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あなたと食べたい学食で〜食べて悩んで味わって、あるのは恋か幻覚か〜  作者: 汐見かわ
6章 夏休み_エビ天おにぎり(そういう時ってあるよね)
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会いたいような会いたくないような


 猛烈にアプローチをしたところで、相手にその気が無ければただのウザい人で終わるだろう。最悪、ストーカー扱いされる可能性もある。彼氏がいたら、きっと好き合っているだろうからただちょっかいをかけてくる気持ちの悪い男認定をされるだろう。

 まず俺はどうしたら良いんだ? アプローチって何だ? 何をするべきだ?

 こんな時にふと思い浮かべるのが杉本との会話だった。あいつは何て言っていたかを思い出せ。


『押して押して押して引く』


 電子タバコを吸う杉本の姿と共に思い出した台詞がこれだった。最悪だ。

 何だそれ、心理学的な話か。テクニック的な。杉本は本当に気持ちが悪いな。最悪。

 とにかく、接点は多く持たないとどうにもならないだろう。彼氏がいるのかどうかもわからないしな。ただ遠くから見ているだけ、想っているだけでは何も起こらない……と、思う。

 ふと顔を上げ、視線を少し遠くに向けると横断歩道の先に地下鉄の駅のマークが見えた。

 前に未島から教わった小早川さんのバイト先は駅前と聞いている。駅前のおにぎり屋だったか。店の名称と詳しい場所は聞いていないが、調べればすぐに検索で出てきそうだ。

 スマホを手に取り地図を見る。

 ひと駅隣りの駅のそばに、総菜屋があるようだ。もしかするとここかもしれない。小早川さんの家があるのって確かここの駅だったし間違いなさそうだ。

 時間は20時30分過ぎ。とりあえず行ってみようか。ここからなら電車ですぐだ。5分もかからないな。

 いなかったらいないで別に良いし、いた時の方が困るかもしれない。ストーカーみたいだもんな。でもほら、小腹が空いてきた気もするし、おにぎりを買って帰ろう。小早川さん目当てではない。

 のそりと立ち上がり、スマホをポケットにしまう。横断歩道を渡った先に駅がある。

 青信号と共に横断歩道を進み、目の前の階段を下りる。階段を下りる足取りがどことなく軽い気がするのは気のせいだ。決して好きな人の顔を見れると思ってウキウキしているわけではない。俺はそんなに単純じゃない……と思いたい。

 階段を下りて改札を通ると遠くから電車がホームに到着した音が聞こえた。小走りにさらに地下へと下りる階段を駆け、人が電車から降りて階段を上る流れに逆らうようにして電車に駆け乗った、と同時に電車の扉が閉まった。


「駆け込み乗車は危険ですので、次の電車をお待ち下さい」


 車内アナウンスが聞こえた。これは明らかに俺に対して言っているな。

 真っ暗な窓の外を眺めながらぼんやりとこの後のことを考えた。

 小早川さんがもしバイト先にいた場合。普通に顔を出して軽く挨拶をしたとしよう。

 教えてもいないバイト先までサークルの人が来たら気持ち悪く思われないか? 普通に考えて怖くないか? でも彼女なら普通に何とも思わなさそうだ。偶然を装おうか、それとも店には行かずにただ姿を遠くから見ているだけにしておくか……。いや、それこそ付きまとい行為をしている俺自身に恐怖を感じてしまう。

 結論がでないうちに駅に電車が到着した。ひと駅3分の速さよ。これだから東京は怖いんだ。便利っちゃあ便利だけど。

 電車から降りて、2つある出口のどちらの改札から出るのがバイト先のおにぎり屋に近いのかスマホを取り出した。

 いつも大学に行く時に利用している改札とは逆の改札の出口近くに『米将軍宗保(むねやす)』という総菜屋がある。たぶん小早川さんのバイト先はこれだと思うけど、宗保(むねやす)って誰だよ。こんな絶望感なネーミングセンスの店に勤めてるって小早川さんは大丈夫なのか? いろいろと気にしないの? 年頃の女子が将軍宗保の元でバイトって……。

 まぁとにかくこの店が小早川さんのバイト先だとして、用事でこの辺りにいたからたまたま小早川さんのバイト先を見つけたと言うのは無理があるような気がする。夏季休講中の大学なんて運動部でもなければ用なんてないもんな。どうしたものか……。

 考えるのも面倒になってきたので、とりあえずバイト先に行ってみることにした。小早川さんはどうせいないだろうし。

 ホームの階段を上り、そのまま改札を出て地上へと出た。

 出口から通りを挟んだ斜め向かいに「米将軍宗保」の看板が出ている。店は電気がついて明るいのでどうやら営業中のようだ。

 車が来ないのを確認してから横断歩道の無い場所を渡り、店の前に行く。と、同時にチャイムが鳴り、客が来た事を店内に知らせた。人感センサーで音が鳴ったらしい。そんな仕組みがあったのか。


「すみませーん、おにぎりは売れちゃって。飲み物しか置いてないんですよー」


 店のずっと奥から声が聞こえた。小早川さんの声だ。やばい。小早川さん、今日シフト入ってたんだ。

 今、ここから立ち去れば来たことがバレない。どうする? 帰るか。いや、帰ろう。大して仲良くもない人がバイト先に来るとか普通に考えて怖いもんな。帰ろう。

 頭の中では帰る気でいるが、足が動かない。心のどこかで帰ることを抗っている俺がいる。ここまで来たんだ。小早川さんに会いたいと思ってるってことなのか?

 背中にじっとりとした汗を感じていると、三角巾を被りエプロンをつけた小早川さんが奥から出てきた。


「あ、今井先輩」


 ヤバい。顔を認識された。何て声を掛けるのが正解なんだ。これじゃストーカーと思われても仕方がない。

 どうしよう。何て声を掛けるんだ。俺。

 

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