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あなたと食べたい学食で〜食べて悩んで味わって、あるのは恋か幻覚か〜  作者: 汐見かわ
5章 城山大学_鶏唐プレート(夏と言ったらこれだよこれ!)
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やっぱり天使なの?

 未島と友情を深めながら歩き、勢いついでに未島と連絡先を交換した。俺の就活はこれで盤石になったと言っても過言ではない。

 いつの間にか駅から見えていた大学のタワー入り口に着いた。グレーを基調とした色合いで、何よりも建物が高層ビルだった。何階建てだろうか。周りにここまで高さのある建物が無いのでとても存在感がある。

 

「30階建てですな。富士山はもとより天気の良い日は房総半島の山も見えるとか」

「会社みたいですね……」


 小早川さんはタワーを見上げて言った。

 確かにオフィスの入る高層ビル群の中にこの建物があってもおかしくはない。

 

「今日行く学食はこちらのタワーではないです。さ、参りますぞ」


 未島は先に歩き出した。

 まだ歩くのか……。暑いし汗もかいたし早く建物内に入りたかった。

 今日行く学食は高層ビルの隣りの建物の方にあるらしい。高層ビルの横を通り、しばらく歩くとガラス張りで低層の建物が見えてきた。白くスタイリッシュな外観だった。

 未島は特に立ち止まる事もなく、そのままここの大学の学生かのように建物内に普通に入って行った。俺と小早川さんも後に続く。

 自動ドアが開くと中から冷たい風が吹きつけ心地良い。


「あー、冷たい。涼しいですねぇ」


 小早川さんは手でパタパタと顔を仰ぎ、未島はそのままエレベーターで先を行っていた。

 俺は学生でもない他大学の建物の中に入るのにはまだ少し抵抗があって、他大学の部外者だとバレやしないかと緊張するのだが、未島や小早川さんはそんな素振りは一切無いもんな。未島なんてまるで勝手知ってる風だもんな。エレベーターに乗りながらハンカチで汗をふいている様が、この大学の准教授か何かに見えなくもない。


「さて、着きましたぞ。ここの名物は鶏唐プレート。私めは大盛りにしましょう」


 エレベーターを降りた先に学食があった。

 すぐ側のショーケースの中にはメニューの見本がずらりと並んでいる。

 ここの食堂が最近できた物なのか、メニューも今風で食品サンプルも色褪せている部分がなく、床も壁も真新しい感じがする。

 ショーケース横の券売機で食券で買い、そのままカウンターに並んだ。


「すごい! 広いですね。綺麗ですし」

「景色もめちゃくちゃ良いね」


 ガラスの向こう側には外濠が見え、濠の水のエメラルドグリーンとその上に見えるビルが立ち並び、過去と現在の景色が不思議と混ざっている。

 そして大きい窓ガラスからは光が差し込み、食堂内を明るく照らしていた。

 明るく広くて綺麗。お洒落なレストランのような雰囲気だ。


「鶏唐プレートの唐揚げは日替わりで上にかけるソースが変わるのですよ。せっかくですから景色の良い席に行きましょうかね」


 食堂のおばちゃんからプレートを受け取った未島はガラス側の外濠がよく見える場所に移動をした。

 続いて小早川さんと俺も未島が座る席まで移動をする。まだ昼の時間にしては早いので席は充分に空いていた。


「わぁ……お濠がよく見えます。すごくゆったりできる食堂ですよね。明るいし綺麗だし、良いなぁ」


 小早川さんはえらく気に入ったらしく、さっきからべた褒めしている。


「今日は暑くて無理だけど、外のテラス席で食べるのも良さそうだよね」

「ホントですね。気持ち良さそう」


 ガラスの外側にはテラス席が何席かあり、外濠の景色を一望できるようだった。


「外濠に沿って桜が植えられているので、桜の咲く季節だと花見ができます。その時期になると外部の方も多く食堂に来るという話ですな」


 先に席に座っている未島はコップの中の水を飲みながら言った。いろんな事を本当に良く知ってるな。


「さて、皆さん揃いましたし、さっそく実食と参りましょうぞ」

「はい」


 小早川さんは居住まいを正し、仰々しく手を合わせた。俺も箸を持ちながら両手を合わせた。


『いただきます』


 鶏唐プレートはひとつの皿の上に、唐揚げ・白米・サラダが乗っている。俺と未島は大盛りにしたので唐揚げが増量されているが、普通の物を頼んでも大きめな唐揚げが4つ皿に乗っている。


「今日のソースはごま甘辛ダレのようですな。ごまの香りが香ばしい」

「唐揚げも大きくてかなりボリュームがありますね。サラダは大根ときゅうりのサラダですね。あっさりと食べられそうです」


 未島と小早川さんは料理評論家のように食べる前に感想を言い合っていた。俺は既に唐揚げをひとつ食べている。うん、さくさくでうまい。未島と小早川さんが同時に唐揚げを口に運んだ。


「……!?」

「……ほほぅ」


 小早川さんはほっぺに手を当てて、目をつむった。ゆっくりと口を動かし、唐揚げを味わっている。

 未島も目を閉じ、そして穏やかな笑顔でやたらと頷いている。


「美味しい……」

「これは……実に美味ですなぁ」


 小早川さんの頭上から光と共に弓矢を持った天使が舞い降りた。

 え、前にもこの光景見たことがあるような?

 天使は弓を引き、ハートのついた弓矢を放った。弓矢は未島の額に命中した……かのように思えたが、いつの間にか未島と思っていた人は大仏になっていた。

 天使は弓矢を次々と放っているが未島もとい大仏には全く効いていなかった。次々と弾かれている。弾かれたハートの弓矢は俺の脚や腕にぺちぺちと当たっている。ちょっと痛い。

 何これ? 何を見せられているわけ?

 黙々と鶏唐プレートを食べている大仏と、大仏に弓矢を放っている天使。もうわけがわからん。ていうか、どうしたんだ俺は? 2人はどこへ?

 ハッとして辺りを見渡すと、小早川さんと未島は俺の目の前にいて、美味しそうに食事をしていた。


「唐揚げが揚げたてでサクサクしてます。そこにごまの風味とぷちぷち感と……甘辛たれがマッチしていてとても美味しいです。食感も楽しめますね」

「甘辛だれが唐揚げにかかっているのはたまにありますが、そこにごまの風味。ふーむ……研究されてますな。唐揚げという言わば王道をさらなる高みにもう一段持って行っていますな。お見事」


 さっきの出来事が意味がわからな過ぎて俺は何にも言えなかった。

 しかし、今、にっこにこで目の前の鶏唐プレートをべた褒めしながら食べている二人の姿は実に良い表情をしていた。幸せそうだった。本気で楽しそうだ。

 俺は元々、大学の学食は騒がしいし、落ち着いて食べられない感じがしてあまり好きでは無かった。こんな風に食堂で過ごせるのは幸せなことだなぁ。

 二人の姿を眺めながら俺も何だか気持ちが温かくなった。

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