第二章:静寂に響く命令
第二章:静寂に響く命令
都市の時刻は午前四時。ヤマトはまだ夜の呼吸を続けていた。
サクヤは無言で通路を歩いていた。壁は滑らかで白く、構造体としての継ぎ目すら存在しない。光は天井のパネルから均一に降り注ぎ、影を作らない。静かで、冷たい。だが、この空間のすべてが“完璧”だった。
彼女の足音だけが、唯一の動的要素として空間に溶けていく。
ヤマトは階層構造を持つ。ここは第七層、生活区と観察区が混在する静かな領域だ。
白い制服を着た非戦闘型の少女たちが数人、廊下でサクヤを見つけると小さく一礼した。動きに乱れはなく、全員がまるで訓練されたような静けさを保っている。
「サクヤ様」
柔らかい声。だが敬意と誇りを孕んだ響き。
彼女たちは皆、サクヤに絶対の忠誠を持っていた。 それは命令によるものではない。ヤマトの精神構造そのものが、彼女を“象徴”として設計している。
サクヤは彼女たちに軽く首を傾ける。言葉は発しない。だが、その一動作だけで、場はさらに静謐に染まる。
さらに進んだ先、格納庫区画に差し掛かると、戦闘個体の一人が立っていた。
身長190センチを超える男。黒髪を短く刈り込み、眼差しは鋭い。 アーマーを着用していなくても、その肉体には“武器”としての気配が漂っていた。
「サクヤ様、巡回中でしょうか」
その声は低く、静かに震えていた。
「任務の有無は確認していない」 サクヤは答えた。
彼は深く頷き、目を伏せる。
「我々は、いつでも準備はできております」
サクヤはわずかに視線を流しただけで、彼の言葉の真意を読み取った。
──ヤマトは眠ってはいない。 いつでも起動し、いつでも世界を変えられる。
その歩みを再開しようとしたその時、
周囲の照明がわずかに色を変えた。青から白へ。
アマテラスの声が、空間のすべてに響く。
「緊急任務コードNo.Δ-2024-A、対象:サクヤ」
歩みが止まる。
少女の瞳が、わずかに揺れた。
「任務内容を開示しますか?」
静寂が、都市に降りてきた。
サクヤは答えた。
「……開示せよ。」