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あなたと食べたい学食で〜食べて悩んで味わって、あるのは恋か幻覚か〜  作者: 汐見かわ
5章 城山大学_鶏唐プレート(夏と言ったらこれだよこれ!)
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まずはいるのかいないのか


「ごちそうさまでした」


 仰々しく両手を合わせて小早川さんが食事を終えた。俺と未島は既に食べ終わっていた。


「では……これを」


 未島はメモをテーブルの上にすっと滑らせ、小早川さんの方に置いた。料理の評価をしたメモか。この人、いつの間に書いたんだ。

 小早川さんと未島が俺の方を見つめている。これは「評価を書いたメモはどうした?」と言っている顔だ。


「すみません……まだメモは書いてない……です。というか書く物を持って来てません。財布しか持って来てない……」

「私ので良ければ使って下さい」


 小早川さんがメモ用紙を1枚ピリと破いてくれた。筆記用具も貸してくれた。メモ用紙は淡いピンク色のシンプルなもので、筆記用具は無地の紺色の小さい物だった。あまり主張し過ぎない物を持っている辺りが小早川さんらしい気もする。


「私、お手洗いに行ってきますのでゆっくり書いて下さいね」


 椅子をひいて立ち上がり、ついでに食べ終えたトレーを持って食堂の奥へと行った。

 その場には俺と未島が残された。


「これって、あまりにも他の人と評価が違うと何か変に思われません?」

「そんなことはありませんな。感じ方は自由ですから。美波里女史と私めでは180度評価が違う事もしばしばありますよ」


 美魔女ね……あの人、苛烈そうだもんな。好き嫌いもはっきりしてそうだし。いつか美魔女とも他の大学の学食に行く事があるのだろうか。だとしたら勘弁して欲しい。あの人は服装が痴女そのものだ。一緒にいたくないし、いつか捕まると思う。まぁその時はその時で全力で無関係を装うしかない。

 そんなことよりもメニューの評価をしなければ。

 

「名前……うーん、普通かな? あとは……味? 美味かったな。あとは何でしたっけ?」


 未島はいつの間にか扇子を手に取り仰いでいた。コップに入っている水をひと口飲み、そしてトレーの上に置いた。


「ひとつ、お聞きしたい事があるのですが。よろしいですかな?」

「はい? 何です?」

「今井氏は小早川女史に恋煩い中なのですかな?」

「はぁぁぁぁぁぁ!!!!??」


 思わず大きな声が出てしまったと同時に勢い良く立ち上がったので椅子が音を立てて倒れた。周りの人達から視線を向けられたのに気が付き、静かに椅子を戻して座った。


「いや、どどどどうしてそう思うんです?」


 未島に聞いてみたが、気が動転して声が変にどもってしまった。


「いえね、見ていて何となくですがね。娘を見る父親の目と言いますか、今井氏が小早川女史を見つめる表情で何となく……」


 娘を見る父親の目ってどんなだよ。小早川さんとはそんなに年離れてねぇし! 父性なんて出してねぇわ!

 ……え、いや、もしかして父性出ちゃってたの? 俺、大丈夫なのか? ほぼ同年代の女子を相手に父性出るとかちょっと……いや、かなり気持ち悪くないか? これはけっこうショッキングなことを面と向かって言われたのでは?


「しかしまぁ、その様子からして図星のようですな」


 扇子で口元を隠しながら言う未島が悪代官に見えてしょうがない。


「学食研究会では特に部員同士の恋愛は禁止しておりませんからね。いや、実にアオハルですなぁ……」


 ひゅひゅとおかしな笑い方で楽しそうにしている未島にイラッとした。扇子をあおぐ度にヤツの前髪がさらさらと揺れるのも腹が立つ。


「ちょっと待って下さいよ。誰もそんな事言ってませんし。小早川さんに失礼でしょ」

「失礼とはどういう意味です? 好いた惚れたに失礼も何もないですよ。それとも好きではないという意味ですかな」

「う……それは……」


 好きではない……というのは嘘になる。いや、嘘になるのか? 

 彼女のことは可愛いなぁとは思っているし、2人で出掛けられたらよいなとは思っている。つまりこれは好きの前の段階か? 興味があるということか? そもそも好きって何だ? 恋愛ってどうやるんだっけ?


「私めが小早川女史について知っている情報をお教えしましょう」


 パタンと扇子を閉じて口に手を当てた。

 悪代官が腹心の部下(悪者)にひそひそと小声で話す感じだ。


「小早川女史は駅前のおにぎり屋でアルバイトをしているようですな。見かけたことがあります。というかそこでおにぎりを彼女から買いました。すじこと肉そぼろです。炊いた米がほろりとしていてなかなかに美味でしたなぁ」

「何スか。その情報……」


 情報をよこすにしても、もっとこうあるでしょうよ。有益なやつが。ほとんど買ったおにぎりが美味しいって情報じゃねえか。


「ちょっと未島さん。そうじゃなくて、例えば彼氏がいるのか……とか、あるでしょ」

「…………」


 無言の未島は再び扇子を開げてあおぎだした。そして椅子の背もたれに背中を預けた。椅子はギシと少し重たさそうな音を鳴らす。

 と、思ったら小早川さんがこちらに近付いて来るのが見えた。


「ほら、今井氏。ちゃんと評価を書いて下され。この後に小早川女史がまとめてサイトにあげるので」

「あ、はい……」


 俺は慌ててメモに鶏唐プレートの評価を書いた。先ほどの未島とのやり取りでほとんど味は思い出せなかったが、とりあえず思い付くままに書いた。


「すみません、お待たせしました。そろそろ混んでくる時間ですし、行きましょう」

「もうそんな時間ですかな」


 辺りを見渡すと食事の受け取りカウンター前には行列ができていた。

 書いたメモは小早川さんに渡し、食べた食器を片付けてその場を後にした。

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