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あなたと食べたい学食で〜食べて悩んで味わって、あるのは恋か幻覚か〜  作者: 汐見かわ
6章 夏休み_エビ天おにぎり(そういう時ってあるよね)
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彼氏いないでしょ…まさかね


「シフトって1人なの?」


 夜に女子が1人で店を切り盛りするのは物騒だし、大変そうだなと思った。レジを閉めて片付けして戸締まりまでしてからあがるのか。


「パートさんは夕方前には帰っちゃうんですよね。女の子が1人いたんですけど、最近来なくなっちゃって。もう1人夜にいるんですけど、今日はその人は休みです」

「1人は大変じゃない?」

「品数がそんなに多くないのと、夜はあんまりお客さん来ないのでそうでもないですよ」

「そうなんだ」

「こっそり売れ残りのおにぎり貰えるので私は大満足です。夜ご飯に食べれますし。あ、そうだ」


 そう言って小早川さんは鞄からラップに包まれたおにぎりを取り出した。


「エビ天どうぞ。ただ、本当は廃棄するものなのでお腹壊しても責任とれませんけど……」


 おにぎりを受け取ると見た目よりもずっしりと重かった。中から天ぷらの衣に包まれたエビの尻尾が飛び出ている大ぶりのおにぎりだった。野球のボールよりもひとまわり大きい。


「けっこう大きいね」

「あ、あとこれも」


 さらに鞄の中から1枚のシールを取り出した。米の形の顔に甲冑を着ている二頭身のキャラクターだった。もしかして米将軍宗保?


「これがマスコットキャラクターの宗保(むねやす)です。本当に知りませんか? てっきりメジャーなんだと思ってました」

「初めて見た」

「じゃあやっぱりこっちじゃあんまりお店無いんですねぇ……でもおにぎりは美味しいので、家に帰って食べてから感想聞かせて下さいね」

「家に帰ったら22時過ぎるし、ここで今食べるよ」


 おにぎりを包んでいるラップを半分まで外し、エビ天の尻尾が出ている先の方からかぶりついた。

 エビ天と米に甘辛いタレがつき、濃い目の味付けでひとつの料理として食べられそうだと思った。エビの尻尾もしっかりと揚げられているので尻尾もバリバリ食べられた。おにぎりが脇役ではなくて主役。一食分の食事になる。


「確かに美味いね」


 買っていたペットボトルのお茶をひと口飲んだ。


「そうなんですよ! お米もこだわりの一等米を使ってますし、お米は各お店で研いで炊いてるんですよ」


 この米も小早川さんが研いだってことになるのか? そう言えばバイト中、三角巾とエプロンつけてたな。大きいボールか何かに大量の米が入って、それを一生懸命研いでるわけだ。水を入れて米を研いで濁った水を捨てる。けっこうな重労働だろうに。でも似合いそうだし、一生懸命にやってる姿が目に浮かぶ。


「私は遅番なのでお米は研いだことないんですけどね。パートさんでお米研ぎが上手な人がいるらしいんですよね」

「…………」

 

 研いでなかった。あ、そうでしたか……。

 最後のひと口を食べて、ペットボトルのお茶を飲んだ。


「ごちそうさま。確かに美味かった。今度は違うの買ってみよ」

「ぜひぜひ。エビ天と……あとはとびこも美味しいですし、シャケやツナマヨなんかも良く売れます」

「へぇ、そうなんだ」


 さて、おにぎりは食べ終えたしもう用事は無くなった。このまま「さよなら」と帰るのが自然なのだろうか。……いや、それは違うよな。誰だってそうするよな。好きな子が目の前にいるのだし。


「危ないし家の近くまで送って行くよ。家はこっちの方向だったっけ?」


 心臓はどくどくと脈打っていた。背中にも嫌な汗が流れたのがわかった。小早川さんなら彼氏がいたら家の近くまで他の男がついて来ることをきっと断る気がする。彼氏はいない方が良いに決まっているが、そういう人であってほしい。俺のかなり勝手な願いだが。

 家はどの方角にあるのかわからなかったが適当に一歩を踏み出した。


「家はそっちじゃないです。こっちです」

 

 小早川さんのいる方へ振り向いて、彼女の歩きに合わせて横に並び一緒に歩く。夜だがまだ人の姿はちらほらと見掛ける。何となくだけど、小早川さん彼氏いない感じがするな。いや、やっぱりどうだろう。どう切り出そうか……。

 1本道を入るとそこは住宅街でとても静かだった。


「そういえば釣った金魚は元気?」

「元気ですよ。まだ水槽が無くて洋服を入れようと思っていたプラケースに入ってるんです。でも明後日、未島先輩が水槽を譲ってくれるってことになってるんです」

「へぇ、まさか何メールもする水槽じゃないよね」

「20センチくらいって言ってました」


 平静を装ったが、内心穏やかじゃなかった。頭を後ろから殴られた感じ。

 俺の知らないところで未島と小早川さんは約束を取り付けている。いや、それはごく普通のことだし俺がとやかく言う筋合いは無いのだが、少しの焦りと苛立ちを覚えた。けれど、やっぱり小早川さんは彼氏はいないんじゃないか? それとも未島は安全な人認定されているのか? それに水槽を譲るって、まさか駅とかで待ち合わせて水槽を手渡ししてそれではいさよならはきっと無いよな。家に水槽を運んだりするのだろうか。そんなことまで考える自分がみすぼらしいし、醜い生き物になったような気分だ。

 これを「嫉妬」というのだろうか。未島に対しての嫉妬もあるし、彼氏はいないだろうという少しの安堵の気持ち。感情がごちゃごちゃと混ざっていて苦しい。小早川さんが誰とどう過ごそうが勝手なのに、そのことをいちいち気にするのも病気に近い感情な気がする。

 静かな住宅街を2人で歩く。周りには家屋なんだか、小さなビルなのかよくわからない建物が並んでいる。建物の窓からは電気の明かりは見えているが、本当にこの場所に人が住んでるのか疑いたくなるくらいに静かだった。


「あの金魚、1匹は最初からあんまり動いて無かったし、気になってたんだよ。水槽に移ったら見てみたいなぁ」


 考えるよりも先に口から声が出ていた。

 小早川さんと未島が2人で会う約束を阻止したかった。本当のところは金魚にそんなに興味は無い。

 

「明後日、先輩も来ますか?」

「え?」


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