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7 空のティーカップ
「そろそろ市場が開く頃でしょう?」
部屋に置いている貰い物の時計は八時を指していた。
「…ごめんなさい」
ローズは目を伏せて言った。
ローズのハーブティーが入ったカップも空で、スッキリしたレモンのお陰か頭痛も治まっていた。
「間違って買ったのなら『返品』するのは当たり前でしょう」
なんでもないことのように言われ、ローズは返す言葉がなにも浮かばなかった。
「美味しい手料理を振る舞ってくれたお礼に一つ」
「?」
「このあとのことはどうであれ、この枷にあなたの魔力が込められている今はまだ、あなたが俺の主です。だから、命じるだけでいい」
「…分かった」
普通なら、自分の人生を振り回してと怒っても良いはずなのにそんなことを言う。
でも、怒らないのは優しいからでも寛容だからでもない。ただ、奴隷の扱いはそう言うものだ、と彼はいっているのだ。
一つ大きく深呼吸をする。
「出かけるので、ついてきて」
「はい」