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東京タワー見るの初めて?

 飲食店の並ぶ商店街を出て、車が多く行き交う大通りに出た。通りの向かいに目的の大学の建物が見えている。


「あ! 見て下さい! 東京タワーが見えます!」


 さっきまで細い飲食店の並ぶ通りを物珍しそうに見ながら静かに歩いていた小早川さんは急に張りのある声を出した。

 右側を見ると通りの先に東京タワーがそびえ立っている。彼女は東京タワーを見るのは初めてなのか?

 

「すごい、都会って感じしますね。東京タワーかっこ良いですね。赤いし綺麗……」

 

 周りの建物とは明らからに形も色も違うし、目立っているもんな。彼女は地方出身って言ってたっけか。地方の人にしてみれば東京タワーはやっぱり東京のシンボルって感じに見えるのだろうか。

 横断歩道の信号が青に変わり、俺達は道路を渡った。

 

「確か入口はあっちとこっちにあるはずだけど……こっちから行ってみるか」


 ほとんどの学生らしき人達は横断歩道を渡った後はそのまま真っ直ぐ直進をしていたが、俺達は東京タワーの見える右手側の通り沿いに進んだ。こちら側にも確か大学への入口があったはず。小早川さんは東京タワーが気に入ってるみたいだし、通り沿いに進んだ方から入ってみるか。そこから学内に入れるのかはわからないが。


「こんなに景色の良い広い通りがあって、ごちゃごちゃもしてないですし、飲食店もあるしで……良いなぁ」

「あーまぁね。うちんとこは確かに駅からの通りも狭くて前をゆっくり歩かれると少しイラっとするもんなぁ」

「人がすれ違うくらいの道幅しかないですもんね」

「駅前では時々酔っ払ってるヤツが騒いでるし。何か品性が足りて無いんだよな」


 東京タワーを視界に入れつつ、自分たちの大学の悪口を言いながらしばらく歩いていると、ビルとビルの間にたいそう立派な建物が見えた。ビルではない。レンガと石で造られた門だ。真ん中がぽっかりと開いており、人が出入りしている。思った通りここの門から大学内に入れるらしい。


「あ、綺麗。ここで写真とっても良いですか?」

「どうぞ」


 白い石で造られているアーチ状の門は赤いレンガと高さのあるガラス窓で囲われ、建物としては10階建てのビルくらいの高さがある。門の両隣りはオフィスビルで、門のあるその場所だけが大学が開かれた時から時間が経っていないような不思議な風格があった。

 大学のパンフレットでよく見かけていたのはここの門だったのか。確かに気品と風格と、慶永(けいえい)大学の揺るがない気高さが垣間見えた気がした。カッコ良いよなぁ。


「あそこにあるのは校章ですかねぇ」


 小早川さんが指をさすアーチ状の門のちょうど真ん中には慶永大学の重要なシンボルマークである羽ペンが2本クロスしているデザインの校章が大きく飾られていた。そしてそのさらに両隣りにも薄っすらと校章が描かれていた。よくよく見ると、建物の一番上側の窓枠の上にも小さく校章がある。さらに窓枠の下にもいたるところに校章がある。ていうか、窓枠の上下左右はぐるりと校章で囲われている。

 

「……これでもかってくらいに自分達を主張してるよなぁ……自己主張強過ぎないか?」

「気概というか……凄いですね」


 名前は忘れたが、確か「何とか会」とかっていうOB・OGの社会人の集まりみたいなのがあるもんな。卒業してからも関係が続くってどうなんだ。でもそれがあるから就職が有利だとか、政界や経済界も動かしているとか何かとまことしやかに言われているもんな。実際どうなんだろう。秘密結社みたいだよな。

 やっぱり慶永に受かっているべきだったのか……。

 スマホで門の写真を撮っていた小早川さんはひとしきり撮影をし終えたのか、後ろに立っている俺の方に振り向き、


「すみません。お待たせしました。行きましょう」


 門に数段ある階段を上り奥へと進んだ。門は表から見るよりも奥行きがあった。

 すると、先を歩いていた小早川さんが門を出たところで足を止めた。


「あの……ここまで来て何ですけど、勝手に入っても大丈夫でしょうか……部外者ってバレたり……」


 今、それを言う!? 調べてから来てるんじゃないの?


「今日、初めて他の大学に来たのでちょっと心配になって。美波里先輩に聞いたら全然大丈夫って言ってたんですけど……」


 あの露出狂の美魔女が言うなら本当に本気で大丈夫なんだと思う。何ら心配はないだろう。それよりもあの格好で未島と2人で他の大学の学食に行ってたのか。正気か? あの2人が大学の警備員に捕まっていないのなら、俺と小早川さんこそどこからどう見ても健全な学生そのものだろう。


「教室とかに入らなければ大丈夫だと思う。美魔……あの4年生達が平気って言ってるなら平気だと思うよ」

「そう……ですよね。すみません。敵地に入るっていうか、アウェーな感じがしちゃって」

「おどおどしてた方が逆に怪しまれるかもしれないし。学食で食べるだけだし、何も講義に出るわけじゃないしさ。へーきだよ、へーき」

「そうですよね。食べたら帰るだけですし。悪さするわけじゃないですし」

「そうだよ。ほら、学食どこだっけ。混むから早く行こう」

「はい! えっと……学食は」


 尻込みしていた小早川さんを励まして、門から真っ直ぐ伸びている道を道なりに進む事にした。


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