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あなたと食べたい学食で〜食べて悩んで味わって、あるのは恋か幻覚か〜  作者: 汐見かわ
6章 夏休み_エビ天おにぎり(そういう時ってあるよね)
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気付いちゃった


 杉本とは夕方から居酒屋でたべっていたが、一緒にいても小早川さんとの仲を詮索されるのと、杉本の内定の愚痴を聞いていても何も無いので飲み会は無理やり終了にした。杉本はまだ飲んでいたかったようだがそんなものは知らん。

 俺が千円多く払う形で就職祝いという体にしておいた。杉本が社会人になったら奢ってもらおう。

 俺達は店の前で別れ、俺は1人で駅まで歩いていた。頭の中がもやもやしているが、夜でもクソ暑い夏の道を歩いても頭はすっきりしない。人通りの喧騒がさらに頭の中をぐるぐる掻き回している感じだ。

 時間はまだ20時過ぎだった。


『あー、俺も(・・)彼女欲しいなぁ……』


 杉本の言葉が反芻する。

 小早川さんと俺は付き合ってもいない。杉本が勘違いをしているのはどうでも良いこととして、俺はどうしたいのだろう。

 人通りが多い道を駅から出てくる人々とは逆方向に歩く。この人達はこれから街に出て飲み歩くのだろう。

 人の流れに逆らって歩くのは細い歩道では思ったようになかなか前に進まない。若い男女の声がすぐ近くで聞こえる。

 もし、今振り返ってそれが小早川さんと知らない男だったとしたらどう思うだろうか。俺はショックを受けるだろう。

 相手が杉本だったら? 杉本と小早川さんが手を繋いだり寄り添って歩く姿を想像すると吐きそうだ。

 未島ならどうだ。驚きと共にやはりショックを受けるだろう。

 やっぱり、これが好きってヤツなのか……。

 小早川さんのことを思うと眠れないとか、ドキドキするとか、そういうことは無い。体の内側から込み上げる熱量みたいなものは感じたことは無い。感じたことは無いが、彼女が他の男と一緒にいるのを想像するのは何となく気分が悪い。

 向けられる笑顔や会話が俺ではなくて、他の人に向けられるのは悲しいし、誕生日やクリスマス、バレンタインデーなんかも一緒に過ごせれば楽しそうだ。まだある。動物園や水族館、映画館に美術館、夏祭りやお洒落なカフェに一緒に行くなんてのも良い。きっと一緒に過ごせれば美味しそうに食事をする姿やいろんな楽しい思い出が作れそうな気がする。

 一緒にいてつまらない時間を過ごすようなそんな想像がひとつも浮かばないなぁ。

 これはやっぱり小早川さんの時間をなるべく自分に向けさせる、彼女の時間を多く共有できるような特別な人でありたいと、俺自身はそう思っているってことだな?


「それってようは彼氏だよな……」


 それはやっぱり恋人同士になりたいってことじゃねぇか。

 はたと歩みを止めた。

 急に立ち止まったものだから、すぐ後ろを歩いていた人も慌てて立ち止まり、怪訝そうに俺の横を通り過ぎて行った。

 いや……何ていうか。意識をすると急に恥ずかしくなってきた。

 歩道の端に寄って、とりあえず落ち着こうとズボンのポケットをまさぐる。

 ポケットの中には何も入っていなかった。

 そりゃそうだ。俺はこの春からずっと禁煙をしているのだから。禁煙のことを忘れるくらいに気が動転していたらしい。

 とりあえず落ち着こう。目の前の自販機で缶コーヒーでも買ってまずは落ち着け。

 自動販売機のボタンを押し、決済画面にスマホをかざす。ガタンと缶コーヒーが取り出し口に落ちて来た。


「カフェオレかよ……」


 出てきたのはコーヒーではなく、生クリームのたっぷり入ったカフェオレだった。間違えて横のカフェオレのボタンを押してしまっていたようだ。

 仕方がないのでタブを持ち上げカフェオレをひと口飲んだ。

 ほろ苦い、けれどもほとんどがクリームの甘ったるいカフェオレの味が口の中で氾濫を起こしている。

 ここでタバコを吸えばかなり気持ちも落ち着くのにな。頭も冴えるだろう。だが、俺は禁煙をしている。今後、タバコを吸う事は金輪際無くなるような気がするな。別に好きで吸っていたわけじゃないし、何となくのノリで吸い始めただけだし。


 で、これから俺はどうすんだ。


 自分の気持ちはわかった。次は行動に移すってことだろう。行動に移すってことは……。

 もうひと口カフェオレを飲んだ。一気に飲んでしまったらしくカフェオレはもう無くなった。


 告白するってことか?


 え……それ必要? 告白って何をするんだ? 何を言うんだ? 好きですとか言うの? おい、嘘だろ。そんな小っ恥ずかしい台詞言わなきゃいけないのか。

 耳が熱くなってきた気がする。

 季節が夏だから、耳が熱いのは暑さのせいだろう。そうだろう、夏だから。

 もう一度、カフェオレの缶に口をつけてくいと持ち上げる。

 ……何も出てこなかった。

 カフェオレはさっき全部飲み終えていたんだった。自販機の横にある缶専用のゴミ箱に空き缶を捨てた。

 告白ってヤツは心理的ハードルが高過ぎるな。動悸がしそうだ。世の中の恋人達はこんなハードルを乗り越えているのか? あ、いや、待てよ。相手から告白される側の人間にとってはそうでもないのか。

 小早川さんに俺を好きになってもらうってのはどうだ? これなら……。

 いや、無理だ。どうしようもない理由で留年をしていることを彼女は知っている。

 それに前に「下方の2割の人間」認定をされたんだ俺は。マイナスからのスタートになるわけだ。恋愛対象としてはなりにくい気がする。だが、そのマイナスを覆えすほどの好みの顔を俺がしていたとしたら……イケメンであればあるいは……。

 自販機に薄らと映る自分の顔を見て、杉本の顔を何となく思い浮かべた。認めたくはないが杉本に比べて容姿は劣っている気がする。いや、俺の方が誠実そうに見えなくも無い。留年はしてるけど。

 ……今のところ小早川さんの方から自然と俺を好きになる要素は何ひとつ無さそうだ。そんなに接点も無いしな。

 やはり俺の方からアプローチをしなければどうにもならなさそうだ。


「マジか……」

 

 それと、大事なことを忘れている。小早川さんは既に彼氏がいるのかどうかだ。もし、いたとしたら俺はすんなり諦めることができるのかってことだ。でも、本当に好きなら諦める必要は無いんじゃ? 彼氏がいたらそいつから略奪するというさらにハードなことを成し遂げる必要がある。


「マジか……」


 自販機横にしゃがみ込み、頭を抱えた。

 

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