時也の過去2
少々、残酷な描写や拷問などが含まれているので、ここだけ章を切りました。
よろしくお願いします。
始まりは、大学の休校を理由に都会から里帰りしたユキさんの発症からだった。
村の老人が数人亡くなったのを皮切りに、災害と呼ぶに相応しいほどの水害や土砂崩れが立て続けに起こり、村は数日間外と孤立したのだ。
孤立化そのものはすぐに解消されたが、安穏だった暮らしに落とされた暗い影は、住人達の不安と恐怖の種となった。
一つでもその種が埋められると、人から人へ簡単に伝播する。
そして、あっという間に村全体がカセンコの信者という異常な事態が起こってしまったのだ。
勿論、時也も祖母に連れられて入信させられた。
初めの頃は祖母の気が済むならと、教団の教えに従っていたが、次第に浄化という名目で、莫大な金品を信者達に要求するようになって来れば話は別である。
「呪いなんてあるわけねぇだろう。バカバカしい」
ハッキリと施設内で叫んでからは、地獄だった。
人一番、体格が良く血の気の多い時也に抵抗されては厄介だと考えたのだろう。
先ずは弱らせることが先決だと、信者達は思ったらしく。
時也は時計もない狭い部屋に一人閉じ込められて、理由もない暴力と罵倒される日々を受けた。
時折りカッとなって、やり返してやろうと思い立つが、祖母を人質に取られている状態では手も出せず。歯を食いしばって、痛みに耐えるしかなかった。
来る日も来る日も、体がボロボロになるまで殴られ、蹴られ罵倒された。睡眠は最長でも四時間しか取れず、常に寝不足だ。
そんな中で、年頃の女を当てがわれたことがある。極限状態の体力と精神力の中での強烈な快楽は麻薬を使わなくとも、同じ効果を発揮する。
こんな生活を続けていれば、普通の人間ならば、心がポッキリ折れているだろう。
しかし、驚くべきことに時也の体は人一倍丈夫で、精神力も人並み外れていた。
謂れのない暴力に耐えに抜くこと一ヶ月、何の前触れもなくそれは終わった。
「おめでとう。君の魂は浄化された」
そう言われて、部屋から出されるとたくさんの信者達から盛大な拍手を時也は浴びた。
身体中、痣と鬱血だらけの惨憺たる時也の姿を見ても誰も心配してくれない。
聞こえて来るのは「おめでとう」や「よく頑張った」という声だけだ。
時也はその中に祖母を姿を見つけたが、その顔には喜色満面の笑みが浮かんでいた。
幼い頃、時也が転んで膝を擦りむいただけで、泣きそうになるくらい心配してくれたのに────
狂ってる、と、尋常ではない拒絶と嫌悪に襲われた。
次の日、髪を黒に染め直すと言う名目で、一時帰宅を許された時也は髪の毛を金髪に染め直した。
俺はお前らには決して屈指ないという意思表示であったが、逆にそれが不味かった。
時也は祖母の手料理によって眠らされた。
「即効性じゃなかったらしくてよ。しばらく悶え苦しんでたら、座布団を顔に押し当てられた」
お願いだから大人しくしてっ、と、悲鳴をあげる祖母の声が、ずっと時也の耳には残っている。
決して振り解けない力ではなかったが、時也は抵抗をしなかった。
しばらくして、時也は目を覚ますと周りには豪華なご馳走に、不気味な信者達に、抵抗できないよう縄で締め上げられた自分の体。
そこから先は、口に出すのも思い出すのも悍ましい。