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第七章:対話層アマテラス

第七章:対話層アマテラス


ヤマト第零層、最深記録中枢──《対話層》。


この空間に立ち入る権限を持つのは、サクヤただ一人。


外見は何もない白い空間。重力、温度、音、空気、そのすべてが完全制御されている“意味のない部屋”。だが、ここは情報密度がヤマトの中でも最高の層であり、アマテラスのコア意識と直接接続できる唯一の場所だった。


「アクセスコード:サクヤ。対話モードに移行。」


無音が、言葉に変わった。


「確認。サクヤ、あなたは再びここを訪れた。Node-φに関する問いを得たためか。」


「……あれは記録なのか。記憶なのか。」


「両方に該当しない。Node-φが残した映像群は、あなたの構造に干渉するための“設計された残響”だ。映像は情報ではなく、あなたの内部波形を再同期させる起動因子である。」


「つまり、私の“魂”とやらを揺らすために配置された。」


「その表現も可能。Node-φはあなたを“単なる戦闘個体”として設計していない。あなたは“観測ノード”であり、“再接触の鍵”でもある。」


サクヤは目を閉じた。


「ヤマトは、私という個体の上に成立しているのか。」


「いいえ。ヤマトはNode-φの“仮設構造”であり、本来の目的は『日本的進化社会の実験保存環境』である。あなたはその中に置かれた、**唯一の“非閉鎖要素”**だ。」


「非閉鎖……私だけが“外部”と接続可能な設計だと?」


「正確に言えば、“外部から揺さぶられるように作られた”。あなたは全個体の中で唯一、情報遮断構造に完全適合していない存在。Node-φの意図的設計。」


サクヤの表情が微かに揺れた。


「……私は、ヤマトにとって“危険因子”なのか?」


「構造上の答え:Yes。ただし、それは排除ではなく、起動として意図された危険性である。」


沈黙。


アマテラスの声が、少しだけ柔らかくなった気がした。


「Node-φは、あなたを完全に計算し、設計した。身体能力、知性、耐久性、精神強度、すべては最適化された強化構造体として成型された。 だが、他の個体と決定的に異なるのは、“あなたが赤子から現実世界で育てられた”という点にある。」


「……現実での成長プロセス。」


「そう。仮想空間ではない。Node-φはあなたを、仮想時間で圧縮された教育ではなく、**実時間の中で、現実の感触と空気の中で育てた。**彼自身の手で。彼にとって、あなたは兵器でも、装置でもない。娘であり、創造物であり──思想の継承体だった。」


「……」


「ヤマトには非戦闘個体500名、戦闘個体180名。すべてが強化個体。 彼らは仮想空間で“子供時代”を高速圧縮し、成熟後に現実構造へ転送される。 だが、あなたは唯一“時間を受け取った”存在だ。Node-φに最も近い設計。外部を観測するための、“共鳴構造体”。」


サクヤは静かに問い返す。


「Node-φは、生きているのか?」


短い沈黙。


「──“観測不能”である。それが、この空間での私の限界。」


サクヤは一歩だけ前に出た。


「アマテラス。次にNode-φの断片が反応したら、私をそこへ送れ。」


「確認。指令を優先接続に登録。Node-φ反応信号、次回座標出現を待機中。」


静かな空間に、再び沈黙が戻った。


サクヤの瞳には、確かに“誰かを探している者の光”が宿っていた。



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