわからない場合において偏差値というのはひとつの指標になりますし。少子化における大学全入の時代において大学名、学部、そして出身中学、高校は注目されます」


 高峰は表情を変えることなく、小早川さんに早口で説明している。

 うん、わかった。病気だこの人。


「私も初対面で67って言われて、ビックリしたんですけど、美波里先輩や未島先輩達と一緒にいたらまぁそういう人もいるかなって。67だから何なんだって感じですよね」

「うーん、そうか……?」


 そうね。小早川さんも奇人変人に囲まれてるからね。そういうのはお手のものっていうか、猛獣使いっていうか、小早川さんの大学の交友関係も心配だよ俺は。


「高峰君、文化祭で私達の展示に来てくれてたんですって。そこでサークルに興味があって入ってくれたんですよ。ね?」

「はい。展示の内容はとてもユニークでした。面白いなと。まぁ、とはいえ俺だったら他の大学に行った場合はそこの大学の偏差値も書きますし、点数に考慮し――」

「なぁにをそこで突っ立って喋ってるの? この背の高い坊やが新入部員よね」


 布を垂らしてるだけのような白いドレスと毛皮のコートを着た美魔女が突如、小早川さんと高峰の後ろから現れた。横から見るとマジで胸とか局部とか丸見えなんじゃないのこれ。


「う、うわああぁ! 痴女! へ、偏差値80! ひゃべっ!」


 高峰は盛大な鼻血を吹き出しながら後ろに倒れた。


「高峰君!」

「あらあら。坊やには私の美貌は眩し過ぎたみたいねぇ」


 美魔女は腰に手をあて、長い髪をかきあげると満足気に羽織っている毛皮のコートの前襟をつかみ、コートを開いたり閉じたりしている。コートをパァって開くんじゃないよ。やめなさい。

 

「へ、偏差値80、いや81、82……」


 毛皮のコートの前が開くごとに偏差値の数値が上がっている。え、高峰の言う偏差値ってそういうことなの? 偏差値、とは?

 高峰は鼻を抑えながらゆっくりと起き上がった。小早川さんはそんな高峰にポケットティッシュを差し出している。


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