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あなたと食べたい学食で〜食べて悩んで味わって、あるのは恋か幻覚か〜  作者: 汐見かわ
8章 本校文化祭_屋台フード(じゃんじゃん集めるわよ)
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邪魔者登場

 午前よりも午後の方が明らかに来る人が減った気がする。幸いにも隣りのヘビメタフェスは機材トラブルと演奏順を決めるのに揉めているらしくまだ一度も音を発していない。

 小早川さんも俺も来た人をカウントしつつ、何かを聞かれたら質問に答えるスタイルで、人がいない時は2人で世間話をしてのんびりと過ごしていた。

 教室の窓から下を眺めると、大勢の人達が校内を行き交っている。みな、どこに向かって歩いているのだろう。忙しそうだ。


「今井先輩」


 受付にいた小早川さんに声を掛けられた。


「テーブルの上に置いていたホークス君知りませんか?」

「え? 無いの?」

「見当たらなくて……」


 学祭が始まった時間くらいに私物のホークス君のキーホルダー型ぬいぐるみを受付テーブルの上に置いていたはずだった。来た人数を数えるのに集中していたので、ホークス君にはあまり気を配っていなかった。


「下とかテーブルのところとか……」


 小早川さんはテーブルの中や下を覗いたりしている。どうやら本当に無くなってしまったらしい。もしかして盗まれたとか? 


「もしかして未島さん達が持って行ったのかも」

「ちょっと聞いてみます。けど、たぶん先輩達じゃないと思うんですよね。無くしたらショックだなぁ……」


 学内で堂々と窃盗を働くなんざ、大胆不敵過ぎる。学園祭の最中のこんな浮ついた雰囲気の場所で罪を作るとか意味がわからん。

 やっぱり誰かが勝手に持って行ったか? 確かに俺達が2人とも来場者の対応をしていた時間はあった。その時か?

 受付のテーブル周りを探している小早川さんの近くで俺もテーブルの中を探してみる。

 いくつかのテーブルを探している時だった。


「あれ? 何で大輔がいんの?」


 声のした扉の方を振り向くと、あろうことか杉本がいた。

 げ、こいつ何しに来たんだよ。

 杉本は小早川さんに一瞬視線を向けてすぐに俺の方にやってきた。


「何でここにいんの? もしかして部活辞めた後に別のサークルに入ってたん? この前、何にも言ってなかったじゃん」

「別に報告する程の事じゃないし。てか、何でいるんだよ」

「やたらとセクシーなお姉さんにチラシもらったからさ。どんな展示してんのかなぁと来たら大輔がいた」


 手にしていたチラシをひらりと顔の前に出された。これは確かに配っているチラシだ。美魔女か。こいつは美魔女からチラシを受け取ったのか。


「なるほどね。それでその子は同じサークルってわけね」


 杉本がそう小声で言い、口の端を吊り上げてにやりと笑っている。実にいやらしい顔をしている。何だか嫌な予感がする。


「杉本、お前さっさと帰――」

「こんにちはー、俺、大輔の友人の杉本滉人って言います。君。何年生?」


 急に小早川さんの方に近付き、馴れ馴れしく挨拶をしだした。


「1年生です」

「へー、1年生なんだ。まだ未成年だよね? 名前は?」

「は、はい。小早川です」

「小早川? カッコ良い苗字だね。小早川何さんって言うの?」

「こ、小早川茉依です」

「茉依ちゃんね。よろしくね」


 うわあぁ! 茉依ちゃんだと? 茉依ちゃんって言ったかこいつ? 初対面で名前呼びをしたのかこいつは! 俺だって名前で呼んだことないのに! 何だこいつは! 馴れ馴れしい。そして近い。小早川さんが困って少し後ずさりをしている。

 うっぜ。最悪にうっぜ。


「何学部?」

「きょ、教育学部です」

「教育かぁ、知り合いに教育の人いるから紹介しようか? ゼミのこととか教えて貰えるよ。連絡先教えて」

「え?」


 ちょいちょいちょいちょい! 杉本お前! 何だそれは。距離の詰め方が恐ろしいな。これが完全なる真のコミュ力お化けってヤツか……。

 いやいや感心している場合じゃない。これは危険だ。小早川さんが杉本のペースに飲み込まれている。杉本が小早川さんに近付くのを阻止しなければ。

 俺は杉本と小早川さんの間に無理やり入った。杉本は爽やかな笑顔を顔に貼り付けている。この顔で今まで何人もの女子達を毒牙にかけてきたってわけか。


「いや、お前さ。急に馴れ馴れしいよ。帰れ。小早川さんが困ってるだろ」

「えー、そんなことないよ。俺、誰にでもこうよ? あ、あと、俺"商社"に内定もらってるし、就活とかOB訪問とか相談に乗れるよ。茉依ちゃん」


 こ、こいつ商社内定のカードを切ってきやがった。姑息なやつめ。あと、小早川さんを名前で呼ぶな。

 俺の手を振り解き、杉本は小早川さんに一歩近付いた。


「商社に? すごい、優秀な方なんですね」

「なんかトントン拍子に上手く行っちゃってさ。自分でも驚いてるんだよね」


 杉本は見たこともない聖人のような朗らかな笑顔だった。こいつ、印象を良くしたい時にはこんな顔をするのかよ。人畜無害みたいな顔しやがって。俺の前ではいつも薄汚れたトラみたいな雰囲気出してるじゃねえかよ。


「というわけで、連絡先交換しよ。ほらQRコード出して」

「え……は、はい」


 小早川さんはスカートのポケットからスマホをおずおずと取り出した。コミュ力お化けとしての能力をいかんなく発揮している杉本の押しに負けそうになっている。くそ、こうなったら、杉本のスマホを取り上げて床に叩きつけるしかないか。こいつと小早川さんが連絡先交換をするのはどうしても阻止したい。阻止しないといけない気がする! いや阻止しないと俺は死ぬ!


「読み込むから、ここの三本線のところを押して」

「は、はい」

「杉本、まてこら――」


 杉本のスマホに手を伸ばしたと同時に地鳴りのような爆音が突如耳をつんざいた。

 

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