誰と?
結局、3,500円を支払った最上階の展望室では、景色は何も見えなかった。時間いっぱいまで雨は止まず、景色はずっと雲がかって白いままだった。
絶望していた小早川さんは景色は諦めたのか、その後は大学の事や、他のサークルの珍獣達の話をして展望室にいられる残り時間は2人で和やかに過ごした。
展望室に行く前と行く後では、お互いがずいぶんとざっくばらんに話しができるようになった……気がする。いや、願望かもしれない。いやでも、本当に仲が深まった気がする。そうであってほしい! 切実に!
下の展望室に戻った時、雨は止んでいた。「タイミングが悪かったですね」と小早川さんは笑っていたが、俺が東京を襲う怪獣か何かだったら、真っ先に東京タワーをへし折っていたところだ。何てことをしてくれたんだ、天気。クソくらえだ雨。
「神社がありますね」
「……そうだね。あるね」
展望室で立派に祀られている祠を小早川さんが見つけた。賽銭箱も置かれ、完全に何かが祀られているようだった。観光地によくあるような「恋愛⭐︎成就」やご当地キャラの横断幕が掲げられている少し気恥ずかしい雰囲気のものではなく、ごくごく普通の神社だった。
「ちょっと、私、天気には恵まれて無いかもしれないのでお参りして来て良いですか?」
「俺もお参りしとく」
もちろん、俺の願いはあわよくば小早川さんとの仲を進展させることと、後期に無事に単位をとること、そして就活を始めたらすぐに大企業から内定をもらうこと、あとは心身共に健康でいること、そしてやっぱり死ぬまで金に困らない生活をすること、ストレス耐性も欲しい。あ、思い出したが、さっき大学で俺にいちゃもんをつけてきた慶永生への天罰を与えること、でもやっぱり忘れては困るのは全てにおいての全方位の厄除け……まぁ、それくらいだ。
2人で横に並び、賽銭(俺は5円)を投げ入れお参りを終えた。
「小早川さんは何てお参りしたの?」
「部員が増えますようにってお願いしました」
さも当然のように、小早川さんはさらっと言った。
そう……だよな。俺が4年生になったら小早川さんは1人で活動しなきゃならないもんな。4年生は就活があって忙しいからな……。
そうか……いや、当たり前と言えば当たり前だが、人が増えるのは複雑だ。こうして出かけるって時に、小早川さんと2人きりでいられなくなるということか。
「今日はこんなところまで付き合ってくれてありがとうございました。そろそろ出ませんか」
「そう……だね」
全然なのだが。
全然、まだまだ時間は無尽蔵にある。今日、バイト休みますってバイト先には事前に連絡してたし。
何ならお土産を買わなくてもショップに行ったりして、あれが可愛いだのこれが可愛いだのキャッキャして、記念にお揃いのキーホルダー買っても良い。そして公園を散歩したりして、夜まで一緒でも構わない。
構わなかったが、小早川さんから出ようと言われたら従うしかないだろう。無理強いは紳士の行動に反する。
そして来る時に乗って来たエレベーターに再び乗り、俺と小早川さんは東京タワーを出た。
外に出ると雨はすっかり止み、地面は濡れていたが傘をさす必要は無かった。時間は16時前だった。まだまだ俺には時間がある。
「本当に今日はありがとうございました。楽しかったです」
「こちらこそ」
「またどこかに行こう、サークル関係無しに」と言いたいような気もしたが、そこはやめておいた。というか、そんな人を誘う台詞はほいほい出てくるような俺ではない。陽キャじゃあるまいし。
まぁ、1番最初のデートってヤツはきっとこんなもんだろう。今日のところは満足だ。ただひとつ、雨が降っていたことだけを除けば……だが。
「あの……」
「ん、なに?」
小早川さんは一瞬、何か言いたそうだった。言いたそうだったが、すぐに顔を伏せた。
「……本当に今日はありがとうございました。また、活動がある時に連絡します」
「あ、はい。わかった」
俺も小早川さんもその場からすぐに立ち去ることができずにその場所に佇んでいた。俺も小早川さんに何か伝えたい気もするし、彼女も何かを俺に言いたさそうにしている気もする。
「あ「あの……」」
お互いの「あの」が重なってしまった。
「えーっと、小早川さん、先にどうぞ」
「いえ、私は……今井先輩どうぞ」
お互いに遠慮し合って、会計をするしないでレジ前でグダグダするサラリーマンみたいになってしまった。
ここは意を決して俺から先に伝えよう。
「いや、その。まだ夕方にもなってないし。俺は時間あるからその……小早川さんの都合が合えばだけど、この後、どっかに寄らない? さっき言ってた増上寺はすぐそこだし」
意を決して誘ってみた。
「あの……いえ、私、この後にちょっと人と会う約束をしてて。ごめんなさい」
え……。
頭を殴られたような衝撃だった。「人と会う約束をしてて」だと……?
「今日は本当にありがとうございました。あの、じゃあ私はここで」
小早川さんは頭を下げて、その場から去って行った。小さくなって行く彼女の背中をただ見つめるしかなかった。
【慶安大学内秀峰食堂 カレー】
名称、2.5
値段、4
味、3
見た目、3
ボリューム、3.5
大輔的所感▶︎慶永生はいけすかない。俺達の方が上。東京タワーはやっぱり良かったが天気が残念。がっかりしてたよなぁ
※あとがき※
ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
二人の思い出になったのでしょうか。
次回はタワーキャンパスの大学に行きます。
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