8 市場にて
黄色い落ち葉を踏みしめて歩く。
銀杏並木が美しいこの道がローズは気に入っていて、この街に住み始めたときから紅葉するのを楽しみにしていた。
(本当は、手を焼いた依頼がやっと片付いたから、今日は二度寝をして、朝食兼昼食を食べてから、のんびりと午後に散歩で来る予定だったのにな)
チラリと、隣を歩く人を見る。
ローズの歩調に合わせて歩くその人は、ずっと無言のまま。
ローズもまた、ただ黙々と市場に向かった。
この街で三つあるうちの一つ、街の外れにある市場にやって来た。正式名称があったらしいが、その市場の商品が武器や人であったため、裏市場または奴隷市場と呼ばれている。
名前を聞いただけで怖そうな雰囲気が伝わって来たので、ローズは来たことはない、はずだった。
「場所はわかりますか?」
市場の入り口で問われ、ローズは小さく唸った。
「全然、思い出せない…」
意外にも市場は人の出入りが多かった。
丈夫そうな革のテント作りの店が両脇にならび、中の商品も女性物のアクセサリーやきらびやかな異国の服もある。
凝った装飾の大剣が店先に置いてあるから武器屋かと思えば、刃物屋なのかその隣にはよく切れそうな果物ナイフが置いてあったり。
「一番奥ですよ。手前は一般客向けなんです」
「成る程」
確かに、想像と違っていた。これなら、酔って裏市場と知らずに来たら、見慣れない異国の商品に興味を持ち市場に入っただろう。
そのことを隣の男性に話すと、彼は頷く。
「えぇ、時折そんな感じで入ってきて、驚いたように帰っていく客もいますね」
市場は広く、飲食店・雑貨・武器・その他と大まかに十字で区画を分け、またそこからいくつか列を作って店が並んでいるらしい。
買い物客を避けながら、ひたすらまっすぐ歩く。
売り子が客寄せをしていたり、何かのパフォーマンスをしている店を通り、試食のお菓子を断ったりとなかなかに繁盛していたが、ちらほらと武器屋が増えてきた辺りからひと気が減ってきた。
更に進むと武器屋も装飾品めいたものから、本格的な武器にかわり、この区画の一番端の店では中古の錆びた斧が置いてあるだけだった。
「向こうにあるのが、奴隷を売ってる店です」
喧騒すらも聞こえなくなった頃、それは見えた。
レンガ造りの店がいくつも立ち並び、普通の店と同じような外観だが、普通の店なら商品が置かれている場所や窓には鉄格子が嵌められていた。
「ここが…」
「はい。ただ、何か…」
今まで案内をしていた男性が顔をしかめた。
ローズも店の前に立つ。
店には誰もいなかった。