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あなたと食べたい学食で〜食べて悩んで味わって、あるのは恋か幻覚か〜  作者: 汐見かわ
8章 本校文化祭_屋台フード(じゃんじゃん集めるわよ)
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頑張るしかない

 フランクフルトを右手に持ちながら美魔女が慶永生に近付いた。


「君、確か慶永の学食研究会の人だったわね。展示を観に来てくれたのかしら。さすが研究熱心ね。感心するわ」


 そしてフランクフルトについているケチャップを舌で艶かしく舐めあげた。あ、これは18禁かもしれん。


「ひ……ひえぇ! 痴女!」


 慶永生は顔を真っ赤にさせながら走って行ってしまった。とりあえず撃退できたようで良かった……のか?

 美魔女は何事も無かったかのように平然とフランクフルトを食べている。この人、そろそろ公然わいせつ罪で捕まるんじゃなかろうか。


「ほほう、あの若者は実に研究熱心ですなぁ」

「知り合いですか? めちゃくちゃ失礼な奴でしたけど」

「去年、私めと美波里女史で慶永の文化祭に行った時に彼が展示をしていましてね。そこで親交を深めたことがあったのですよ」


 親交って言うのか……どんな親交の深め方をしたんだ。あれはただ嫌味を言いに来ただけなのでは?

 手にしているビニール袋をテーブルに置き、未島はチラシの裏に『13:00まで休憩中』の文字を書いた。


「いろいろと買って来ましたので皆で食べましょうぞ。昼にしましょう」


 美魔女と未島が手にしているビニール袋からたこ焼きやらフライドポテト、胡麻団子などを取り出してテーブルに広げた。俺たちの為に買ってきてくれたのだろう。


「そう言えば食堂のおばさん達が来て、差し入れってことでカレーを置いて行ってくれたんですよ。ね、小早川さん」

「……あ、は、はい」


 小早川さんの方に振り向くと、どこかぼんやりとして元気がなさそうに見えた。


「小早川さん? 大丈夫?」

「え? はい。何でも無いです……」

「何でも無さそうに見えないけど……もしかしてさっきの慶永生?」

「…………」


 俺は何とも思わなかったけど、そりゃ真剣に取り組んでいる人からしてみれば、いちゃもんつけられたら落ち込むよなぁ。


「気にすることないよ。ああいう人は何かしら突っかかって言ってくるんだよ。内容は関係ないよ」


 近くにあったビニール袋にはたこ焼きの入ったパックが2つ入っていた。そのうちの1つを小早川さんに手渡した。たこ焼きはまだほんのりと温かかった。

 

「それにあんなに怒れるってそれだけ小早川さんが真剣に取り組んでる証拠だし、はっきり言える小早川さんはかっこいいなと思ったよ。俺はとっさに何にも言えなかったしなぁ」


 我ながら自分が情け無いとも思ったが、危うきに近寄らないのも大事なことだしな。

 俺は自分の保身を真っ先に考えてしまう。

 まだ温かいたこ焼きを割り箸で取り、口に入れた。ソースの甘くてスパイシーな味と青のりの香りが口の中に広がった。周りはしっかりめに焼かれており少しぼそぼそとしていた。

 

「小早川さん、案外ケンカっ早いからさ。ビックリしたよ。あ、たこはめっちゃ小さいのが入ってる。とにかく早く食べてムカつく事は忘れた方が良いよ」

「……そうですね」


 少しうつむいている彼女の表情はわからなかったが、ゆっくりとたこ焼きのパックのゴム輪を取り外している。


「何かいつも今井先輩には励ましてもらってばっかりな気がしますね」


 顔を上げた小早川さんは吹っ切れたのかいつもの朗らかな表情に戻っていた。良かった。


「なぁに? さっきの慶永生に茉依が何か言われたの? 何かあったら言いなさいよ。この世から抹殺してあげるから」


 フランクフルトを食べ終え、次にポテトを食べながら美魔女が急に暗殺者みたいな事を言い出した。

 

「不穏過ぎますよ。抹殺って何すか」

「慶永のOBとOGの集まりは礫川会でしたかな。そちら方面にも父は顔がききますから、厳重注意どころか将来就職できなくすることもできますな。さすがに退学まで追い込むのは難しいとは思いますが」


 ホットドッグを頬張りながら未島がさも普通のことのように言った。本気でやろうと思えばできちゃいそうなところが恐ろしいんだよな。この人は。

 しかし美魔女も未島も急に血気盛んになるのやめてもらって良いですか。その矛先がいつか自分に向けられるんじゃないかと不安になるじゃないか。


「今井先輩に励ましてもらったので大丈夫です。来年の学祭は行って超辛口の感想を言ってやります」


 小早川さんはたこ焼きを頬張りながら、拳を握り前に素早く突き出した。それは感想と言うよりぶん殴りに行くモーションだな。

 

「あの人達ってやたらとこちらを意識するのよねぇ……あ、ミューズ達からの差し入れはどれ? 食べたいわ」

「カレーを頂いたんですけど、3つしかないんです」


 食堂のおばさん達から預かっていたカレーの入った袋を小早川さんが美魔女に差し出した。


「今井大輔はいらないでしょ。元々数に入って無いし。ポテトあげるわよ。ほれ」

「ちょっと扱いが雑過ぎなんですけど……」


 美魔女からポテトを受け取った。ポテトはすっかり冷めており、ポテトを入れている紙パックは水気を含みしわしわになっている。美魔女はカレーを取り出すと、残りの2つはそれぞれ小早川さんと未島に渡された。あ、本当に俺の分無いんだ。別に良いけどさあ。


「未島さん達、もしかしてチラシ配りと称して文化祭遊んで来ました?」

「え、そうだけど?」


 やっぱりか! 帰って来るのがやたらと遅いと思ってたんだよ!

 美魔女は気にする様子もなくカレーの入ったパックの蓋を開けている。


「それズルですよね。教室は俺と小早川さんに任せっきりで。時間で入れ替えしましょうよ」

「それは無理。だって、どう考えても私と未島君は教室内にいない方が良いでしょ? 人が入らなくなるわよ」


 この人、自分がアレな格好してるって自覚してたのか……。

 未島は黙っていれば別にいても大丈夫だとは思うが、そこは安全をとったわけか。


「お詫びと言ってはなんだけど、これとかこれとか好きに食べて良いし、午後もおやつ買って来るから我慢してちょうだい」


 目の前にチヂミの入ったパックの袋と、ドーナツの入ったビニール袋を差し出された。

 まぁ、小早川さんと2人だし良っか。こうして美魔女達も気を使ってくれてるわけだし。

 小早川さんに視線を向けると、小早川さんも俺の方を見ていたらしく視線が合った。


「今井先輩、午後からも2人で頑張りましょう」


 小早川さんにそう言われたら頑張るしかないよな。

 

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