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あなたと食べたい学食で〜食べて悩んで味わって、あるのは恋か幻覚か〜  作者: 汐見かわ
7章 夏休み_金魚水槽を運ぶ(眼福、眼福)
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一体何の話か

 牛丼屋を出て小早川さんの家に向かう。

 夏の午後の道はコンクリートから熱が噴き上げてくるようで暑さが身体を包んでいる。もう汗をかいた。

 牛丼屋までは俺が先を歩いていたが、今度は未島が先を歩いている。もしかして、小早川さんの家の場所を知ってるのか?


「そういや、今日は小早川さんの家に直接行く感じですか?」


 未島の背中に声を掛けるが返答がない。

 さっきのことをまだ引きずっているのだろうか。別に何とも思ってないし、もう良いんだけど。めんどくせぇなぁ……。


「あの……」


 神妙な面持ちで急に未島が振り返った。両手が塞がっているのでハンカチで汗を拭き取れず、顔からは大粒の汗が滴っていた。


「どうやら私めは友人とのコミュニケーションの取り方を間違えていたようです。今までの無礼をお許し下さい」


 道路を通る車の走行音であまり良く聞き取れなかったが、どうやらさっきの牛丼屋でのことをまだ引きずっているようだ。


「別にもう何とも思ってないんですけど……」

「実は私めも男女のいざこざに巻き込まれ、悲しい思いをしたことを今になって思い出しまして」


 聞いてもいないのに未島は語り出した。また悲しい思いをしたのか? いろいろ大変だなこの人も。それに別に男女のいざこざには巻き込まれてはいないし、むしろ未島が引っかき回してる感すらあるんだが。


「そう……あれは中学1年生の冬。中学校生活にもようやく慣れ、あとはもう期末試験を迎えるだけという時期でしたな」


 未島は再び前を向き直り、歩きながら言った。


「同じクラスの女子が私めに好意を寄せているんじゃないかとの噂が流れましてな。確か名前は山本さんだったかと……あまり目立たない大人しい女子でした」

「へぇ……」

「中学生なんてのは思春期のかたまりですから。私めが山本さんの近くにいたりすると男子がからかったり、ちょっかいを出したりするわけですね。山本さんに話しかけろよーとか、まぁそんな些細なことですよ。私めが山本さんに接していると周りはにやにやして。その度に山本さんは黙ってうつむくわけです」


 まぁ、これくらいの話は小中学校あるあるというか。俺のクラスでもそんなのはあった気がする。男子も女子も2人とも頭も良くて運動のできる目立ってた子がそういう風にからかわれてたっけかな。出る杭は打たれるというか、小中学校のクラスなんてそんなもん。


「私めは男たるものレディーファーストを徹底せよ、常に紳士たれと親に言われて育ってますから。ハンカチを差し出したり、消しゴムを貸したりとあえて山本さんと接点を持とうとしたのですね。周りも私がそうすることで盛り上がりますし。話題の中心にいる気分になれると言いますか。その時は自分が目立っている気になると言いますか。みんなが自分のことを注目して見てくれている感覚がしたわけです」


 うん? そういや未島は友人と呼べる間柄の人がいないんだったっけ。中学生の頃からそんな感じだったのか。それは何ていうか、ちょっと悲しいというか寂しいな。だから、みんなが自分に注目してることで気分が良かったってことか?

 

「え、それってその女子をだしにして自分を目立たせてるって感じです?」

「もちろん、当時の私めにはそんな思いは微塵もありませんでしたが……いや、あったのかもしれませんね。そう受け取られても仕方がないですな」

「マジすか。性格最悪じゃないですか」


 俺も打算的なところがあるから人のこと言えないけどな。

 真夏の昼に汗をかきながら、俺達は何て会話してるんだろうか。雑談にしては内容が重くないか。


「そんな風に接していましたらある日、山本さんに泣かれてしまいましてな。その時に初めて山本さんは自分の事は実は好きでもなんでもなくて、ただ私めに馴れ馴れしくされて嫌だったんだろうと気付いたわけです。そう、そして私はクラスの人達に遊ばれていたのだと」

 

 うーん……何て言うか、これは未島も相手の女子もいじめに近いことをされていたっぽい過去の悲しみのエピソードだな。しかし、それが俺の恋路と何の関係が?


「自分もクラスの人達にそうやられていたように、今井氏にも同じことをしていたなと今、思いました」

「えーっと? 面白くてからかってたってことです?」

「そうなりますね」


 断言したなこの人。面白がってやってたってことか。こいつ……なかなか良い性格してやがる。まぁ、そうだろうとは思っていたが。というかそれ以外に無いよな。


「今井氏に言われて私めは反省しましたので、これからは全身全霊で応援します!」

「いや結構です」

「そうこうしている間に、小早川女史の家の前に着きましたな。やはり人と会話をしていると目的地まですぐですね」


 この人、さては人の話聞いてないな。

 未島と俺の視線の先にはベージュ色の3階建てのアパートがあった。当然だが俺が一昨日、見たアパートと同じだ。一昨日見た時は暗がりでは良くわからなかったが、ベージュよりもやや明るい色の外壁だった。


「ここの3階です。階段は大変ですがもう少しですぞ」

「未島さんは家に来たことあるんです?」

「はい。美波里女史と一度だけ。何で来たか理由は忘れましたがね」


 なんだ。美魔女と一緒か。この人達、キワモノだけどけっこう仲良いのか。小早川さんも心が広いというか何というか……あまり人のことは気にしない性格なのかもしれない。

 よいしょと一歩一歩ゆっくり階段を上がる未島の後ろをついて行く。

 3階の階段を上がりきったところで未島がふうと息を整えた。

 階段のすぐ横に廊下があり、扉が3つある。1フロアにつき3部屋らしい。

 未島が歩き出したので黙ってついて行く。扉を2つ通り過ぎ、階段から一番奥の扉の前に来て


「すみません今井氏。玄関の呼び鈴を鳴らしてもらえませんか?」


 両手が塞がっている未島の代わりに俺がインターホンのボタンを押した。


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