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そこまで?

 東京タワーへの道のりをスマホで確認しながら現地に到着した。下から塔脚を見上げていた時はそれはもう目を輝かせていた彼女だが、チケットカウンターで料金を確認すると小早川さんの顔は強張った……ように見える。


「まさか……3,000円以上もするなんて」


 まぁ、そこそこ高いよな。俺もそう思う。けど、どこか行って遊ぶってなるとこれくらい、いや、もっと普通にかかるよな。


「ど、どうしましょう。先輩」

「そうだなぁ……じゃあ1,500円の方にしとく?」


 3,500円のチケットは一番上の250メートルの展望室まで行けて、1,500円のチケットはその下、タワーの真ん中の150メートルの展望室までいけるという料金形態のようだ。高さは100メートルの違いがあるが景色はそんなに違うものなのか? 俺は別にどっちでも良い。


「でも、せっかく来たからにはここはちゃんと一番上まで行きたい気もします。いや、行きたいです。てっぺんまで。高いですけど……次にいつ来れるかわからないですし、やっぱり東京と言ったら東京タワーは外せないというか……シンボルと言いますか……」

 

 消え入るようなか細い声で最後の方は良く聞き取れなかった。彼女の顔面は蒼白だ。

 いや、そんなに無理して払うならやめといた方が良いのでは? 心配になる。それかまた別の機会にするとか……。いや、それは俺が困る。今日、この日に東京タワーに2人で行けるのなら行きたい。このチャンスを逃せば今後デートをする機会は来ない気がする。


「小早川さん、初めてでしょ? 払おうか? 一応先輩だし」

「いけませんそれは! それはダメです!」


 即答で拒否された。


「私にここまで来るのに付き合ってもらってるのに、そこまでして貰ったら先輩の家のある方角に足を向けて寝られません!」


 デートだったらまぁ俺が払うのでもアリかなと思ったが、小早川さんは俺にチケット代をおごってもらうつもりはさらさら無いらしい。彼女らしいと言えば彼女らしいが……。


「次に来れる機会がないかもしれないので、やっぱりここは大奮発して3,500円の方にします!」


 声は上ずっていた。かなり無理をしているようだ。

 小早川さんの意思を尊重して一番高い展望室まで行ける3,500円のチケットをそれぞれ購入した。


 まずはタワー中央にある展望室に行き、そこから一番上の展望室に行くようだ。

 展望室へ行くエレベーターの扉は赤色で、天井についている照明と相まって、劇場の扉のようだった。

 俺はたぶん家族に連れられて東京タワーには一度だけ来た事があるんだよな。小さかったからあまり記憶には残っていないけど。その時の記憶よりも、今の方が煌びやかでお洒落になっている気がする。いつの間にかリニューアルしていたんだな。

 初デートにピッタリなんじゃないか?

 隣りにいる小早川さんを見ると、高額チケットの支払いで先ほどまで強張っていた表情はすっかり落ち着き、天井の照明を眺めていた。

 エレベーターの扉が開き、中にいるエレベーターガールの案内でエレベーターに乗り込む。

 真っ先に目に入ったのは天井にある宇宙船のような照明だ。壁も床も黒く、天井にある照明だけが不規則的にぼんやりと光っておりエレベーター内は非日常的な空間になっている。音楽も流れ、観光地に来たっていう気になる。楽しいぞ、これ。

 エレベーターが上昇すると共に、体が浮くような感覚になった。ここから一気に150メートルまで行くんだな。

 エレベーター内は俺達以外に観光客が1組。全員が特に言葉を発しなかった。

 エレベーターガールが何かエレベーターの構造的な事を言っていたがほとんど聞いていなかった。上昇していた速度がゆっくりになり、そして止まった。あっという間だ。


「地上150メートル。メインデッキに到着でございます」


 エレベーターが開き、視界が明るくなった。


「わぁ……広い」


 小早川さんは俺を追い越し、1人でガラスのところまで足早に行った。小早川さんにとって、ここは来てみたかった場所だもんな。そりゃはしゃぐよな。


「こんなに東京って建物が密集してるんですね。すごい。やっぱり大都会ですね」


 俺が側に行くと小早川さんはガラスの向こうをじっと眺めながら言った。


「あのお寺は……」


 東京タワーのすぐ下に木々に囲まれた大きな寺が見える。

 

「増上寺だね。徳川の菩提寺だよ」

「あ、徳川家の。こんな都会にあるんだ……東京タワーのすぐ下」

「家康が東照宮で他の将軍の墓があるんじゃなかったかな。確か。俺も詳しくないけど」

「江戸ですもんね……墓のすぐ近くにこんなタワーが建つなんて家康もビックリですよね」

「江戸の町に後々こんなに高層ビルが建つって想像もしてなかっただろうなぁ……後で増上寺にも行ってみる?」

「…………」


 そこは無言になった。小早川さんは増上寺には俺と行く気は無いらしい。言うんじゃなかった。傷付いた。この後、どんな会話をすりゃあ良いんだ。気まずい。

 ふと、ガラスにポツリと何かがあたった。


「雨?」


 増上寺よりももっと先、東京湾方面の空に黒い雲が立ち込めていた。


「今日、雨の予報なんて出てなかったのに」

「通り雨じゃない? この時期には珍しいけど」


 雨の間隔は次第に短くてなってきた。ガラス面にポツリポツリと水が当たる。


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