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あなたと食べたい学食で〜食べて悩んで味わって、あるのは恋か幻覚か〜  作者: 汐見かわ
7章 夏休み_金魚水槽を運ぶ(眼福、眼福)
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へぇ……

 ピンポンとインターホンから音が2回鳴ったすぐ後にインターホン越しに人が出たのがわかった。


『はい』


 小早川さんの声がインターホン越しに聞こえた。思ったよりもよそよそしい声に少し戸惑った。


「今井です。水槽を届けに」

『今、開けます』


 今日の昼頃に俺たちが来ることはわかっているだろうに、声のトーンが少し冷たく感じたのは気にし過ぎだろうか。牛丼を食ってる場合じゃなかったか? 来るのが遅かった? それか、インターホン越しなので普段の声の感じより冷たいように思えただけかもしれない。

 

「はぁー、ここまで暑かったですな」


 未島はのんきだった。

 抱えていた段ボール箱は足元に置き、ハンカチで顔の汗を拭っている。

 未島は前にも小早川さんの家に来たことがあるようだし、どことなく慣れた様子に見える。

 俺はどんな部屋なのだろうとか、どんな空間で過ごしているんだろうとか期待やら緊張やらで、落ち着かないってのに。

 未島が一緒とはいえ、少し緊張する。人の家に行くことってあんまり無いもんな。杉本の家にだって滅多に行くことなかったもんな。

 玄関の内側からガチャリとチェーンの外される音がして扉が開いた。


「暑い中ありがとうございます。狭いですけどどうぞ」


 小早川さんが扉を大きく開けながら言った。Tシャツに下はスエットと、いつもよりも少しラフな格好をしているくらいで特に不機嫌にしているわけでもなく、変わった様子も無かった。


「では、おじゃまします」


 再び段ボール箱を抱え、両手が塞がっている未島の為に、玄関の扉を抑えててやった。未島を先に通し、続いて俺も家に入る。


「おじゃましまーす……」


 視界に真っ先に入ってきたのは部屋の奥、ベランダのすぐ前にあるベッドだった。淡いピンク色の枕に掛け布団。そして枕元には米将軍宗保のぬいぐるみ。宗保はぬいぐるみも販売してるの? そんなに人気のキャラクターだったのか……。


「すみません狭くて。私の靴の上に靴を置いちゃって構いませんので」

 

 玄関は小早川さんの靴が2足出ており、そこに未島と俺の靴が置かれたらもう他の靴は置けない広さだった。

 未島はさっさと家にあがると奥に進み、部屋の真ん中にある小さなテーブルの側に段ボールを置いた。

 テーブルの奥にはベッドがあり、テーブルをはさんで洋服タンスと本棚が壁際に配置してある。

 普段、このテーブルでレポートを書いたり食事したりしてるんだろうなぁ。


「どうぞ座って下さい。今、お茶を出しますね」


 未島と共にテーブルを囲い座る。

 改めて部屋の中を見渡すと、淡いピンク色や木目調の本棚など、シンプルながらもやっぱり女子っぽい雰囲気の部屋だなと思った。カーテンもピンク色だし。あと何か良い匂いがする。何だろう、香水の香りか? 芳香剤にしてはかなり淡い香りだ。何の匂いか良くわからないがほのかに良い匂いがする。お香たいたり、きっと意識高い生活をしてるんだろうなぁ。いやぁさすが。


「金魚達は室内飼いなのですな」


 未島の声で我に返った。

 金魚は水を張ったカラーケースの中に入り、本棚の隣りの床に直接置かれている。


「外に置いた方が良いですか?」

「いえ、昨今は夏も猛烈な暑さですし、冬も寒暖差が激しいので室内の方が良いと思いますね。えっと、今日はいろいろと持って来ましたぞ」


 段ボール箱の中から水槽、ホースのついた循環器らしきもの、砂利、パンパンに膨らんでいる袋、何かのボトル、そして餌を取り出して床に広げている。

 テーブルの上には小早川さんがペットボトルのお茶を2本置いた。


「こんなに! 重かったですよね? こんなにたくさん頂いて良いんでしょうか?」

「いえ、兄がこれも持って行けとうるさかっただけですよ。どうぞどうぞ、もう使いませんので。必要としているところにあった方が良いでしょう」

「本当にありがとうございます。これからは未島先輩の家の方角に足を向けて寝られませんよ」

「私めの家の方角はたぶんあちらですかな。ひゅひゅ……」


 未島がベランダの方を指差した。小早川さんはそちらを向き、両手を合わせてなむなむと拝みだした。

 ……俺、何でここに来たんだろ。なぜだか自分に対していたたまれない気持ちになってきた。

 手持ち無沙汰なので出されたペットボトルのお茶を手に取りひと口飲んだ。

 あぁ、冷たい……。


「さっそく金魚達の引越しをしないとですね」

「まずは水合わせですな。水槽はどこに置きますかな?」

「そうですねぇ……今と同じ場所にしようかなと。本棚の横で。そこならベッドの枕の位置からは離れてますし、ぶくぶくの音が気にならないかなぁと」

「すんごい足元だけど良いの? 布団のところに水はねたら嫌じゃない? 床に直接置くんでしょ?」


 思わず口出ししてしまった。

 金魚ってけっこう活発に泳ぎ回るイメージあるし。足元に水槽があるのは何だか落ち着かないけどな、俺は。


「やっぱりそう思います? 薄々そう思ってたんですよねぇ。この子たちけっこう活発ではねると布団がきっと少し濡れちゃいますよねぇ」

「そこの冷蔵庫の隣りは? コンセント近そうだし、このテーブルを少し本棚側にずらせば場所的にはちょうど良いんじゃない? あ、でも枕側には近くなるかもしれないかぁ」

「あー、なるほど」

「持って来たろか器は静音タイプなので神経質じゃなければそこまで気にならないとは思いますよ」

「寝転がって顔を横に向けたら水槽が見えるって最高ですよね。決めました。水槽はここの冷蔵庫隣りにします」

「さすが今井氏。的確なアドバイスですなぁ」


 初めて来た人の家で家具の配置に意見を出すのは口うるさい舅みたいだなと一瞬思ったが、小早川さんが気にしてないならまぁ良いか。

 特にこだわりが無ければヒトの意見はわりと素直に受け入れる人なのかもしれない。すれてないというか。そこが彼女の良いところでもある。これが大学生活を送るうちにだんだんと都会のあれそれに染まって来たら嫌だなぁ。


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