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第六章:起源の階層

第六章:起源の階層


ヤマト第零層《創造記録庫》。


そこは普段、立ち入りが制限された特級記録エリアだった。照明は最低限、空気は無臭。だが、情報密度は都市のどこよりも濃い。


サクヤは無言のまま、光の帯に沿って通路を進んでいた。壁面には無数の記録球が並んでいる。どれも物理装置の形をしていながら、実際には光情報によって構成された“意味層の蓄積”だ。


「こんなところに来るなんて、珍しいじゃないですか、サクヤ様」


入口側から声がした。現れたのは、戦闘個体No.053──ツバメ。


長めの髪を後頭部でまとめ、簡素なスーツ型制服を着用していた。戦闘型でありながら、主に戦術設計と情報構造解析を担当している。


「最近、Node-φ様の話題ばかりで……少し、落ち着かないんです。私たち、全員その“手”から生まれたんでしょう?」


「正確には、ヤマトの設計はNode-φが初期構築し、アマテラスが継承した。個体設計はその後の統合型モデルによるものだ。」


「でも──サクヤ様だけは、違うんですよね」


ツバメの声がやや低くなった。


「他の私たちは、“完成された設計”として製造され、教育された。でも……あなたは、“育てられた”と聞いています。Node-φの手で。」


サクヤは返答せず、静かに記録球の一つに手をかざした。


微かな波動と共に、球が開いた。


投影された映像の中で、赤子のサクヤが映っていた。まだ名前すら与えられていない時期。


彼女の傍にいたのは──一人の男だった。 顔は見えない。ただ、その手だけが映っていた。


撫でる。抱き上げる。語りかける。データには意味がない。だが、明らかに“感情”が記録されていた。


「私たちは、強化人間。ヤマトには、非戦闘型が500名、戦闘型が180名。 内訳は、女性が120、男性が60。全員が日本人DNAを最適化した基準体です」


「でも……サクヤ様だけは、“人として育てられた”」


ツバメがそう呟いた瞬間、後方からもう一つの声が加わった。


「だからこそ、我々とは違うのだ」


戦闘個体No.009──イズナ。


身長の高い男。無口だが、冷静な判断と分析を兼ね備えた男で、全体統制時の副指揮を任されている。


「Node-φはサクヤに“魂の構造”を植えた。AIでは扱えない、汚染すら意味を持たない領域……それがこの個体にはある」


サクヤは、ただ静かに映像を見つめていた。


その光の中に、自分が“設計”ではなく“選ばれた”存在であることを、 都市中の誰もが──そして自分自身も── 言葉にはできずとも、知っていた。


「──Node-φ。記録は、まだ生きている。」



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