正直で可愛い
秋学期の初め頃、食堂に集められた俺達は特に話し合いの時間を設けられることもなく、美魔女から一方的に告げられた。
「文化祭は展示をするわよっ!」
声高らかに言い放ち、何枚か書類を見せられた。
「もう申請は出してあって、教室はここ」
美魔女は赤黒いネイルの指先で、地図を指し示した。使う教室は11号館の604教室。
「これって隣りの教室はヘビメタフェスって書いてありますけど音が凄そうですね……」
「ヘビメタのフェスって、轟音に騒音って感じするな」
「ここのフロアは周りの団体の名前から察するに、だいたい展示系っぽいですぞ。ヘビメタの展示ではないですかな?」
「ヘビメタの歴史的な? いやー、フェスですよ? 展示は無いでしょ」
何で音楽系のサークルと同じフロアに展示系のサークルを配置するんだよ。文化祭実行委員はバカなの?
「ま、防音くらいするでしょ。で、私達が何をするか」
美魔女は大きく脚を伸ばし、脚を組み替えた。パンツが見えた気がしたが、嬉しくとも何ともないので見なかったことにした。
「サイトのページを拡大コピーしたものを貼ったり、あとはサイトの紹介。これで行こうと思うわ。一番大事なのは新入部員を獲得すること。良いわね」
今年、部員が最低でも1名増えないと活動費が下りないんだっけか? 4年生はカウントしないとか。
あれ? 待て。俺って秋学期の必修って取ったよな? 急に不安になりスマホを取り出して、履修登録画面を確認した。きちんとマーケティング論に「登録済」のマークがついていた。
良かったぁ。これでとんでもないヘマをしなければ4年生になれる。なんてったって※楽単だし。
「……ってことでさっそくよろしく」
自分の履修登録のことを考えて美魔女の話を聞いていなかった。
「えっと……すみません。何でしたっけ?」
全員から視線を向けられ、美魔女からは睨まれた。何でこの人いつも俺にこんなに当たりがキツイわけ? 怖いんだけど。
「……私の時間は有限なの。私は優しいから今井大輔の為にもう一度言うわね」
「すんません。はい」
テーブルに手をつき、顔をぐいと近づけてきた。甘ったるい香水の匂いが鼻につく。
この美魔女の圧にもだんだんと慣れてきた。ビックリはするが、慣れればただの美魔女だ。おかしな際どい格好はしているが人間だし、ただ少しばかり個性が爆発しているだけの露出狂みたいなただの美魔女。
「展示はサイトのページを拡大コピーしたものを貼る。いちから作るのは予算が足りないのと時間が足りないので、最終エクセレントパーフェクト奥義として――」
「え、最終エクセレント、何て?」
「最終エクセレントパーフェクト奥義として、未島君のポケットマネーで業者を使いましょうってことに」
「え、それってマズくないですか?」
サークルの予算以外のお金を使うのは禁じ手だろ。他の学生も真似しかねないし。いやまぁ確かに未島は金持ちだよ。金は腐るほど持ってるけど、個人のお金を使うのはマズイだろ。小早川さんも学園祭って個人のお金を使っても良いんだと勘違いしちゃうだろうよ。
「別に私めは構いませんよ。用紙代とコピー代くらいですよね」
「お金の問題じゃなくて……こう、何て言うか。限られた予算の中で創意工夫してやるもんじゃないんですか?」
「予算が無いのよ。学校から与えられてるお金はサイトの維持費に消えるし。私もね、そこは本当に悩んでためらったんだけど、もうどうしようもないの」
俺に近付けていた顔を離し、美魔女はウェーブのかかった自分の長い髪の毛をかきあげ、腰に手を当ておもむろにポージングをとった。ウソだな。全然ためらってる様子なさそうなんだけど。それにしても何で今、決めポーズ取ってんだよ。どうせ使えるものは使おうって腹積もりだろ。本当に性根が魔女だな。
「私めは本当に構いませんよ。これで展示が上手くいって部員数が増えれば万々歳ですしな。何ならパネル制作を外注に出しても良いくらいです。その方が見栄えも良いし丈夫でしょう。ひゅひゅひゅ」
未島……こいつは本当に金持ちのボンボンだな。金の力で全て解決します的なその発想はどうなんだ。情操教育的に良くないだろ。そして羨ましい。
現部長である小早川さんはどう思ってるんだろ。小早川さんに視線を向けると、ぱちりと目があった。
「私は……与えられた予算の中で創意工夫をするのが一番だと思います。自腹だとお金を出せる人と出せない人の差とか展示内容の差も出てきてしまうかな……とも思いますし。ただ、今回は時間も予算も無いですし……気持ち的には半分半分です」
「あー、未島さんが全額払うことには気持ち的には半分のっかりたいなってことね?」
「はい。半分より少し上……かなと」
小早川さん正直だな!
最後の方は小さい声でもごもご言っていたが、正直なのと美魔女と違って申し訳なさそうに言ってたから良し。許す。
「多数決で未島君のポケットマネーで全てやってもらうことに決定したわね。というわけで未島君、よろしくね。後は任せたわ。解散!」
美魔女は自分の肩にかかっているウェーブの髪の毛をふぁさりと手で払い、ヒールの音を響かせながら学食から出て行った。
何て言うか……嵐みたいな人だな。
「私めは利用する業者はだいたい決めてありますし、業者がポスターサイズに印刷するだけですからな。後は学園祭前日くらいに集まって準備すれば良いですかな?」
「私も何かお手伝いすることがあれば言って下さい!」
こうして初めての学園祭の準備は未島のポケットマネーで全てまかなうことになった。
※楽単…簡単に取れる単位のこと。




