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あなたと食べたい学食で〜食べて悩んで味わって、あるのは恋か幻覚か〜  作者: 汐見かわ
6章 夏休み_エビ天おにぎり(そういう時ってあるよね)
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結局可愛いんだよな


「いや……あの、未島さんにここでバイトしてるって聞いてたからさ。いるかなと思って寄ってみた」


 つい真正直に答えてしまった。パッと出た言葉がそれだった。

 小早川さんは引いただろうか。バイト先まで来られたら普通は怖いと思うよな。

 5秒前に時間を戻せるのなら戻りたい。彼女が店の奥から出てくる前に帰れば良かったかもしれない。

 手のひらに汗をかいているのを感じた。緊張しているらしい。彼女からどんな言葉が発せられるのか怖いようで、きっと人が傷付くようなことは言わないだろうという確信もある。小早川さんはそういう人だ。


「そうだったんですねぇ……けっこうシフトは入れてる方なので来たらだいたいいますよ」


 小早川さんはそう言って朗らかに微笑んだ。

 ほらね、これは迷惑がられてなさそう。悪い感じはしないぞ。

 悪い感じはしないが、本心では迷惑かもしれない。俺は先輩だし、無下にできないから否定的なことを言っていないだけかもしれない。


「おにぎりは売り切れちゃったんです。飲み物しか売ってなくて……」

「……そうなんだ」


 おにぎりは買おうが買えまいが別にどうでも良かった。

 けど、俺は小早川さんのバイト先に来て何がしたかったんだろう。いちおう顔は見れた。その後のことは考えていなかった。次に繋がる会話が出てこない。


「あ、でももうお店終わるんで、10分15分くらい待っててくれたらおにぎり渡せますよ」

「売り切れたんじゃないの? 未島さんが美味しいって言ってたけど」

「午前中の売れ残りがあるんです。本当はダメなんですけど、マネージャーが持って行って良いよって。3つあるので1つ渡しますね。エビ天はお勧めです」

「良いの? ありがとう。ここって実は有名な店? あるの知らなかった」

「え? 知りませんか? 米将軍宗保?」


 小早川さんはひどく驚いた顔をしていた。知らない人がいるのかとでも言いたげた。

 こんなところに店があるのも知らなかったし、他の駅でも見たことはないな。有名な店でも無さそうだし。


「チェーン店じゃないでしょ?」

「チェーン店ですよ。実家の方には駅前には必ずありますし、コマーシャルもテレビですごい流してて。あれ? もしかしてこっちではマイナーなんでしょうか?」

「いや、わからないけど……他のところで見たことはないかな」

「えー……」


 いや、そんなに宗保メジャーなの? 俺が知らないだけなの? 彼女は信じられないと言わんばかりに驚いていた。


「21時過ぎにまたここに来るよ」

「はい。特に何もなければ時間ぴったりに上がれます」


 カウンターの向こうにいる小早川さんに手を振って、とりあえずコンビニに向かうことにした。外は暑いし少しでも涼みたい。


 ……俺はバイト先に来て彼女の顔を見て何がしたかったんだろう。

 小早川さんはバイト先まで来る先輩を内心では嫌だなと思っていたとしても、それを顔に出さないで接してくれるのはわかっていた。俺はそこにつけ込んだ形になるのだろうか。結局、バイト終わりの約束を取り付けてしまったし。

 彼女の優しさにつけ込んだのだろうか。嫌な男だな……俺は。

 

 近くのコンビニで雑誌をめくり、どうでも良い夏のレジャー情報を眺める。海がどうしたとか、プールがどうしたとか、そんなところに縁は無いが、これからもしかするともしかするのかもしれない。

 ……いや、そんな妄想をするのはやめよう。むなしくなるだけだ。デートの約束を取り付けてもいないし、彼女でも何でもない。

 でもいつかは――。

 釣り堀で水槽を見て回ったことを思い出していた。

 熱帯魚を見てはしゃいでいたなぁ。あの時は未島もいたけど、魚を見て感想を言って……楽しかったな。

 水族館なんて良いかもしれない。室内だし、涼しいし、大きな水槽を眺める小早川さんを想像すると何だか照れる。

 いや、待て。何も決まってもいないのに気持ち悪いな。何で行けるかわからないデートを妄想してふわふわしてるんだ。自分にショックを受ける。

 コンビニの菓子やスイーツをひとしきり眺めて、最後にペットボトルのお茶を買って外に出た。

 時間は20時57分。

 米将軍宗保の前に行くと、店はシャッターが降りていた。

 ビルの1階から扉が閉まる音がしてそちらに行くと小早川さんが扉のタッチパネルを手際よく操作していた。ガチャンと鍵の掛かる音がした。施錠が完了したらしい。


「先輩、暑い中ありがとうございます」

「お疲れ。ホントに時間ぴったりだね」


 小早川さんは手に持っていた上着を鞄に入れながら出てきた。


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