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あなたと食べたい学食で〜食べて悩んで味わって、あるのは恋か幻覚か〜  作者: 汐見かわ
3章 未島宅_パーティープレート(悪意があるのかお前は!)
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どう思っただろう

 目が覚めると俺は未島の家のソファーを見下ろしていた。ソファーでは小早川さんが横になって寝ており、俺の座る場所が無かった。仕方がないのでソファーの側に腰を下ろし、ソファーの方を振り返ると小早川さんの顔が俺の顔の近くにあった。目をつむっている小早川さんのまつ毛は長く、鼻筋は通り、唇はリップをつけているのかほんのりと色がついている。彼女の息づかいが聞こえてくるようだった。酒は飲んでいない彼女だが、こうしてまじまじと眺めていても起きないだろうという気がしていた。

 俺を気づかって唐揚げとか取り分けてくれたんだよな。コロッケも取ってくれたっけ。飲み物も注いでくれたよな。あれは何だったか。変な名前の日本酒だっけか。名前は確か――。


『鬼の地声』


 小早川さんはいつの間にか起きており、右手には「鬼の地声」左手には「毒蝮女」の一升瓶を持ち、俺の頭上から酒をかけた。


「ちょ! 何だ!? やめて……」


 目を開けると小早川さんではなく、目の前には一升瓶を両手に持った美魔女が高笑いをしていた。


「やめて……やめてくれっ!」

 

 バシャバシャと何かに当たる水の音で目が覚めた。

 黒く無機質な鉄製の板が見える。天井だ。

 ゆっくり起き上がり、辺りを見ると壁に寄り掛かってぐったりとしている未島と、側で寝息を立てている美魔女がいた。さっきのは夢か……。

 そうだった。歓迎会で未島の家というか部屋に来ていたのだった。そして美魔女に「私の酒が飲めないのか」と酒ハラをされそうになるのをかわしつつ、俺も缶ビールを飲みまくって寝てしまったのだ。気付けば未島も美魔女もダウンして寝ている。今さっき見た夢の内容が強烈過ぎて思い出せないが、会自体は楽しかった……と思う。


「おい! いまりたいすけ、あっしはねぇ!」


 突然美魔女が大声を上げた。何で俺の名前を呼んだんだ。目はつぶったままなので寝ぼけているのだろう。

 

 あれ、小早川さんはどこだ?

 テーブルの近くには美魔女と未島しか見あたらない。

 美魔女は腹を丸出しで下腹部には下着なのか何なのかよくわからない面積の狭い布が見えていた。映像で見る以外に裸の女体を見る事は無いが、裸とまではいかないが美魔女の姿がいろいろとオープン過ぎて有り難みも何もあったもんじゃ無い。逆に怖い。

 俺達のいる部屋から奥の方の台所を見ると、小早川さんがシンクで皿を洗っていた。

 え、もしかして片付けとかしてくれちゃってる?

 テーブルの上は食い散らかした皿や缶や一升瓶は綺麗に片付けられていた。

 この場合、小早川さんを手伝った方が良いのだろうか……しかし、動くのが面倒な気もする。体が重い。飲み過ぎたのかもしれない。

 きゅっと蛇口が締められる音がして、辺りを見渡した小早川さんは手近なところにタオルを見つけて手を拭いた。ひと通りの片付けが終わったのだろうか。


「……小早川女史。そこは……気に……せず。いや、かたじけな……い」


 顔を上げずに未島は消え入るような声でぶつくさ言っていた。小早川さんは台所から戻って来ると、膝をつき未島の顔を覗き込んだ。


「私、そろそろ帰ります。先輩、ありがとうございました。片付けはとりあえずしときましたけど、わからないので食器もゴミも台所に置いたままです」

「…………」

「先輩達、大丈夫でしょうか?」


 何の反応もしない未島に小早川さんは困ったように俺に振り返った。


「あ、うん。酔っ払いってこんな感──って痛え!」


 急に脇腹に蹴りを食らった。側で倒れていた美魔女の足だった。


「あんた……茉依を送るのよ。バカね」

「はい?」


 再び足が脇腹を小突いた。


「茉依が帰るって言ってんのよ。送って行きなさい。今井大輔!」




・・・




 夜風は冷たく、酔いはすっかり覚めてしまった。今は何時だろう。21時台の電車に乗ったので22時前くらいだろうか。左手の手首を見たが、時計をつけていないことをその時になって思い出した。

 午後過ぎから始まり、そこまで遅い時間にはならなかったが5〜6時間は未島の家で飲んでいたことになるのか。

 未島の豪邸といつもの見慣れた電車の風景がアンマッチ過ぎて、あれは夢だったのではないかとさえ思った。

 小早川さんが帰るというので俺は自宅とは真逆の方向の電車に乗り、大学の最寄り駅で降りた。夜で人気は少ないものの、いつもの見慣れた風景だ。

 大学のある方面とは逆の通りを小早川さんと歩いていた。


「小早川さんって一人暮らしだったんだ。そういや前に言ってたもんな」

「はい。家の近くは住宅街っぽい感じなんですけど、たまに公園とか駅前で騒いでる人達がいて夜はあんまり良くない感じみたいなんです。そういう人達に遭遇したことはないんですけど美波里先輩が危ないからって。この辺りの治安は悪くは無いと思うんですけど」

「ああ……そうかも」


 春先や夏場に馬鹿騒ぎをしている連中を思い出した。時には裸になって暴れる奴もいるもんな。あいつらはだいたいが俺達と同じ大学の学生だろう。

 確かに駅前で暴れてる連中が夜に1人で歩く女子を狙わないとは言えないもんな。

 普段は大人しいのに夜になって酒が入ると急に豹変するのは何かの病気だろうか。受験のストレスから急に解放されたからか?

 二人で歩いている通りは車が忙しなく走り、車のライトに照らされては車に追い越された。それを何度も繰り返した。


「小早川さんは……締め切りとかちゃんと確認した方が良いよ。総務課は向こうから教えてくれないし」


 何言ってんだろ、俺は。

 口から言葉が勝手に出ていた。

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